道路構造物ジャーナルNET

都市の地下空間の利用により、交通、人流、防災など多面的に解決を図るスマートシティの構築に寄与する技術

次世代の道路構想「ダイバーストリート®」とは

大林組
技術本部 技術研究所
地盤技術研究部
課長

粕谷 悠紀

公開日:2023.06.27

 大林組は、トヨタ自動車株式会社未来創生センター、株式会社豊田中央研究所と共同で地上および地下空間を利活用した次世代の道路構想「ダイバーストリート」を開発した。スマートシティなどの新しい街づくりや、既存の街の再構築に、時代のニーズに合わせて有効に土地活用するにはどうしたらいいか、という問いに対する解として3社が考案したのがダイバーストリートだ。ダイバーストリートは、道路を2層構造として歩行者、自動車および物流を分離することで交通を効率化、安全性を向上させると共に、次世代モビリティに必要な技術や要素を内包させること、例えば非接触給電や自動運転が可能な道路社会の実現を目指した道路構想である。さらに、ガス、通信などの様々なインフラ設備も地下空間に配置することで、メンテナンスの作業効率を向上させることができる。この構想について、粕谷悠紀氏(株式会社大林組技術本部 技術研究所 地盤技術研究部 課長)にその特徴や構造などの詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

道路を地上と地下で2層化し、交通の効率化、安全などを追求
 安全確保のためラストワンマイルには歩車分離が必要

 ――ダイバーストリート開発の背景および目的について教えてください
 粕谷課長 豊田中央研究所から、道路下にインフラだけでなく、自動物流なども有効に利活用するための地下空間を構築する施工方法の構造について問合せがあったことが開発のきっかけです。
 ダイバーストリートは、都市の地下空間の利用により、交通、人流、防災など多面的に解決を図るスマートシティの構築に寄与する技術です。都市部での工事期間の短縮による交通渋滞の抑制や掘削量削減による省資源施工、また街づくりとしての歩車分離等の多様化により、高齢者等の交通弱者にも優しい街づくりに貢献したいと考えています。
 ――具体的にどのような道路やそのほかの設備の活用状況になるのですか
 粕谷 例えば道路は地上と地下を2層化し、上部は一般車両、下部は物流専用の道路とすることで安全かつ効率的な道路網を形成することにより、交通渋滞も解消できます。上部道路は車道路面に高機能化路版を敷設することにより、路車間通信や非接触給電などのモビリティを融合させた道路を整備することで、自動運転を可能とします。天候の影響を受けない地下は、例えば歩行者や自動物流の空間として活用することもできます。また、ライフラインも地下を共同溝のように使用することができますし、洪水時の雨水を一時的に貯留できる空間としての利用することができます。さらに、大規模地震が発生して家屋が倒壊した場合では、一時的には居住用の防災シェルターとして活用することも可能となります。


ダイバーストリートイメージ図

 ――ボストン市街部のように高速道路を地下化することもできそうですね
 粕谷 それを実現するためには解決しなくてはならない課題がたくさんあると思いますが、そういった道路ネットワークが実現する日が来るかもしれません。
 ――地下の物流専用道路も面白いです。大きな荷物は重量物運搬ドローン、小さな荷物は物流ドローンなどを飛ばせば、障害物も少なく、効率的な物流を行うことが可能になりそうです。
 粕谷 そうですね。ドローンは飛行の安全性や安定性などを考えると、物流ビジネスとして活用するにはいくつか課題があると思います。一方で、地下空間を活用して自律移動ロボットを搭載した無人搬送車などを使用することにより、天候や時間に左右されずに工場の建物間等で資機材を効率的に搬送することができるようになります。物流の自動運転が普及するためには、安全確保のためラストワンマイル(お客様へ商品を届ける物流の最後の区間)には歩車分離が必要と感じています。しかし、地下空間を有効活用することでそれも実現できるのではないかと考えています。

高機能化路版 内部には次世代モビリティに必要な技術や要素を内包
 地下道路として用いる底版コンクリートは、現場打RC造

 ――地下空間を構築するための構造はどのような形式を模索したのですか
 粕谷 地中深く地下構造物を構築する工法としては、シールド工法が挙げられますが、シールドマシンなどの設備が大掛かりになるうえに施工コストが高額になります。浅い深度で地下空間を構築する施工法としては、開削工法がありますが、都市部でインフラ構造物が近接する場合、仮設土留め工を含む施工スペースを確保することが困難な場合が出てきます。そこで、鋼矢板を本設利用して省スペースで地下空間を構築する新たな施工法を開発しました。開発にあたっては,従来工法より短工期で安価な施工法を検討しています。


