阪神高速道路は、大規模更新事業として神戸線湊川付近の鋼床版対策と耐震対策を兼ねた新設橋脚の増設を進めている。橋脚は全部で7基増設する予定だ。国道2号を規制することや既設の高速道路の高架橋の桁下での作業となるため、設計・施工両面において気を遣わねばならない。その内容について取材した。(井手迫瑞樹)
事業概要図(阪神高速道路提供、以下注釈なきは同)
新設P1、P2上下線は1本柱の鋼製橋脚
新設P3、P4、P6は張出しの長いT型橋脚
大規模更新対象となる湊川付近の高架橋の対象延長は400m、構造は3径間連続鋼床版箱桁橋で、上下線がセパレートしている構造となっている。供用年次は1968年で、鋼道路橋設計示方書(昭和31年)に基づいて建設している。本橋は国道交差点(東尻池)や運河渡河など制約条件が多く、支間長が長くなることに加え、国道2号の限られた道路敷地内にコンパクトな構造の基礎建設を余儀なくされた。上部工の死荷重軽減を図るため、箱桁が扁平となり、交通荷重の増加もあって床版および桁に疲労亀裂が数多く発生し、さらには兵庫県南部地震で変形などの被災を受け、補修して再利用したことも亀裂の要因となっており、上部構造の抜本的な対策が必要となっている。
最終的には桁の架替えを行うが、現在の橋脚は架替えると基礎が持たないため、先に橋脚を増設する必要があり、その工事を進めているもの。増設する橋脚は7基あり、形式は新設上りP1およびP2、同下りP1、P2が通常の1本柱の鋼製橋脚、新設P3、新設P4、新設P6が張出しの長いT型橋脚とした。後者は基部がRC構造で、基部の上端と梁の部分が鋼製の複合橋脚としている。ピア高は高く、下りP1は15.45mに達する。同高架橋の構造は上下線に分かれており上下線の桁間の間隔が大きいP1、P2は上下線に橋脚を1本ずつ立て、間隔が比較的小さいP3以降は1本柱で梁を張出す形式とした。橋脚基礎はいずれもケーソン構造で、施工方法としては、狭小箇所でも施工可能なアーバンリング工法を採用している。また、P1、P2は限られたヤード内に設置する必要があることから構造そのものは周囲に合わせ、その代わりに板厚を100mm近くまで上げて必要な強度を確保した。橋脚および梁の鋼製ブロックごとの継手はいずれも全断面溶接構造とした。
全体一般図
P1橋脚図面
P2橋脚図面
P3橋脚図面
アーバンリング工法の施工状況①/全断面溶接の状況①
橋脚基礎の施工はアーバンリング工法を採用
鋼殻の板厚は通常の土留め材としてだけでなく構造部材として活用
基礎の施工上の課題とアーバンリング工法の採用
同地とりわけ新設P1、P2付近は、神戸市の非常に狭い街路が隣接して走っており、その生活道路の幅員を確保するため、既設橋脚柱に合わせてφ1,800mmを超えないサイズで橋脚を構築する必要があった。新設P3、P4、P6についても同様で、国道2号の中央分離帯上に位置するため、その中に収めるべく橋脚柱は幅2.5m×橋軸方向4mを最大値とした。
基礎は経済性を考慮すれば現場打ち杭が適当であったが、国道2号の擁壁に極めて近接しているため、平面線形を小さくすべく、ケーソン基礎を採用した。
国道2号の擁壁に極めて近接(写真はP1)/国道2号の中分を使っており占有期間を少しでも短くしたい(写真はP3)
アーバンリング工法を採用したのは、ヤードが著しく狭い箇所(新設P1、P2)、国道2号線の中分を使った施工であるため占有期間を少しでも短くしたい(同P3、P4、P6)といった現場特性から、現地でのケーソン工法の施工を省力化するためだ。同工法であれば工場から製作した鋼殻をもってきて、現場打ち施工を急速化できるメリットがある。
さらに今までのアーバンリング工法と異なる工夫も施している。
