マルホウは今期で創業23年目を迎える構造物の改装や解体時に生じるアスベストの撤去や建築・土木防水を主事業とした工事会社である。最近はアスベスト調査分析会社も創立し、アスベストの撤去工事だけでなく、その前の調査・分析、設計業務もこなせる体制を構築している。2020年7月には石綿障害予防規則等が改正され、さらに石綿を含む可能性のある構造物に対する工事を行う際の規制は厳しくなっている。同社の日比裕己社長に、土木分野におけるアスベストの含有状況も含めて、今後の展開を聞いた。(井手迫瑞樹)
厚生労働省公開資料『石綿障害予防規則等の一部を改正する省令(令和2年7月1日公布)について』より抜粋
母業は防水 土木分野では騎乗式の撤去機械や現場機械を10台単位で保有
シェープポリッシュ工法はNEXCOのグレードⅡにも対応
――マルホウについて、記者は床版防水なども行う防水工事会社という認識がありました。
日比社長 母業は防水で、住宅やマンションなどの建築防水、駐車場やプールなどの大型の建築防水、さらには上・下水道の地下ピットの防食ライニングや高速道路の床版防水・剥落防止工、PCタンクの断面修復やライニング、コンクリート排水溝などのライニングなどを残滓物撤去から表面処理、防水までを一括して行っています。土木分野では騎乗式の撤去機械や現場機械を10台単位で保有しています。撤去・研磨だけでなく、ブラストであり、切削機械など、基本的には撤去することに対して、殆どが対応可能になっています。
騎乗式剥離機
建屋内には様々な機器が格納されていた
――どのような機材を有しているのですか
日比 強靭な先端の刃先で床材に強く接着されていう防水材などを撤去する「ターミネーター」、装置内部で水を高圧蒸気化し、粉砕ガラスなど数種類の微粒研磨剤を同時に投射することでコンクリートの表面処理や被覆材の除去を効率よく行える「ウェットブラスト」、その他建築物の床材や橋梁床版に用いるショットブラスト機を保有しています。
ウェットブラスト工法
ウォータークリーン工法
また、特殊なブレード・ダイヤを装着した騎乗式剥離機や遊星回転式研磨機会を使用して橋梁床版の防水層だけを除去できる「シェーブポリッシュ工法」(NETIS:CB-160018-A)も保有しています。同工法はNEXCOの高性能床版防水(グレードⅡ)にも対応しています。
シェーブポリッシュ工法
――そうした水に対する知見を活用してアスベスト対策工法として開発したのがウォータークリーン工法ですね
日比 名称通り、水を使ったアスベストの除去工法です。
土木のイメージで言えば、ウォータージェットを使った表面処理工に近いものです。実際に表面処理用のWJ機械を用いてアスベストを吸引しながら除去していきます。
アスベストはPCBや鉛のように危険物質です。それを除去するに際し、作業者の安全を確保しながら、環境負荷も与えず、適正にアスベストを除去する工法として開発しました。
アスベストに特化した安全性が高い『ウォータークリーン工法』
集塵装置付き超高圧水洗工法 アスベスト含有量は無機系のもので比較的多い
――そもそもなぜアスベストをやることになったのですか
日比 先ほど申しましたように、我々は防水や外壁の塗替えに当たり、WJを使って既設塗膜除去の事業を行っていました。その中で、従来の高額な吸引車を使わず、水と固形物を同時に分離しながら、WJで除去したいと考え、ウォータークリーン工法の原型となる技術を開発していましたが、外壁塗装材や下地調整材に含まれるアスベストもそれで除去してくれと元請けに頼まれて、そこで一回除去させてもらったのがきっかけです。さらに、これからは外壁材に含まれるアスベストの除去が問題になりつつあり、増えてくるという話を聞きました。
WJを使って既設塗膜除去/防水工の施工
当時、外壁のアスベスト撤去は、今まではなかったもので、下地調整材や表面被覆材の塗料などにアスベストが含有しているという事を知り、これはとてつもない市場になると感じました。そこで、アスベストに特化した、安全性を担保したウォータークリーン工法を事業化しました。
アスベスト除去の際は、従来工法では様々対策を施さなければならない。
(厚生労働省公開資料『石綿障害予防規則等の一部を改正する省令(令和2年7月1日公布)について』より抜粋)