鋼矢板の先端支持力と周面摩擦力により支持する構造体

 ――構造詳細を教えてください
 粕谷 鋼矢板、底版コンクリート、鉄筋スタッド、プレキャストPC床版(圧縮強度50N/mm2であり、以下『PCaPC床版』)、床版の目地材、床版防水材、高機能化路版から構成されます。鋼矢板は、従来の土留め機能に加えて、路面の活荷重や死荷重などを鋼矢板の先端支持力と周面摩擦力により支持する構造体として使用します。評価方法としては、鋼矢板の許容支持力が、作用する鉛直力を上回ることを確認します。道路床版にはPCaPC床版を採用し、死荷重軽減と施工性向上を図っています。
 また、地下道路として用いる底版コンクリートは、現場打RC造とします。鋼矢板と底版コンクリートは鉄筋スタッドなどのずれ止めを介して一体化させます。鉄筋スタッドはせん断力のみを負担するものとして必要本数を計算しています。PCaPC床版は工場で製作します。


ダイバーストリート構造図

 ――高機能化路版とはどのようなものですか
 粕谷 1m真四角程度のコンクリート版で厚さは150~200mm程度です。内部には次世代モビリティに必要な技術や要素を内包させます。
 ――路版の上にはアスファルト舗装を敷設するのですか
 粕谷 舗装はかけずに路版上面にすべり止め処理を施す予定です。

仮設鋼矢板を本設に利用
 鋼矢板の露出部は景観にも配慮

 ――基礎の鋼製仮設材を本設材としても考慮するというのは、最近のトレンドですね。工法は違いますが、アーバンリング工法も阪神高速神戸線のリニューアル工事で鋼製仮設材を本設構造に算入していました。これを行うと基礎や躯体の大きさを抑制できるメリットがあります。鋼矢板はどのように本設構造として計算するのですか
 粕谷 鋼矢板は仮設構造物の本設利用となるため、施工時と本設時両方の計算が必要です。一般的な土留め設計法である弾塑性法あるいは慣用法により構造解析を行い、許容応力度法により部材照査を行います。本設時も許容応力度設計法を基本としますが、多様な構造および新材料に対応するため、部分係数設計法および限界状態設計法を導入する予定です。
 鋼矢板を本設利用するため、その供用期間は道路橋示方書に準拠して100年を標準とし、使用条件に応じた鋼矢板の腐食しろを考慮して設計します。
 鋼矢板は、堅固な支持層まで根入れし、先端支持力を見込む構造とします。ただし、地盤条件や用途、重要性に十分配慮した場合は、周面摩擦力の卓越した構造として設計することも許容します。背面側は地盤と鋼矢板間全長に渡って周面摩擦力を考慮するものの、掘削する前面側は根入れ部分を周面摩擦力として考慮するものとします。


従来工法との比較

 ――鋼矢板はどのような種類の鋼矢板を使いますか。また、景観面を考えて、人の目につく前面部分の工夫は考えておられますか
 粕谷 河川護岸などで用いているハット形鋼矢板を用いる予定です。前面は基本的にはメッキか塗装ですが、調色を配慮したり、あるいは化粧版を設置することも考えています。
 ――構造的には底版コンクリートも地下道路としてだけではなく鋼矢板および全体の支持材としても効いてきそうですが、どれくらいの厚みを有するRC版になるのですか
 粕谷 地盤条件や荷重条件にもよりますが、400~500mm程度とする予定です。

大規模更新で用いているPCaPC床版を採用 間詰部はスリムファスナー
 鋼矢板の上には上フランジ状の鋼板を設置して一体化

 ――鋼矢板部の上端はPCaPC床版などを支持しなくてはいけませんが、どのような構造となりますか
 粕谷 上端には橋梁でいう上フランジのようなプレートを配置し、スタッドやシールスポンジ型枠を配置して床版を架設していきます。
 ――御社が得意な大規模更新工事における要素技術を援用していますね。道路軸延長は1枚2m程度としていますが、道路軸直角の幅方向はどの程度を考えていますか
 粕谷 最大6m程度です。
 ――そうなると、橋梁でいう桁間隔からいって大規模更新時に使う床版のようなパネル厚ではすみませんね。
 粕谷 おそらく橋梁で用いるような床版に比べて、少し厚く、重くしなくてはいけないと思います。
 ――施工効率を上げるためには、床版など上部構造物を軽量化したほうが良いと思いますが、大林組は「超高性能繊維補強セメント系複合材料(UHPFRC)の「スリムクリート」の技術を持っています。この材料を用いて薄層化し、軽量化するような床版の開発は考えていませんか
 粕谷 現状はあまり考えていませんが、開発の余地もあると考えています。PCaPC床版同士の継手構造は大規模更新工事と同じようにスリムファスナーを採用します。今のところ、その間詰材として超高強度繊維補強コンクリート(UFC)の「スリムクリート」を使用します。間詰材の打設をスムーズに行うために、埋設型枠を下面型枠材として使ったり、PCaPC床版自体の接合部をあご付きにして型枠設置の手間を省くなどの仕様を検討しています。


