衣浦大橋(上り線)と立田大橋で鋼床版に疲労亀裂
立田大橋では補修後も亀裂が進展
――鋼床版の疲労亀裂に関する詳細調査および要補強対策工は
山田 当県に鋼床版形式を有する橋梁は約60橋あります。
鋼床版の疲労亀裂による損傷事例は2橋あります。一つは、衣浦大橋上り線(橋長413㍍、鋼床版箱桁)でUリブ突き合わせ部に亀裂が生じていました。もう一つが、木曽川に架かる立田大橋(橋長966㍍、鋼床版箱桁)で、鋼床版と垂直補剛材の溶接部に亀裂が生じていました。また1個所ですがデッキプレートを貫通する亀裂もありました。
写真12 立田大橋
写真13、14 垂直補剛材とデッキプレート接合部の亀裂
写真15 当て板補強(左)/半円孔施工(右)
特に立田大橋は垂直補剛材上端に半円を開けて応力集中を開放する対策を668箇所で行いました。同時に、前述の貫通部に当て板補強を行い平成20年度までに完了、21年と26年の2回に渡って亀裂の進展状況調査を継続していますが、26年度の調査において進展が確認されたため、今後は詳細調査、補修設計を実施する予定です。
――コンクリート桁・床版の損傷状況は
山田 剥離・鉄筋露出が最も多く、次いで浮きや抜け落ちの順になっています。
グラフ8 E判定のコンクリート桁・床版損傷状況
グラフ9 橋梁の補修補強実績および今年度予定
全く防水工がないRC床版もある可能性
塩害補修ではN-SSI工法を採用
――RC床版の補強は3年間で6橋と少ないようですが
山田 現在はE判定の橋梁を優先的に行っています。床版補強のような予防的な保全は、E判定の対策を終えた後にやっていきたいと考えています。
――床版防水の施工状況は把握していますか
山田 床版の耐久性を高めるために水や塩分を遮断する防水工は重要です。当県では平成14年から防水工を実施しています。新設橋はもちろん、既設橋でも舗装の全面打ち替え時に床版防水層の施工を同時に行うことを規定しています。床版防水の敷設率については把握できていません。全く防水工がないRC床版もあると考えています。
――塩害やアルカリ骨材反応による劣化(ASR)は
山田 塩害やASRによる損傷の症状は、「ひび割れ」、「剥離・鉄筋露出」などが挙げられます。当県では、橋梁点検でそうした損傷が確認され、塩害やASRが疑われる場合、判定区分をSとし、詳細調査を実施して原因を判断します。
しかしS判定にした損傷はほとんどの損傷程度が軽微で経過観察としていることが多いため、塩害やアルカリ骨材反応が原因で損傷している橋梁の全体数は把握できていません。ちなみにS判定のうちひび割れは678橋、剥離・鉄筋露出は120橋が該当しました。このなかに塩害やASRにより損傷している橋梁も含まれると思われます。
――具体的な損傷部位は
山田 塩害では主桁・横桁、橋台・橋脚、ASRは橋台・橋脚で損傷が確認されました。塩害補修は24~26年では2橋で実施、今年度は1橋を実施予定です。ASRは、過去3年は実績がなく、今後、1橋を施工予定です。
――対策工法は
山田 損傷の程度によりますが、過去において損傷が厳しかった個所ではN-SSI(塩分吸着剤を用いた断面修復工法)工法を用いた東海市の新横須賀橋(下り線)のようなケースもあります。
写真16 新横須賀橋
写真17 新横須賀橋の損傷状況
写真18 SSI工法で補修した桁端部と橋脚
今年度は、塩害による鉄筋膨張、コンクリートの浮き剥離が生じている田原市の大山川橋で断面修復工を施工する予定です。また、対策時期は未定ですが、橋脚、橋台がASRにより損傷している高浜市の国道247号汐留橋では、ひび割れ注入工および表面含浸工を施工する予定です。
写真19 大山川橋とその損傷状況
写真20 ASRによって劣化した橋脚
殿橋、日名橋でノージョイント化を施工
――支承やジョイントの取替えは
山田 支承は特に排水型伸縮装置の下にあるものに錆が生じており、塗り替えや取替えを順次行っています。
今年度は岡崎市の日名橋で線支承をゴム支承に、豊田市の足助新橋(支承種類は検討中)、豊根村の山中橋で線支承を小型ゴム支承に、豊川市の永久橋(下り線)でローラーおよびピン支承をゴム支承にそれぞれ取替える予定です。
表 支承取替を予定している橋梁一覧
ジョイントの取替えは21橋で予定しています。非排水形式のジョイントに取替えるものです。
