富山市は、平成24年に橋りょう係を新設し、老朽化する橋梁の補修、補強あるいは架け替えを適切に進めるよう長寿命化修繕計画の立案やブリッジマネジメントシステムの整備を進めている。その甲斐あって、国土交通省が平成27年度から創設した地方自治体向け大規模更新・修繕補助制度では、配分額で最大の3億7千万円を獲得し、所管する八田橋の架け替えに充てることが認められた。その話題を中心に塩害やASRなどで損傷している橋梁の今後の対策などについて詳細を、財団法人国土技術研究センターや民間で橋梁エンジニアだった、同市建設部の植野芳彦建設技術管理監に聞いた。(井手迫瑞樹)
当初は補修考慮もLCCで架け替えが有利と判断
もともとは木橋だった?八田橋
――八田橋の現況から
植野建設技術管理監 現橋は橋長30㍍程度の3径間RCT桁橋のゲルバー桁です。ゲルバーはP1とP2のいずれも中央側に有します。過去2回の点検で、請け負った点検者が、このゲルバーがあることを認識していなかったようです。土木学会の小委員会で、当市所管の重要橋梁30数橋を見ていただいたのですが、そこで八田橋がゲルバー構造を有する橋梁であること、およびゲルバー部の損傷が激しいという結果が出ました。
八田橋 側面から写す(左)/損傷が激しいゲルバー部(右)
緊急対策が必要ということで、当初は補修の計画を立てていたのですが、1日約20,000台という交通量の多さ(による損傷の進行)とLCCを考慮すれば架け替えたほうが良いのではないかという判断に傾きました。また、後でわかったことですが、八田橋の上部工はもともと木橋で、これを(下部工や基礎工に手を入れず)RC桁に架け替えた可能性が、OBの話から出てきました。
――現橋に架け替えたのはいつですか
植野 昭和30年3月です。つまり橋齢は60年に達します。設計活荷重も13㌧で重交通にも耐えません。対応している道示も昭和14年ですので、再度架け替える判断に至りました。
一方で八田橋は橋梁の真ん中に富山ライトレールが走っております。これはRC桁ではなく、同形式の橋梁の真ん中を切り欠いて新たに鋼桁をかけているものです。今後、ライトレールの複線化に伴って、橋の袂に電停を設ける計画があり、その計画が進むと架け替えは一層困難になります。そのため今回のタイミングで架け替えることにしました。
八田橋の平面図(架替)
中央をライトレールが走る
単純ポータルラーメンプレビーム合成桁を採用
3点載荷のプレフレクション、KKフォームを用いる
――架け替えはどのような計画ですか
植野 元々は木橋であったため30㍍程度の橋長でありながら径間を3つも有していたわけですが、現在の技術や河積阻害率(県管理のいたち川を渡河する)を考慮すれば橋脚は不要なため単純桁に架け替えます。橋台の位置は現状から両端ともに若干後ろへ下げます。
上部工は単純ポータルラーメンプレビーム合成桁橋を採用、架替橋は橋脚と縁が切れている
上部工は単純ポータルラーメンプレビーム合成桁橋を採用します。橋長は36㍍程度になります。ポータルラーメンを採用することで維持管理構造上弱点となる支承や伸縮装置を省略しています。設計はアンジェロセックが行い、製作・工事は上下部一括で発注しており、佐藤工業を筆頭としたJVが受注しています。(議会承認を受け、業者が決定する予定です。)
――当初からプレビーム合成桁の方針だったのですか
植野 設計業務を発注するに当たり、橋梁形式の提案を含めたプロポーザル方式で設計業者を選定しました。そこで選定された当初形式はダックスビームのポータルラーメン橋でしたが、斜角があることから、より現場に適しているプレビーム合成桁を採用したものです。工夫としては、通常の2点載荷のプレフレクションではなく、(高岡市の千保川渡河部の木津橋などで実績のある)3点載荷のプレフレクションを採用し、2点載荷に比べ桁高を1割弱抑制しています。剛結構造であるため上下部の取合部は非常に過密な配筋となっており、コンクリートの打設も気を付けていきます。
また、アーチフォーム(KKフォーム:押出し成形法により製造された繊維補強セメント板)を使用することで、施工の省力化、耐久性の向上を図っています。
CIMを採用し念入りにシミュレーション
住民説明時にも効力を発揮
――架け替え手順は
植野 上流側から現橋を落とし、架け替えていきます。現在は片側2車線の道路であり。上流が施工時は下流側、下流側施工時は上流側をそれぞれ対面通行にします。仮橋は架けるスペースがなく設置しません。具体的には①上流の上部工を撤去し、橋台を新設、②新しい上部工を架設、③下流の上部工を撤去し、橋台を新設、④新しい上部工を架設、⑤旧橋の下部工を撤去という流れになります。今年度から施工に入りますが、今年度一杯は交通の切りまわしや渋滞を抑えるための信号プログラムの改良、中央部にある鉄道桁への影響の把握(鉄道桁から4㍍の離隔しかない箇所に橋台を新たに設けるため施工時・完成時に変位が生じないようにするための調査)など準備工を予定しています。
CIMを活用して念入りにシミュレーションした。その後の維持管理活動にも活用していく予定だ
順番は左上から順に右に流れ3枚、その後2段目の3枚という順に見てください(編注)
調査設計・施工を考慮するにあたってCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)を採用し、念入りにシミュレーションしています。さらに、今後、施工時および、その後の維持管理に活用していきたいと考えています。さらにCIMの付加価値としては、住民説明時にも効力を発揮しています。