耐候性鋼材などの診断、補修技術も検討
橋の架け替え3原則、橋の減築を提唱
一般財団法人 土木研究センター
理事長
西川 和廣 氏
橋の減築 無駄を省いて集落を維持
住宅の減築から連想、少ない額で維持管理
――そこで、昨年からは「橋の減築」を唱えられていますね
西川 住宅分野では、子供たちが独立した後に広い家をもてあましている年寄り夫婦が増加し、管理が大変だという理由で二階家を平屋にするなどの「減築」をするケースが増えています。これを橋にも適用できるのではないかと考えました。
私が本省にいた30年前は、一次改築と称して幅2.75㍍のトラックがすれ違える5.5㍍以上の幅員に改築して、センターラインが引ける道路にしようという目標がありました。橋も同様で、さらに歩道も設置していきました。
しかしそうした対応をした結果、2車線分の幅員に設計活荷重を載荷して設計しなければならなくなったため、最新の基準に対して許容応力度を超過するようになっています。活荷重とは関係のない損傷を補修するときも、交通量に関係なく2車線分の荷重を載せて持つように補強しなくてはいけない。これは壮大な無駄ですよね。
昭和30年頃、将来の人口増を念頭に道路橋示方書はほぼ現在の形に整備されました。しかし現在は、人口は減少の段階になり、車の数も減っています。そんな時代において、ほとんど車がすれ違うことがない橋梁の2車線を維持してもしょうがないでしょう。たとえばカラーコーンを並べて1車線しか通れないようにすれば、1車線道路とみなせます。そうすれば、補強工事をすることなく道路構造令、道路橋示方書を満たすことができます。そういう意味で「減築」を提案したものです。買い物難民対策など最低限の公共サービスの提供を必要とする限界集落等にあっては、こんな工夫も必要だと思います。
また、「現状維持工事」というのも提案しています。
現状維持工事も提案(写真はイメージです)
現状維持工事を提唱
――それは具体的にどういうものですか
西川 直轄国道では道路維持工事と称して道路のパトロールや清掃、小規模な補修を地元の企業と年間契約で実施していますが、それをもじったものです。地域の橋の維持管理を地元ゼネコンに引き受けてもらい、損傷が出てきたら、元の強度より上げない(今通行している車両が通れるレベル)、即ち資産価値を高めない範囲で、手を入れるものです。言わばだましだまし使っていく維持管理方法です。現状維持ですから、必ずしも最新の示方書に基づく必要はない、という論理です。限界集落の橋でもこの程度のお金であれば使ってもよいのではないでしょうか。
――現実的だと思います。地方の道路では、本橋の傍らに歩道用の側道橋をかけているケースもあります。また仰られたように、本橋に歩道を拡幅して追加したような橋もあります。側道橋では維持管理負担が2橋分になるし、拡幅では歩車境界部からの漏水などによる損傷も出てくる……
西川 あるいは下部工に偏心がかかるような橋梁もある
――そうした個所では側道橋を落として……
西川 本橋を1.5車線化して余ったところを歩道にし、拡幅部を落とすということも考えられるわけです。ついでに耐震性能も少しですが改善されます。
――まさにそうです。脆弱部を落とすことで一石二鳥の効果が得られる
西川 そうした知恵を国交省や地方自治体の担当者が持ってもよいのではないか、と思います。少なくとも安全を脅かさないという範囲で認めてやればいいと思うのですが、今の所、まだ点検の義務化を果たしたばかりの道路局にはそこまで考えるゆとりがなく、都道府県以下の担当者は頭を抱えてしまうことになる。しかしそれは現状を放っておくことになるわけで、余計危ないのです。
――現道路局長は、その点で共同記者会見でも話されたように柔軟な感じがします
西川 私も期待しています。森局長は道路の維持管理について真剣に腐心されていると思います。