乾式吹付工法を応用した手法で施工するPCM舗装
RC床版上面増厚の新工法と新材料を開発
首都高速道路株式会社
技術部 技術推進課 課長代理
蔵治 賢太郎 氏
PCM舗装厚は50㍉で舗設
高耐久エポキシ系接着剤は端部側面にも塗布
――工程は
蔵治 施工手順はまず、コンクリート床版上のアスファルト舗装を切削機で剥ぎとります。その後、ショットブラストで表面を研掃し、エポキシ系の浸透型防水材を含浸させて既設床版のひび割れを塞ぎ、4号珪砂を撒いた上で、高耐久エポキシ系接着剤を床版上面全面と端部側面に塗布します。その後PCMを50㍉厚で舗設し、接着剤塗布後にタイヤ付着抑制型アスファルト塗膜系防水材を塗布します。表層には4月23日にリリースした新舗装設計施工要領で正式採用した損傷対策型の小粒径ポーラスアスファルト混合物(5)を舗設して完成です。この排水性舗装はPCM舗装との接着面積が大きい事から層間接着力および剥離抵抗性が高く、ポットホールができにくくなっています。
PCM基層舗設までの工程
平成8年道示レベルまで引き上げる補強効果
ビニロン繊維を採用
――低弾性のPCM舗装では床版は補強されないのでしょうか?
蔵治 現在までに付着強度試験、付着疲労強度試験、曲げ強度試験、曲げ強度疲労試験のほか、①厚さ190㍉の床版上面を20㍉削り、その上に厚さ50㍉の鋼繊維入りPCM舗装を舗設した供試体、②厚さ190㍉の床版上面を20㍉削っただけの供試体、③厚さ190㍉の床版上面を20㍉削り、その上に厚さ50㍉のビニロン繊維入りPCM舗装を舗設した供試体、の3体で輪荷重載荷試験を実施し、補強効果を確認しています。
鋼繊維入りの配合例
ビニロン繊維入りの配合例
配合例
輪荷重載荷試験の結果、鋼繊維入りPCM舗装は、予想した疲労破壊走行回数を経ても破壊する様子が見えてこなかったことから、試験機の借用期限が迫っていたため、荷重を大きく上げて押し抜きせん断で強制的に破壊しました。しかし、PCM補強層は破壊に至るまで層間剥離を起こさず、せん断破壊に至るまでPCM舗装にひび割れは生じませんでした。
ビニロン混入PCMは曲げ強度、タフネスとも鋼繊維混入PCMに優れている
(左)圧縮強度と弾性係数の関係(同じ圧縮強度でもPCMはコンクリートより弾性係数が低い)
(右)付着強度試験結果
(左)付着強度疲労試験結果(応力振幅1.4N/平方㍉(0.1~1.5N/平方㍉)。周波数10Hz、耐荷回数200万回
(右)曲げ強度試験結果
そのため、今度は十分な借用期間を確保し、上面が削られた状態の床版と、削られた後に上面にビニロン繊維入りPCM舗装を舗設した供試体を作成して、道路橋示方書の階段載荷により補強効果を確認しました。その結果、PCMは鋼繊維入りもビニロン繊維入りも既設床版のひずみに追従し、層間剥離が起こりにくいこと、補強効果は昭和39年鋼道示で設計された床版を平成8年道示レベルまで引き上げる性能を有していることがわかりました。また、ビニロン繊維入りPCM舗装についても鋼繊維入りPCM舗装と同様に十分な補強効果があることが確認できました。繊維は粉体とプレミックスしてホース内を高速で圧送することから、ホース内が傷みやすい鋼繊維ではなくビニロン繊維を採用しようと思っています。
曲げ強度試験結果の各試験体終局状態
(左)輪荷重走行試験の結果、破壊予定輪数ではほとんど損傷が出ず、仕方なく荷重を上げて破壊した
(右)道示法(16㌧で開始、4万輪数ごとに2㌧増加(階段載荷))に換算すると、破壊予想位置と実際に大きな差がある
床版の破壊形態(押し抜きせん断で破壊したが、PCM舗装は破壊に至るまで層間剥離しない)
(せん断破壊に至るまで上面(PCM舗装)にひび割れは生じなかった)
今後、④厚さ190㍉の床版上面を20㍉削って下面に炭素繊維を格子貼り補強した供試体、⑤厚さ190㍉の床版上面を20㍉削って、輪荷重走行位置の近傍に縦断方向目地、中心部に横断方向目地を設け、高耐久エポキシ接着接着剤を意図的に立ち上げない供試体、で同様に輪荷重載荷試験を実施し、耐久性や補強効果の差を確かめる予定です。
自治体などでも活用できる可能性
――コスト縮減効果は
蔵治 炭素繊維シートの格子貼りなど床版下面からの補強は吊り足場の設置が必要で施工に時間がかかります。PCM舗装は上面から工事が出来る上、補強効果も炭素繊維より優れています。材料は圧送するので、従来のSFRC舗装と比べ、現場の作業員数を大きく減らすことができます。さらに、PCM舗装施工後は厚さ30㍉の舗装を管理するだけで良くなります。首都高速道路で開発した損傷対策型の小粒径ポーラスアスファルト混合物はまだ高額ですが、厚さが30㍉ということであれば絶対量が少ないので予算的に採用することができる場合もあるでしょう。この組み合わせは舗装の打ち換えサイクルが長く、ライフサイクルコストの縮減や工事のための規制による交通への影響を軽減することができます。首都高速道路ではPCM舗装は床版補強の予算、小粒径ポーラスアスファルト混合物は舗装の予算を使うことを考えています。
ただし、エマルションを多く含むPCMはSFRCよりも高額な材料です。高性能エポキシ樹脂系接着剤も決して安い材料ではありません。しかし、安くてもいずれ既設床版から剥がれてしまうような物では意味が無いのです。私は大事なところにはお金をかけて対策をとることも必要だと考えています。
――国内の他の都市高速道路や自治体の所管する橋梁の中には首都高速同様に舗装切削機により床版上面が削られてしまっているケースがあるはずです。特に凍結防止剤を多く散布する寒冷地ではこれは深刻な問題のはずです
蔵治 弊社ではPCM舗装の汎用性拡大により材料価格や工事価格が下落することを目指し、首都高速道路以外の発注機関にも積極的に採用を働きかけていこうと思っています。ですので、この記事を見て興味を持たれた方がいらっしゃいましたら開発状況について直接お問い合わせいただければ対応します。
――ありがとうございました