ノージョイント化は一般県道岡崎幸田線の殿橋(RC単純T桁12連、約113㍍)で炭素繊維成形プレートおよび鋼板接着により上部構造を連結する工事を施工中です。同橋は元々岡崎市電の橋梁として昭和2年に供用され(市電は戦時中の空襲で焼失し、その後は道路橋として活用)、約90年を経過しています。今回の工事では旧軌道部の床版増厚も行っています。
図 殿橋の補強イメージ(左)/日名橋の補強イメージ(右)
写真21 殿橋の補強(褐色部は上面を炭素繊維プレートで補強、白色部はSFRCで増厚補強、写真左)
写真22 SFRC増厚部の補強(中)/写真23 炭素繊維プレートを上面に貼り付けて補強
写真24 殿橋の袂から全景を写す
もう1つノージョイント化を行っている橋梁は、主要地方道名古屋岡崎線の日名橋(鋼9径間連続鈑桁、両側に単純合成鈑桁、381㍍)です。同橋は昭和38年に供用され52年が経過しています。ゲルバー部(8箇所)を当て板溶接により連結する工事に合わせて、床版を連結する予定です。
写真25 日名橋の遠景(左)/写真26 損傷しているゲルバー部(右)
「鉛等有害物含有塗膜除去の心得(暫定版)」を作成
塗り替えは基本1種ケレンを施工
――鋼橋塗り替えの昨年度実績と今年度の予定、またPCBおよび鉛含有塗装の有無とその対策は
山田 平成26年度は22橋75,700平方㍍で施工しました。今年度は16橋20,500平方㍍で施工する予定です。基本的に1種ケレンで対応します。
PCBおよび鉛の含有の有無は橋梁台帳ではその記録がないため、確認できません。ただ、PCBは昭和42~49年頃までの間、塩化ゴム系塗料の一部に塗膜の柔軟性や安定性を維持するための可塑剤として使用されています。加えて塩化ゴム系塗料の製造設備が他の塗料製造に使用されたことから、塩化ゴム系以外もしくは使用禁止以降の塗料にも微量のPCBが混入されている可能性もあると考えています。既存塗膜の検査時にはそうした可能性も念頭に置く必要があると考えています。
――鉛含有塗膜の除去については、全国に先駆けて「鉛等有害物含有塗膜除去の心得(暫定版)」を作られましたね
山田 今年の3月に作成しました。作成に当たっては、愛知県以外の都道府県にアンケートをかけましてお答えいただいたものを参考にさせていただきました。
この心得は26年5月30日に首都高速の塗り替え現場で作業員が鉛中毒を発症したことに対応するため厚生労働省が通知した「鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について」に対処するものです。有害物質(主対象はPCB、鉛化合物、クロム化合物)を含む塗膜くずを適正かつ確実に処理することを目的として策定しました。
本心得は、塗膜の事前・事後調査の方法、除去作業に係る規制や廃棄物処理に係る規制・取り扱いについてまとめました。まだまだ最低限のもので至らない点はあると考えており、運用していく中で内容を充実させていきたいと考えています。
――もう少し具体的には
山田 心得では、①事前調査は必ず「塗り替え施工を行う前年度に実施」すること、②施工時は塗膜くず処理時など各段階で適用される関係法令、対象とする有毒物質とその基準値、③事後調査は塗膜くずが特別管理産業廃棄物として取り扱うか否かを判定するため、最終的に廃棄する形状の塗膜くずを試験することを基本にする、④施工後の塗膜くずの取り扱い、などについて記載しています。なお、ケレンは基本的に1種を原則としています。事前調査の際の塗膜の抜き取りは1橋につき3カ所を基本としています。また、再塗装で使用した塗料についても、微量にPCBが含まれる可能性があることから、ロット毎に含有量を計測することとしています。
――対策工法は決めていますか
山田 塗膜剥離剤や循環式エコクリーンブラストなどの工法があることは把握しており、状況に応じて検討していきます。
――耐候性鋼材を採用した橋梁では、一部で使用した箇所の環境その他の要因により損傷しているケースもあると伝わっています。愛知県では耐候性鋼橋の損傷事例はありますか
山田 当県の耐候性鋼橋は50橋あり、概ね保護性さびは有効な状況です。ただ凍結防止剤散布の影響があると思われる山間部(設楽町、豊根村、新城市)で6橋、飛来塩分の影響があると思われる地域等で4橋、防食機能の劣化が確認されていますが、いずれの橋梁においても構造安定性を著しく損なうような損傷はみられていません。なお、桁端部は防食機能の劣化を生じやすいため、補修により塗装を施した橋梁が7橋、新設時から塗装している橋梁が2橋あります。