市管理は2,200橋、15㍍以上は224橋
神通大橋(旧橋)。永代橋などが50年経過
――次に富山市が所管する橋梁の長寿命化対策の進捗状況を教えてください
植野 市が管理する橋梁は、約2,200橋あり、うち15㍍以上の重要橋梁は、224橋にのぼります。20年後には、建設後50年以上の橋梁が半数を超えるなど、今後、劣化した橋梁が急増することとなるため、橋梁の長寿命化に向けた計画的な修繕・更新が必要です。
具体的に50年経過(S36以前)した橋梁としては、 安住橋、神通大橋(旧橋)、永代橋、40年経過(S46以前)は 塩倉橋、八田橋、神通大橋(新橋)、八幡橋、30年経過(S56以前)は 呉羽橋、高田橋、開発陸橋などがあります。今回はこのうちの八田橋を架け替えますが、同様にゲルバーを有する永代橋、橋脚にASR起因の損傷を有する神通大橋(新橋)などでも損傷の進行状況を点検しつつ、架け替えないしは 大規模な修繕を検討しています。
富山市の30年以上を経過した主要橋梁
永代橋
永代橋の損傷状況
ASR損傷が多くを占める
進展期も少なからず存在
――損傷の状況は
植野 富山ではASRを主因とした劣化、鋼橋は塗膜の劣化が目立ちます。ASRは軽微なものを全て入れると7~8割ぐらいに到達していると考えられます。伸縮継手、床版の損傷も少なからず見られます。コンクリート部の損傷については、施工に起因する不良、ジャンカや被り不足を原因とする劣化も多くあります。
神通大橋では特にP2橋脚で大きなASRを起因とした損傷が出ており、経過を観察中です。場合によっては富山県が行った有沢橋の橋脚の打替えのような大規模な対策も必要かもしれません。
神通大橋(旧橋)
ASRで損傷した神通大橋(旧橋)のP2橋脚(左)/損傷部の拡大写真1(右)
損傷部の拡大写真2,3
――ASRはほとんどが終局期ですか
植野 進展期のものも少なからずあります。対策方法としてはひび割れ注入および表面被覆工を採用しています。加えて水の供給がASRを促進するため伸縮装置の非排水化や床版防水の設置を進めています。ただ伸縮装置の非排水化に関しては機能が持つ期間を限定的にとらえており、最近は伸縮装置の下に雪荷重の押し抜きにも耐えうる受け樋を設置し、支承や桁端部など構造物に水を供給することなく下に落とすことのできる二重の止水機構を採っています。また、伸縮部の地覆から水が漏れることもありますので、伸縮装置はアップスタンドタイプを採用していくことを考えています。
――どのように直していくのか
植野 基本的には重要橋梁224橋を中心に予算ベース、交通量、路線の重要度を吟味しながら損傷に応じて修繕もしくは更新していく予定です。また、平成24年当時に作成した長寿命化修繕計画を見直し、より実態に即したブリッジマネジメントシステムを現在構築しています。システムだけではなく、仕組みの問題も考慮しています。
現在までに平成24年度で6橋、25年度で10橋、26年度で11橋、27年度(11月6日現在)で9橋対応しています。(内容は下表)
特徴的な技術・工法としては高熊橋でIPH工法、西山本橋で外ケーブル補強をそれぞれ採用しています。
「橋梁の閉鎖」は困難 トリアージで対応
「そこに住んでいる市民」との対話が重要
――仕組みとは
植野 職員の教育の問題や発注の方法、設計施工のやり方など全てを含めた仕組みです。それから情報システムですね。現在の橋梁台帳に多くの不備がありますので、マネジメントシステムを回すために必要な項目の精査を行っています。最も、頭が痛いのは財源不足です。これは、全ての自治体共通の問題かと思います。限られた財源で、膨大な橋りょうをはじめ、他の施設の維持管理を行っていかなければならないという大きな課題がありますので、より効率的な「しくみ」へ舵を切る必要が有ると思います。
昨年度から近接目視が義務化されました。当市は2,200橋管理していますから、毎年440橋ずつを近接目視で点検する必要があります。以前より点検費用は明らかに増大しており、これへの対応、また確実に今後増加する補修補強費用への対応も必要です。
点検で維持管理が収束するのではなく、問題はその後にあります。
――しかし点検は大事ですよね。八田橋の例もある
植野 そうです。点検の精度は近接目視の義務化により確かに向上しています。点検を委託した業者の技術力というか? 信頼度が重要ですし、後は上がってきた成果を、正確か、より詳細な点検が必要か、補修が必要なのか、緊急か否か、など適切に判断できる能力を我々が持てなくてはいけないと考えています。
――近年は橋梁のアセット的な取捨選択の必要性も中央を中心に議論されていますが
植野 それは直轄の論理です。県、市と住民に近づくにつれて、橋梁の閉鎖を言い出すことの困難さが増していきます。住民視点で考えれば、橋梁の取捨選択というのはなかなか困難です。
――そうすると橋梁の荷重レベルや維持管理レベルの現場に合わせた設定というのが次善の策として考えられますが、それは
植野 それは必要です。医療の世界でトリアージという言葉がありますが、そうした考え方で行こうと考えています。しかしそれも当該地域に住まわれている方の感情を損なわないように慎重に対応していく必要があります。
先ほど点検の重要性について話しましたが、一方で費用的には(5年に1回の近接目視の導入に伴い)1年間で1億5,000万円とかなり重い負担が生じています。トリアージは補修補強の対応だけでなく、点検頻度なども含めて議論する必要があるのではないでしょうか。
ちなみに(解析、設計含む)補修補強費用は今年度20橋、10億円弱かかっています。補修補強費用は増減がありますが、点検費用は現在のやり方では毎年必ず同額の費用が生じるわけで、予算に余裕のない基礎自治体にとっては頭の痛い問題です。それに予算が増えても、対応する人員(富山市は橋梁担当は4人)も増加しているわけではありませんので捌ける業務量には限界があります。
――2,200橋、1年に440橋ですか。4人で割ると1人100橋以上。大変ですね
植野 大変です。この4人の負担が大きいので、今年度からは、建設政策課の方で、維持管理計画や、特に問題が顕著な橋梁、特殊な橋梁の詳細点検などを担当してもらってます。現在は、橋りょう係は4人ですが、将来は増強を念頭に入れてます。
――今後架け替えは
植野 予算ベースで考えていかなければならないのが実態です。1年に1橋ペースを考えていますが、「橋梁長寿命化修繕計画」から一歩踏み込んだ、橋梁マネジメント・システム。つまり、より計画的で実態に合ったな橋梁の維持管理の「富山市スタイル」を考えていきたいですし、また、架け替えと新設も考えていかねばなりません。
架け替えについては、八田橋のほかに現在、道路河川整備課の方で、大島橋の架け替えを行っています。橋長は70㍍ほどで上部工形式はプレビーム合成桁を採用しています。現在は橋台部の施工を進めています。
架替え中の大島橋
――ありがとうございました