道路構造物ジャーナルNET

⑤軟らかいコンクリートの懸念

失敗から学んだコンクリート打設

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2023.04.01

残念な「ありそうなこと」

 先日、近畿地方で不正に製造されたコンクリートが問題となっている記事を見ました。それを見た私の感想としては、「今でもあちこちでありそうな事だ」と思うものでした。また、逆に「プラントこそ、意思疎通がうまくできたなら良心的なコンクリート製造に取組めるのに」と残念な思いでした。
 何故そのように相反する事を思うかを具体的に経験談を交えて紹介したいと思います。

設計スランプより5cmも大きいコンクリート
 責任を認めないプラント側

 私が発注者支援業務をしていた時の話です。通常のコンクリート打設ではプラントから出荷されたアジテータ車が現場へ到着すると、受入検査を実施する事が多くあります。私は立会した時、その時のスランプ値とアジテータ車シュートより流れ落ちるコンクリートの流下速度などを記憶します。そして受入検査後の次のアジテータ車から流れ落ちるコンクリートを観察すると、多くの現場は受入検査時より軟らかいコンクリートとなる傾向です。そのような現場では、スランプ上限要求が疑われますので、受入検査等を注意深く観察しますが、悪い意味で試験室のサジ加減もあって規格内にとどまる事が多いです。基本的にアジテータ車から流れ落ちるコンクリートを見た瞬間、試験室はスランプを推測できるので規格内とするためにスランプを小さくまたは大きく見せたりと、ある程度調整が可能ですからほぼ受入検査で合格する事が決まっているようなものです。ただし、調整ができない程にひどい時は規格を外れる事がありますので、そこを見逃さず指摘・是正する事がとても重要です。

 ここで私が規格外を発見した時の事例を、当事者以外に特定されない範囲で紹介してまいります。
 JIS規格外を発見したのは朝一番のコンクリート受入検査での事です。常日頃から不審点がいくつかあった現場なので、コンクリートの品質について疑念を持っていたある日、スランプ試験でコンクリートが崩れかけてスランプ最高と最低の差が規格外となりました。そこで通常なら再試験となるはずが、一番都合の良いところに定規を当てて、堂々と規格の上限値ピッタリで黒板に記載して立会を要望したので、私はJIS基準を書面で見せて「これはJISでいくと定規を当てる所は間違いで、高低差も規格外であり再試験となるはずです。再試験しても規格に入らないと思いますが規定通り実施していただけないでしょうか。それとも私の主張が間違いなら教えていただけないでしょうか」と主張しました。当然再試験をしていただきましたが、結果は設計スランプより5cmも大きく(写真-1)不合格でした。結果的に、試験室は規格を外れているのに合格と申告してきた事になります。この不合格が5台連続となりましたので、これは上限要求に加えて、プラントの故障を疑いました。施工者は、合格したりしなかったりではコンクリート打設が完了しないリスクがあると判断したのか、その日の施工を中止しました。このままでは施工ができませんので、プラント工場長・品質管理責任者と施工者と私で、原因と対策について話し合いの場をもったのですが、そこで製造者工場長から予想もしない驚きの意見を聞くことになります。


(写真-1)設計Sr15cm 実測20cm

平 瀬:「原因が分れば適切な対応すれば良いので問題はないでしょう。原因は何でしょう?」
工場長:「今まで何十年もこんな事はなく、規格を外れる事は極めてまれなケースですので、対策は不要であり今まで通りの体制で出荷すれば二度と問題は生じません。」

 一同唖然・・。私はプラントの言い訳として「故障していた」、など適当な方便でその場を納めておいて、次回から規格内で持ち込むだろうと予想していたのですが、以降1時間以上議論が平行線で最後までプラント側の主張が強硬で全く変わりません。

洗い水を廃棄しないアジテータ車
 元請の上限要求に迎合、軟らかいコンクリートになりやすい傾向

 予想外の展開となって、呆気にとられたものの妥協案を探りつつプラントの言いたい事を推測するに「元請がスランプ上限要求したからだ。プラントは悪くない」と言いたいのではないかと想像しました。「全く改善する必要がない」と頑なで、元請けは後ろめたい何かがあるのか、ほとんど意見を言わない状況でしたので、私から妥協案として、「全台数受入検査を実施して規格を満足できたアジテータ車なら受け入れる。規格外は返却する事になりますがそれで良いでしょうか」と聞いたところ、「それで構いません」となったので全台数で受入検査を実施する事としました。

 全台数管理であれば万全を期するはずなので最低の品質はクリアするだろうと考え一安心。ところが、いざ全台数受入検査を実施すると、スランプが以前より改善されたものの規格外またはギリギリが少なくありません。プラントが丁寧に管理した場合、規格を外れる事など無いと考えていましたのでとても驚きました。スランプがここまで乱高下するなど初めての経験でしたので注意深く観察すると、同じアジテータ車で高スランプになるようだと気付きましたので洗い水を廃棄していないのだろうと推測、その車両を改善させようと指導しましたが聞く耳を全く持たないのでその運転手を交代するようお願いしたところスランプは規格内の安全側で推移するようになりました。アジテータ車の運転手からすれば、元請けが上限要求すれば、「軟らかい程に元請・下請は楽に仕事ができるから、洗い水は捨てない方がコンクリートは軟らかくなって歓迎される」そんな事を経験していて行動しているのだろうと考えられます。基本的に、軟らかいコンクリートは効率的な施工がしやすく、コンクリートの荷下ろしも早く、アジテータ車を洗う手間も軽減されますから、施工・運送・プラント側の多くは軟らかいコンクリートとなりやすいのは自然の流れかと思います。

伝票では同じ配合、しかし搬入された生コンはまるで違う
 持ち込まれたコンクリートは早強・高強度等の残コン?

 2つ目の事例は、私が施工者の時で10年以上前の事になりますがさらに悪い案件を紹介します。

 コンクリートブロック積みの基礎コンクリート打設の事です。受入検査は実施されない日で、1台目の打設が終わり2台目の荷下ろしを始めると、色も硬さも全く違うコンクリートでした。間違えて搬入したと思い伝票を確認すると、配合は1台目と同じ、プラントに「材料が間違いではないか」と確認しても「間違いではない」との答え。仕方なく型枠に敷均すと、気温は低いのにあっという間に硬くなり木ゴテで均す時間もありませんでしたので、鍬を使って無理矢理低めに削り仕上げました。

 コンクリートブロックを並べるので、高いよりは低い方が良いと言う判断です。通常、貧配合の基礎コンクリートが待機時間も無い寒い時期、敷き均してすぐに固まる事はありません。真夏よりも不自然に早く固まった事などから推測されるのは、持ち込まれたコンクリートは早強・高強度等の残コンだったと考えるのが妥当かと思います。何故そのように思うかについて、実は30年近く前の経験で配属された現場において、寒い時期に高強度の残コンを小構造物に使った際、型枠内にコンクリートを充填したまでは良かったのですが、それからの硬化が極端に早く天端仕上げが間に合わず後日天端を斫って補修した状況に似ていたからです。おそらく、この経験に近い状況であったかと思います。この不自然なコンクリートは、色と硬さが極端に違ったのですぐに違和感を覚えました。今となっては分りませんが、上記の2つのプラントは不具合が起きても不思議ではない何か前兆がありました。そうした異変などを現場技術者が気付けるかが大きな分岐点となるでしょうが、基本的に常日頃から現場に出向いて直接確認しなければ気付きはなく、結果、指摘・是正は難しいだろうと思います。

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