従来、都市型圧入鋼殻ケーソンの鋼殻リングは本体構造としては考えず、あくまで仮設土留め材として用いていた。しかし鋼殻部材は埋設部材であるため、これを本体構造として計算することで、合理化の余地があると判断した。
アーバンリング工法の従来と今回施工の違い
アーバンリング工法の施工状況②
アーバンリング工法の鋼殻リング図面例とアーバンリング工法の施工状況③
具体的には、「鋼管杭メーカーであるJFEスチールの提案」(阪神高速)により従来のケーソン基礎は主筋を円状に2段配置し、さらに帯鉄筋を主筋に合わせる形で2周配置していた。この外側の主筋を構造部材として新たにとらえる鋼殻リングに沿った位置に配置することで、外側の帯鉄筋を省略した。省略を判断するに際しては、正負交番載荷試験を行い、鋼殻リングが帯鉄筋機能を発揮し、従来のRC基礎と同等以上の耐力を有することを確認している。また鋼殻の板厚は通常の土留め材としてだけでなく構造部材として活用するための厚さが必要になるが、解析した結果、板厚の増加は必要ないと判断した。
外側の主筋を構造部材として新たにとらえる鋼殻リングに沿った位置に配置することで、外側の帯鉄筋を省略
さらにアーバンリング鋼殻の接合部(新設P1、P2は円周を5分割、その他は6分割)のうち、本体構造として計算する箇所はボルト(M27)および接合部(リブ形状)の断面を、帯鉄筋の断面(D22)以上に確保した。また、本体として活用するため、鋼殻は腐食代(鋼管杭の1mm)も確保している。
本現場は通常のケーソン基礎よりもはるかに径は小さい。新設P1、P2はいずれもφ4,000mm(外径)で、その他もφ5,500mmである。そのため中空ではなく充填構造とした。そうすることで中空層を作るための型枠が省略でき、充填構造とすることで、鉄筋量も縮減できた。その結果、工程を約1か月短縮、コストを約1割縮減することを可能にした。充填コンクリートは圧縮強度30N/mm2のコンクリートを使用している。
充填構造を採用した
基礎躯体部は充填構造のためマスコンクリート扱い
P3、P4、P6は低発熱コンクリートを採用
アーバンリングの施工手順とマスコンクリート対策
ケーソン基礎は最大で27mに達する。アーバンリングの施工は、下図の通りバケットで内部を掘り、アーバンリングを圧入沈設し、その上で新しいリングを組み、掘削後圧入していくという事を繰り返す。アーバンリングの1ブロックごとの高さは1.2mの高さとし、支持層まで沈設していった。その上で配筋作業を行い、充填コンクリートを打設していく。打設高は毎回3.6mとした。基礎躯体部は充填構造のためマスコンクリート扱いとなり、セメント水和熱による温度応力が構造物にひび割れを発生させる懸念がある。そのため、ひび割れ発生確率について三次元FEM解析により照査を実施し、コンクリート標準示方書に拠って、ひび割れ指数1.0以上(ひび割れ発生確率50%)を確保することを目標とした。新設P1、P2の4基は、普通コンクリート、P3、P4、P6は低発熱コンクリートを採用した。
アーバンリング工法の施工手順
グランドアンカー施工状況
刃口リングの組立て・据付け
掘削状況
コンクリート打設状況
現場は狭い箇所での作業になるため、上空の桁を防護するための単管を設置した
マスコンコリート対策
現場は狭い箇所での作業になるため、上空の桁を防護するための単管を設置した。さらにレーザーバリアにより、作業用クレーンが桁に当たらないよう施工時の安全性を確保した。
また、P1においては国道2号線の擁壁が近接(1mほど)している個所であるため、傾斜計を付けて確認しながら施工した。同様に新設P2上下線の橋脚はいずれも兵庫運河の傍で掘削しなければいけないため、光波による動態観測と運河を跨ぐ供用から100年を経過しているアーチ橋の上に沈下計を付けてその観測を行いながら施工するなど細心の注意を払った。