西日本高速道路関西支社大阪高速道路事務所が所管する近畿道の淀川橋他2橋で塗替え工事が進められている。淀川橋のうち淀川渡河部を含むP1~AP10間、橋長550mの鋼3+3+3径間連続非合成鈑桁部が今回の塗替え対象であり、その塗替え面積は他2橋(摂津南ON,OFFランプ橋および淀川AP10~大日P1)も含め約42,300㎡(一般部40,700㎡、特殊部1,600㎡)に及ぶ。いずれも既設塗膜はPCBを有しているため、塗膜除去工法および素地調整は循環式ブラスト工法を採用した。供用年次は下り線側が1970年3月1日、上り線側が1972年12月18日であり、いずれも4主桁(桁高は最大2.6m)である。下り線側は桁間に増桁が入っているほか、上下線とも耐震補強部材を有する。また、NEXCOとKDDIが共用している光通信ケーブルが桁に沿って設置されている。塗替えに際しては、そうした構造への対応や重要インフラの仮移設などをまず行う必要がある。同橋の両側は国内有数の交通量を誇る一般道である大阪中央環状線が走り、さらに桁下は淀川が流れ、高水敷であっても増水時には3時間以内での退避が求められる。そうした厳しい条件が重なる現場を取材した。(井手迫瑞樹)
廃棄期限が迫るPCB 施工にはスピード感が求められる
出水期であっても足場の残置が認められた
同橋の塗装の状況を見ると、実はそれほど傷みは生じていない。もちろんジョイントや上下線隣接部からの漏水が生じている個所は主に下フランジ部で塗膜劣化のみならず腐食が生じている。しかし、それは部分的なものに留まっている。既設塗装を塗替えねばならない理由は明確で、低濃度PCBを含有しており、『ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に関する特別措置法』に定められた廃棄期限(2027年3月末)が目前に迫っているためだ。そのため施工にはスピード感が求められた。
塗装劣化状況(井手迫瑞樹撮影)
腐食状況(井手迫瑞樹撮影)
渡河橋であるため、その施工には様々な制約が課された。まず、当初は、H.W.Lより上に足場をかける計画であっても出水期には足場撤去が求められた。しかしそれでは『ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に関する特別措置法』の廃棄期限内の撤去は不可能になるため河川管理者との協議の上、出水期であっても足場は残置することが認められた。
足場床面積は14,394m2に達する
クイックデッキで安全性を向上させながら足場設置に要する期間を短縮
次は足場設置のスピード感である。足場床面積は14,394m2に達する。当初は通常のシステム足場であったが、とても間に合わない。そのため協議の上、クイックデッキへと変更した。クイックデッキは1枚目の足場こそ、吊支持先行となるが、2枚目の足場以降はまずフレームを付けて、さらにその上にコンパネを敷くだけで、上に人がのって作業できる。これを繰り返すため、チェーンを先行して吊るより安全にしかも迅速に構築できる。本現場では延長7.5m×幅員約20mの足場を1日で設置していた。
クイックデッキの設置状況(NEXCO西日本提供)
さらに本現場においてはクイックデッキの利点は複数ある。まず桁下が河川内であるために堤外地(すなわち河川域内)に昇降足場を設けられない。そのため緊急事象や急病人が発生した時の避難・搬送計画は、P1とAP10の両端の堤内地に昇降足場を作る計画が求められた。すなわち両側とも中央部から最長200m以上の距離をスムーズに移動できる空間を構築しなくてはいけない。システム足場ではチェーンが660mmピッチで入り移動しにくい。クイックデッキは吊りチェーンのピッチを2.5m間隔と従来の約4倍に長くでき余裕をもった空間を確保できる。
大阪中央環状線の歩道側から見た淀川橋の足場状況(井手迫瑞樹撮影)
クイックデッキは吊りチェーンのピッチを2.5m間隔と従来の約4倍に長くでき余裕をもった空間を確保できる(井手迫瑞樹撮影)
桁下の堤外地は3時間以内で全ての機材の搬出を求められる
その際、各種ホースは、足場内に収納
また、渡河橋であるため、桁下の堤外地においては、増水などが生じた場合、3時間以内にすべての機材を撤去せねばならない。そのため桁下内にブラスト機械を定置できず、ブラスト機械は全て車載に変更した。しかしブラストに用いるホースだけは通常の手段では撤去が出来ず、そのためホースだけ機械から外して足場内に収納する計画とした。ブラストホースは8本(5kg/1本)、回収ホース2本(同40kg)、集塵機のダクトホース2本(同40kg)などホース自体が合計130~200kgの重量を有する。それを桁の両側の張出部にある避難路におく必要がある。しかし既存のシステム足場(張出し部の載荷能力は200kg以下)では載荷能力不足に陥る。クイックデッキの載荷能力は、通常部で300kg/㎡、張出し部でも250kg/㎡あり、十分に対応可能である。
渡河橋であるため、桁下の堤外地においては、増水などが生じた場合、3時間以内にすべての機材を撤去せねばならない
淀川橋足場断面図および平面図(NEXCO西日本提供)
張り出し部の足場を吊るチェーンについては、ウエブにφ22.5mmの孔を開けて吊り点を設けることにした。従来はRC床版や地覆にアンカー孔を開けて吊ることが考えられるが、コンクリート部材の損傷がかなり進んでいることからそれは断念した。
足場設置は昨年12月12日から実施工に入り、6月12日までの半年間で完了する予定だ。施工は両端部から行っており、1班7人(運搬3人+組立て4人)、合計14人で施工している。取材した2月10日現在では約半分の施工を完了していた。
軌条設備で足場資材を運搬(井手迫瑞樹撮影)
1班7人(運搬3人+組立て4人)、合計14人で施工(井手迫瑞樹撮影)
塗膜除去および素地調整は循環式ブラスト工法を採用
足場設置後は、各種養生設備を施した上で、塗替え工に入る。既設塗膜は平滑部で280~300μm、隅角部で380~400μm、添接部で320~330μm程度である。塗替えは1982年に1回(3種ケレン・部分塗替え)、1987年に1回(同)の計2回行っているが、今回は低濃度のPCB(下り線で3.9mg/kg、上り線で2.6mg/kg)を含む塗膜除去を行わなくてはならないため、1種ケレンによる全面塗替えとした。
クイックデッキの設置状況(井手迫瑞樹撮影)
塗膜除去および素地調整は循環式ブラスト工法を採用した。同工法は、スチール製の研削材を採用しており、回収の際に既設塗膜と研削材を確実に選り分けることで、研削材を再利用して施工できるため、特別産業廃棄物(今回はPCB)の量を大きく減らすことが出来る。また、素地調整も同時に行うことが出来る。今回は1台で4ノズル施工できるタイプを両岸に2台ずつ配置し、施工する。ブラスト施工能力は1日当たり2ノズル68㎡程度で、ブラスト施工後は順次塗替え塗装を行っていく。下塗り(基本は3層)、中塗り、上塗りとも弱溶剤系の有機ジンク、エポキシ樹脂塗料、ふっ素樹脂塗料を採用する予定で、一般部は250μm(増塗り部は310μm)、特殊部は490μmとした。
工期は2024年6月29日まで。元請はヤマダインフラテクノス。足場の下請は博奈組。