田中会長基調講演 技術者の積極的な魅力発信で土木の地位向上を目指す
土木学会全国大会 年次学術講演会は過去2番目に多い4,189件
土木学会(田中茂義会長・大成建設代表取締役会長、右肩写真)は13日から15日の3日間、広島国際会議場(13日)と広島大学・東広島キャンパスおよび広島工業大学・五日市キャンパス(15日~16日)で令和5年度土木学会全国大会を開催した(11日~12日にはオンラインのみで研究討論会を実施)。年次学術講演会は4,189件で、2002年北海道大会に次いで過去2番目に多く、例年と比較しても3割増となった。
13日には、田中会長が「土木の魅力を伝える~次世代に向けてイノベーションを起こす~」と題して基調講演を行った。会長特別プロジェクトである「土木の魅力向上プロジェクト」の取組みを紹介。その背景には「土木はあまり高い評価を受けていない、また人気の職種とは言い難いことから、土木の世界が世の中に正しく理解されていない。これは、土木技術者がこれまで土木が果たしてきた役割や魅力を積極的に発信してこなかった」ことがある。具体的な取組みでは、土木技術者自らによる土木の魅力発信と地位向上を目指す。
講演では、プロジェクトの組織体制、活動状況やSNS活用による広報活動を説明するとともに、会長とYouTuberによるコラボ動画や土木の魅力を伝えるコンセプト動画を放映。積極的な情報発信の必要性を訴えた。また、新入社員時代に携わった瀬戸大橋の下部工工事や黒部第四発電所・新黒部第三発電所プロジェクトを紹介。ビッグプロジェクトの関係者が少なくなってきていることから、次世代に向けてアーカイブを残す重要性も強調した。過去のプロジェクトは技術の進歩、新技術を考えるきっかけになるとも述べ、「DXで土木の未来を創造し、次世代に向けてイノベーションを起こしていきたい」と結んだ。
基調講演に先立ち、中﨑剛全国大会実行委員長(国土交通省中国地方整備局長)が挨拶を行っている。同氏は「広島は原子爆弾により壊滅的な被害を受けた。その後、目覚ましい復興を遂げている。現在の広島があるのは土木技術者の諸先輩方が困難な状況のなか、信念と技術をもって復興に尽力された賜物である。この広島の地でさまざまな課題を議論することで、土木技術者の果たすべき役割を考える良い機会になる」と、広島での開催の意義を述べた。今大会のテーマ「不確実な時代における土木の新たな挑戦~技術でつながる『適散適集』な社会~」については、「多面的で複雑な課題を抱えた先の見えない時代において、安全・安心・持続的な社会を構築・維持して次世代に引き継いでいくためには、土木界の新たな挑戦が必要である」と説明した。
広島国際会議場の様子/挨拶を行う中﨑剛全国大会実行委員長(国土交通省中国地方整備局長)
14日には、田中会長、中﨑実行委員長、半井健一郎全国大会実行委員会幹事長(広島大学大学院教授)、三輪準二土木学会専務理事が出席して記者会見が開催された。
半井健一郎全国大会実行委員会幹事長(広島大学大学院教授)/三輪準二土木学会専務理事
中﨑委員長は開催方式について「本大会はコロナ禍の2年前に準備委員会を立ち上げ、全国大会では初の試みとして2大学を主要会場として開催している。対面、オンラインの両方の利点を取り入れられる方式を模索して実践した」と説明。共通セッションでは2会場をオンラインでつなぎ両会場から参加、聴講を可能にするなど、大会テーマである「『適散適集』にふさわしいポストコロナの新しい形を示せたのではないか」と総括した。
大会での「適散」では、「複数会場によるリスク軽減、分担開催による開催場所の可能性拡大、開催校の負担軽減」(半井幹事長)を、「適集」では「初日に広島市内で一堂に会するイベントの実施、共通セッションの両会場参加・聴講可能、移動のための1日乗り放題切符の発行」(同)を挙げた。なお、14日15時時点での参加登録者は、広島大学が約31,00人、広島工業大学が約2,300人と、「バランスよく分散している」(同)とのことだ。
田中会長は「適散適集」に関して、「持続可能な社会をつくる一つの概念。災害も軽減できることになる。土木はその社会をつくるために技術的に貢献ができる」との考えを示した。「土木の魅力向上」については、「1回言っただけでは浸透しないので、言い続けることが重要。少しずつではあるが、手ごたえを感じている。プロジェクトの大小にかかわらず、土木技術者は皆、自分が語れる体験談を持っているので、自らの言葉で積極的に発信をして欲しい」とその重要性を改めて強調した。