ウォータークリーン工法システム概要
ウォータークリーン工法とは「集塵装置付き超高圧水洗工法」で、100MPa以上の水圧を有するWJを使ったアスベスト除去工法です。アスベスト除去にWJを用いる工法は、施工にあたり何か明確な基準があるわけではありません。そのため、当社独自に安全性を担保するため、様々な安全上の工夫を行い、数値も規定した上で、ウォータークリーン工法を展開しています。
ウォータークリーン工法に使うポンプ設備や回収設備
――アスベストは、土木・建築部材のどの期間のその建材に入っているのですか
日比 メーカー品としては1970年代前半から2005年まで建築用仕上げ塗装材や下地調整材が販売されていました。但し、10年ほど前に施工した仕上げ塗装材の中にも除去してみるとアスベストが入っていた事例があります。
――無機系と有機系の塗装仕上げ材や下地調整材ではアスベストの有無や含有量に何か違いがありますか
日比 両系統とも含有しているものがありますが、とりわけ無機系のもので比較的含有量が多くなっています。建築でいうとPタイルやアスファルト防水材、内装の床材の糊からもアスベストが検出されています。人が加工している建材のあらゆるものから出ている感じです。
――土木でそうした懸念がある材料はありますか
日比 土木ではコンクリート橋梁塗装(表面保護工)の下地を作る際に使う、セメント系フィラーから出ると考えています。保護塗料それ自体から出る可能性もあります。他、用水路の補修材や無機系の保護材を用いたプレキャスト部材、PCタンクの外面の表面保護材や、内面の下地調整材やライニング材にもアスベストが入っている可能性があります。橋梁でいうと表面被覆工を行う前の下地調整材において、アスベストが含有されている可能性が高いものがあると考えられます。また表面被覆に使う塗料でも、増粘のためにアスベストを使っている製品があります。一部の会社は過去の製品においてアスベストを含有していることを公開しています。土木構造物の下地調整材でも10件分析すると3件出るような感覚です。あくまで当社の感覚ですが。
土木分野はアスベストに対する認識がまだ薄く、これから啓発していかなくてはなりません。
粉塵発生がほとんどなく、水とガラは外気に触れずろ過装置まで送る
アスベストを含んだ廃棄物の梱包も現場またはプラントで自動的に行う
――環境負荷を与えないための具体的な方法は
日比 まず水を使って施工するため湿潤雰囲気となり、粉塵発生が殆どありません。さらには、従来のバキュームブラストのように除去工を行う周囲を覆って、吸引しながら施工するため、この施策によっても粉塵の飛散を抑制します。また、剥離した水とガラは真空状態で外気に触れさせることなくろ過装置まで送ることが出来ます。さらにジェットスクラバー(エジェクター型の洗浄集塵装置。水流ポンプの原理により、吸引した含塵ガスを水と混合して洗浄する)とHEPAフィルターで空気ろ過してアスベストが基準値未満となった気体を放出します。その際に人手は一切介在しません。アスベストを含んだ廃棄物の梱包も現場またはプラントで自動的に行うことが出来るため、ここでも人がアスベストを吸うことがなく、非常に安全な工法といえます。
周囲を覆って吸引しながら施工/バキューム車
ろ過装置『スーパークリーンシステムS』/外気に触れず梱包できる
――作業者の安全対策はどこまで必要といえますか
日比 アスベスト対策を行う際の法令に則ったフィルター付き保護マスク(半面タイプ)で作業しています。現場は全て湿潤雰囲気にし、さらにバキュームで作業を行っていますので、従来工法の様な隔離養生は不要です。現場養生は、床養生レベルの施工で良く、作業員の施工時の負荷は非常に少ないといえます。
――ということは特別な防護服は要らないという事ですね
日比 要りません。ヤッケ程度で良いと考えています。
――凄いですね
日比 アクアセルローターで吸引していることであったり、水ブレンダーなどを用いて、全て吸引型で行えるという事が、隔離養生不要を可能にしています。ハンドガンなどで施工する業者もいますが、施工の際、オープンであり、湿潤雰囲気とは言え、ガラが飛び散るためとても安全とは言えません。そこがウォータークリーン工法と従来のWJ工法との大きな違いです。