道路構造物ジャーナルNET

第47回 軌道構造と構造物について

次世代の技術者へ

JR東日本コンサルタンツ株式会社

石橋 忠良

公開日:2023.11.01

 しばらくこの連載を休んでいました。人間ドックで指摘され、その後、いろいろ検査を行い、高齢の男性に多い病気が見つかり、6月末に手術をしました。手術は全身麻酔で行いました。幸い無事に手術を終え、今は、かなり体調は戻ってきています。
 学生時代、柔道の練習で先輩から何度も首を絞められ気絶させられました。試合の時は参ったと畳をたたけば気絶する前に終わりますが、練習ではやめてもらえません。何度も気絶を繰り返しながら練習を続けていると、生死の境がわからない感じになります。気絶から息を吹き返さないと、死なのだなと感じますが、あまり死への恐怖感はなくなります。全身麻酔もそのような感じなのだろうと思っていましたが、柔道の気絶よりは楽に、意識しないで眠りに入りました。
 その手術と入院の関係で、いろいろな委員会などの予定をだいぶキャンセルして関係者に迷惑と心配をかけてしまいました。
 9月13~15日にかけて、広島で土木学会の全国大会が行われました。学会の年次講演会に参加しました。14日夜のコンクリート研究者の集いは、コロナの関係で3年ほどなかったのですが、今回久しぶりに行われました。主にこの会に参加する目的で全国大会に行きました。長瀧先生や岡村先生もこのコンクリート研究者の集いに参加されており、約100人でしたが、久しぶりに顔を合わせることのできた会でした。

 今回は鉄道の話となりますが、私が関わったスラブ軌道と弾性バラスト軌道を中心に紹介をします。合わせて、構造物のスラブに直接レールを締結して、狭い空間での立体交差を可能としたプロジェクトの例を紹介します。

1.スラブ軌道

 鉄道の線路は、2本のレールを枕木でつなぎ、砂利をその下に敷き詰めて造られてきました。砂利は列車が走るたびに枕木の振動などで擦り減ったり、動いたりしますので、しばしば枕木下の砂利を追加したり、締固めたりしてレールの高さや位置を元に戻す作業が必要です。列車本数が増えたり、列車の重さが大きくなると、この補修作業量が増えることになります。また列車を高速で走らすには、レールを精度よく維持することが必要で、しばしば補修を繰り返します。
 この補修をほとんどしないで軌道を維持する目的で、開発されたのがスラブ軌道です。下が盛土などでは、盛土そのものが変形してしまうので、当初は高架橋や橋りょうなどの上にだけ採用されていました。今は、沈下のほとんど起きない立派な盛土とする場合には、スラブ軌道を採用することもあります。
 もともとは、高速で運転される新幹線の軌道は精度の維持が必要で、保守が大変ということで、開発が進められました。当初はスラブ板の下を全面で支持する構造と、桁式の構造が開発されていました。試験的に東海道新幹線の名古屋駅と、岐阜羽島駅に2つの構造が施工されていました。

 スラブ軌道は山陽新幹線の新大阪-岡山間で本格的に採用されました。選ばれたのは、桁式ではなく、スラブ版を全面で支持するスラブ軌道でした。この開発の中心は国鉄の鉄道技術研究所で、軌道が専門の松原健太郎博士と、コンクリートが専門の樋口芳郎博士が中心でした。スラブ軌道の下に注入する材料は樋口博士が中心に開発しました。
 後に東大教授となった樋口博士は非常な発明家で、青函トンネルの出水を止めるための薬液注入材なども開発しています。
 樋口博士には何度かいろいろ教えてもらう機会がありました。このスラブ軌道の支持材をセメントアスファルトにしたのはどういう考えでしたのですか、と尋ねたことがあります。樋口博士の答えは、「世の中の建設材料で、最も安いのはセメントとアスファルトだよ。強度と柔らかさが必要ということで、この安い材料を組み合わせて、目的の性能のものとするようにしたのだ。安くないと大量に使うものには採用されないからね」というようなことを話されたように記憶しています。

 私は、開発が終わったスラブ軌道を研究所から構造物設計事務所(以下、構設)に引き継いで、全国的に使えるようにするために、最初の構設勤務で、設計ルールや、山陽新幹線や東北新幹線などのスラブ軌道の標準設計などを担当しました。
 兵庫県南部地震で被害を受けた在来線の東海道線の六甲道駅付近は、スラブ軌道を最初の頃に採用した高架橋です。実際にスラブ軌道を施工し、列車の運転が始まると開発初期ですので、不具合が見つかります。セメントアスファルトという材料は、高架橋のスラブと軌道スラブの間に5cm厚さ程度で注入しているのですが、スラブ軌道のスラブ版の四隅の角部の下のセメントアスファルトが割れて飛び出したりして、軌道スラブ版の角部にクラックが入る事象が生じました。今はセメントアスファルトが飛び出さないように袋に入れた構造などになっているようです。
 安いセメントアスファルトなので、そのようなことも起きるのだと思いましたが、対策が必要です。既に研究所の手は離れて、構設で対処をしなくてはなりません。私が担当でしたので、軌道スラブの角部の設計荷重を割り増して、角部のセメントアスファルトが部分的に飛び出しても軌道スラブの角部にクラックが生じないように配筋を増やして対処しました。
 設計は弾性支承上のスラブの設計なのですが、角部は計算とは別に鉄筋で補強するルールとしました。セメントアスファルトが飛び出すことが前提ということは説明していませんが、実際に生じたトラブル事象に対応するように部分的な補強のルールを付け加えました。