継手部はスリムファスナーを採用

 ――ありがとうございます。次に施工方法について教えてください
 粕谷 施工は①施工範囲全体を盤下げした後、圧入工法やバイブロハンマ工法で鋼矢板を地盤中に打ち込みます、②次いでバックホウ等で鋼矢板内部を掘削します、③床付け後、砕石を敷き均して転圧し、均しコンクリートを打設します。鋼矢板と底版コンクリートのずれ止め(鉄筋スタッド)を鋼矢板に溶接します。その後、底版の配筋を行い、コンクリートを打設します。
 ④PCaPC床版の両端部に接合用のジベル孔を設けておき、大型クレーンを用いて鋼板の上に架設します。その後、ジベル孔に無収縮モルタルを打設し、PCaPC床版と鋼板(上フランジ状の)と鋼矢板を一体化します。PCaPC床版間の目地下部に埋設型枠を取付け、⑥床版防水処理を行い、高機能化路版を敷設して側部を埋め戻して施工完了となります。


施工手順

大林組 技術研究所内にも模擬構造物を製作している

ダイバーストリート模擬構造物の内部。矢板と床版がフランジ状の板(および頭スタッド)を介して一体化しているのがわかる

 ――新しい街作りの際はともかく、既設の街づくりにおいてダイバーストリートを構築するには、いかにコンパクトな施工を行えるかが大事になってきます。そうした配慮はどのように考えていますか
 粕谷 例えば道路は、線状構造物(幅に比べて延長が長い構造物)であるため、架設して鋼矢板と一体化させた後のPCaPC床版上を施工ヤードとして活用することで、省スペースでの施工を実現します。

鋼矢板の本設利用で従来比2割の工期短縮
 大規模断面は中間部にSRC構造を設置

――施工の際の粉塵や騒音対策について、教えてください
 粕谷 掘削時の粉塵対策は、濁水・粉塵発生防止剤(ソイノール)を地表面に散布することで、降雨時の細粒土流失や法面の侵食、風による土埃の飛散を防止する『M&Dガード工法』などを採用します。狭隘地における騒音対策として、鋼矢板の圧入工法を採用しています。圧入機には先に圧入した複数の鋼矢板を把持し、その引抜き抵抗を主な反力として利用することにより、圧入施工を行うため、騒音・振動がない無公害な施工を実現することが出来ます。打撃を伴う施工機械を使用しないので、騒音規制法や振動規制法を超過するような施工過程はありません。また、低空頭でも作業できる機械であるため、周辺の構造物への影響や通行している車や人への視覚的圧迫感も抑制できます。
 ――従来工法のプレキャストボックスカルバート工法と比べてコストや工期などの縮減効果を教えてください
 粕谷 鋼矢板を本設利用することができるため、鋼矢板の引抜き工事と側壁の躯体工事および埋戻し工事が不要です。工場で製作するプレキャスト部材がPCaPC床版のみであり、同部材の製作費や運送費を大幅に減少させ得ます。そのため従来工法と比べて施工コストが約4割縮減できます。
 鋼矢板の引抜き工程、側壁の構築工程および埋戻し工程が不要となるため、従来比2割の工期短縮が期待できます。また仮設鋼矢板と躯体の側壁間の作業スペースが不要となり、掘削エリアが縮小できるため環境負荷を低減できます。
 ――最後に現場によっては、幅6mだけでなく、もっと大規模な断面が必要になることもあるのではないですか
 粕谷 その際は、土留めを行わなくてはいけない両側面は鋼矢板とし、中間部はSRC製の柱構造か壁構造とする予定です。
 ――その際はPCaPC床版どうしの縦目地が出てきますが、それはどのように考えていますか
 粕谷 大規模更新時と同様、スリムファスナーで縦目地を繋ぎます。縦目地の接合にポステンション方式でプレストレスを導入する場合もありますが、スリムファスナーを使用することで、ポステンションが不要となります。
 ――床版の施工についても空頭制限や現場状態に応じてクレーン以外の選択肢はありませんか
 粕谷 大規模更新工事の一部で使っている門型架設機による施工も選択肢の一つとして考えています。
 ――ありがとうございました。今後ダイバーストリートにより、新しい街づくりに発展することを期待しています。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム