道路構造物ジャーナルNET

2022年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑪日立造船

水門事業の需要が拡大中 AIなどで設備の健全度を診断

日立造船株式会社
執行役員 機械・インフラ事業本部 副事業本部長

鎌屋 明

公開日:2022.10.31

 当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。最終回となる今回は、日立造船の鎌屋明執行役員と日本鉄塔工業の有田陽一社長の記事を掲載する。

 ――21年度の業績ならびに22年度の目標は
 鎌屋 21年度のインフラ部門では受注高が275億円、売上高が264億円、営業利益は9億円となった。22年度は受注高260億円、売上高260億円、営業利益は5億円を目指す。今期の業績見通しについては構成事業の再編があったため、若干減少している。会社方針では営業利益率5%が目標で、インフラ部門全体での数値では足りないが、鉄構事業としては5%を確保できている。
 ――業界を取り巻く環境については
 鎌屋 橋梁事業については、21年度は国内発注量が19万t弱となった。新設工事は国土強靭化の動きから大阪湾岸道路西伸部工事をはじめとする大型プロジェクトが控えており、中期的には増加が見込まれている。ただ、長期的には大幅な伸びは期待できないとみている。22年度は20万t前後となると予測している。
 保全工事については、インフラの老朽化により2040年までは伸長が見込まれる。高速道路会社に関しては15年からの15年間で約4兆円規模の更新事業が計画されており、RC床版取替工事などの大規模更新事業が予想されている。
 また、発注契約方式の多様化の一環で、技術提案交渉方式や点検・維持管理までを含む一括発注方式が増えていくと推測している。
 水門事業については1993年には1,200億円規模の市場だったが、新設ダムの減少にともない、近年では民間を含めて年間500~600億円規模で推移していた。昨今の多発する豪雨災害により水門設備の重要性が再認識され、ダムの再開発工事や中小規模ダムの部分更新、改造・修繕工事が増えつつあることから、今後1,000億円の市場規模になると予測。世界的なカーボンニュートラル(CN)の動きから水力発電の発電効率を上げる工事が期待されている。引き合いは多くなっており、これまで鉄構事業としてトップだった橋梁部門を追い抜き、今年度は水門事業がトップになる可能性がある。
 煙突事業は東日本大震災以降の10年間は火力発電へのシフトによる耐震補強、大規模修繕、延命工事などで伸長してきた。しかし、政府が表明した50年度までにCN達成などの動きが加速化している。国内製鉄所の休廃止や新規石炭火力発電所の建設が凍結し、事業の大幅規模縮小が予測される。既設煙突のメンテナンスや延命化工事では一定量の発注が見込まれる上に、バイオマス発電施設などが発注されると予想している。


多摩川スカイブリッジ

 ――防災分野については
 鎌屋 海底設置型フラップゲート式水門の受注第2号機が今年3月、兵庫県南あわじ市福良港での据付工事を完了した。また、陸上設置型の「neo RiSe ®(ネオライズ)」は東北地方などを中心に200件近い採用実績があり、現在、新たな地域での営業活動を進めている。
 ――DXについては
 鎌屋 全社的には18年に遠隔監視、運転支援サービス、IoT、ビッグデータ、AIなどの活用拠点として、Hitz先端情報技術センター(A・I/TEC)を設立。橋梁、水門、煙突、海洋構造物部門では診断、遠隔監視、運転支援システムなどに適用している。現場に導入中の水門運転状態管理・診断システム「診衛門」は、ダムや水門設備に設置してモニタリングを行うとともに、AIや統計処理手法を組み合わせて設備の健全度を診断する。これにより水門管理者の効率的な維持管理業務を支援している。常に診断技術の開発と検証に取り組み、システムを進化させている。今後、外販する予定だ。
 ――海外事業に関しては
 鎌屋 水門事業に関しては昨年、ラオスでの事業が完了。ミャンマーでも工事に着手していたが、現在の情勢から休止している。海外では治水・利水事業の需要があり、今後、カンボジアやベトナム、フィリピンでの案件が見込まれることから、ODA案件を中心に案件を取り込んでいく方針。
(聞き手・佐藤岳彦、文中敬称略)

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