 このセメントアスファルトは、圧縮強度はあまりいらないのですが、もともとバラスト軌道上を列車は走っていたので、スラブ軌道もバラスト軌道と同じ程度のばね係数としたいということで、材料の開発が行われています。私は、その与えられた条件下で軌道スラブの設計をしていましたが、面的な支持なので、実際のばねはかなり硬いということに後で気づきました。
 設計面では硬いほうが軌道スラブ版にとっては安全なので問題はありません。硬いバネでも実際の新幹線の高速運行で長い間問題ないので、今では、セメントアスファルトのばねを柔らかくするための配合や材料の管理するのは意味がないかと思っています。開発当初に樋口先生が目標とした、最も安い材料で目的をかなえるという精神に戻って、この材料を再度、今の時点でより安く管理のしやすい材料にしたらと思っています。

 ヨーロッパ、中国などでも高速鉄道が走っています。スラブ軌道も中国では部分的に使われていますが、他の国の軌道構造も使われています。各国の軌道構造と比べてさらに安くて優れた構造の軌道に進歩させることも期待しています。
 私が国鉄入社後の構設勤務で最初に担当した構造がスラブ軌道ですが、若干の進歩はしていますが、今も当時とあまり大きく変わっていません。ちなみに現在建設中のインドのムンバイ―アーメダバード間の新幹線にもスラブ軌道を採用しています。
 この注入材のばねを固く評価すると、軌道スラブの鉄筋も大幅に少なくでき、またバネを固くできるなら、材料面でも耐久性など大きく向上できるのではと思っています。研究を期待します。

2.弾性バラスト軌道

 スラブ軌道は国鉄時代に関わったのですが、軌道の開発でJR東日本にて関わったのが、弾性バラスト軌道です。これは以前紹介した赤羽駅の高架化工事の軌道構造で最初に採用したものです。
 既に赤羽高架橋の工事は始まっており、設計はバラスト軌道となっていました。この頃も、軌道のメンテナンスをできるだけ減らしたいとの要望が大きくなっていました。また、バラスト軌道は、夜に軌道のメンテナンスをするので、地元からは夜間の騒音の苦情も多くなってきていました。また別の面では、運行中は、列車による騒音が、スラブ軌道ではバラスト軌道より大きくなるので地元からは、騒音の面でスラブ軌道では了解がもらえない状況でした。
 騒音はバラスト軌道並みで、メンテナンスが少ない軌道構造として開発したのが、弾性バラスト軌道です。枕木を高架橋上にコンクリートで囲って固定する構造です。ただし、レール直下の枕木下面に柔らかいゴムを貼り付けて鉛直方向の力をここだけで支持させます。枕木には曲げモーメントがほとんど生じず、軌間を維持する機能が中心です。枕木端部付近のみ前後左右に動かないようにコンクリートで囲います。上下に動くことは拘束しません。枕木周辺には砕石を散布して吸音効果を持たせます。
 バラストのように列車の繰り返しで動いたり、粉砕されることがないので、メンテナンスがほとんど必要なくなります。枕木をゴム支持することで、高架橋への振動もカットできることと、バラストよりも粒径の小さな砕石をまくことで、吸音効果もバラストより向上することから、環境対策とメンテナンスの減少に貢献できる軌道です。

 バラスト軌道の場合の枕木間隔は、レールが温度変化で伸びた場合にレールが横に動いてしまわないように、配置間隔を細かくして枕木の重さで対応しています。コンクリートで左右、前後に枕木が動かない構造の弾性バラスト軌道では、枕木の間隔を広げることができます。軌道の材料費は枕木間隔が狭いと増加します。枕木は安いのですが、締結装置などは結構高いのです。弾性バラスト軌道は、枕木ピッチをバラスト軌道よりも広げることで、工事費もバラスト軌道とほぼ同じにすることができました。
 この新しい構造の軌道の名前をどうするかということで、弾性直結などのさまざまな案が出たのですが、当時の工事事務所の所長より、すでに地元にはバラスト軌道として説明しているので、外観もバラスト軌道なので、名前はバラスト軌道を変えない名前とするようにとの指示でした。
 今までのバラスト軌道とは異なるので、弾性直結バラスト軌道などの意見が出ましたが、短く弾性バラスト軌道という名前としました。図-1、写真-1に弾性バラスト軌道を示します。外観上はバラスト軌道と変わりません。バラスト(砕石)の役割が軌道を支持する役割はなく、騒音防止の役割を担っています。


図-1 弾性バラスト軌道の施工時

写真-1 弾性バラスト軌道(写真、奥の軌道)

 その後のJR東日本での高架化工事では、新しい軌道はこの弾性バラスト軌道が原則採用されています。レール直下の枕木下のゴムパッドのばね係数は、300KN/cmと、低ばね値のものを用いています。このゴムパッドは、疲労試験で常時荷重の5割増しの荷重で、3,000万回の繰り返し荷重での確認をしています。外観上の異常もなく、使用上の問題はない結果が得られています。
 ゴムパットの疲労試験でのへたり量と、ばね係数の変化を図-2、図-3に示します。


図-2 ゴムパットのへたり量と載荷回数/図-3 ゴムパットのばね係数の変化と載荷回数

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム