道路構造物ジャーナルNET

⑥道路橋の長寿命化への配慮

筑波山の麓より

国土交通省
国土技術政策総合研究所
所長

木村 嘉富

公開日:2022.06.27

 令和4年度が始まり、気がつけば既に6月です。概ね2ヶ月毎の寄稿を目指していましたが、ついつい目先の業務等に追われ遅くなりましたこと、ご容赦願います。対面での講演会で聴講者の反応があると気分が乗ってくるのと同様、掲載内容についてご意見を頂いており、励みとなっています。お礼申し上げます。
 さて、1月に伊勢神宮と出雲大社について、3月に木橋を長持ちさせるための工夫について紹介してきました。これらは、これから作る道路橋を長寿命化させるための配慮事項を紹介するための導入でした。今回は、平成29年に改正した道路橋示方書の狙いと、長寿命化のための配慮事項について紹介します。なお、木橋については、先日、植野様に詳細に解説して頂きまして、ありがとうございました。さすが、長年取り組まれてきた方ならではの内容でした。

1.平成29年道路橋示方書の改定
【道路橋の技術基準の変遷】

 道路橋の技術基準の変遷を表-1に示します。我が国の道路橋の技術基準は、大正15年に内務省により定められた「道路構造に関する細則案」に遡ります。そこでは、街路の橋を1等橋、地方部の国道を2等橋、府県道を3等橋とし、設計荷重をそれぞれ、12トン、8トン、6トンとしています。
 昭和14年にはこの基準を改定し「鋼道路橋設計示方書案」が制定されました。ここでは、橋の等級を1等橋と2等橋の2区分とし、設計荷重はそれぞれ13トン、9トンとしています。また、設計細目や構造細目も整備されています。なお、これら過去の技術基準類については、土木学会附属土木図書館の「土木図書館デジタルアーカイブス」でWeb公開されています。このサイトには、戦前の図書や雑誌、絵葉書や写真等、皆さん方の興味を引きそうな情報が多く掲載されていますので、立ち寄ってみられては如何でしょうか。
 本連載第2号で紹介したとおり、土木研究所は、大正11年(1922年)9月30日の内務省土木試験所の設置をもって、創立としています。今年9月に、100歳となります。当時の歴史をみると、大正12年関東大震災の災害調査、大正15年内務省道路橋構造細則(案)の作成に参画、昭和6年国道鉄筋混凝土T桁標準案作成、昭和14年鋼道路橋設計示方書(案)の作成に参画等の記述が見られます。土木研究所の設立当初から、橋梁の技術基準に携わっていたことがうかがえます。
 昭和30年代になると、鋼橋、コンクリート橋、下部構造といった各構造物の技術基準が逐次整備されていきます。標準設計とあわせ、高度経済成長期の橋梁建設を支えてきたといえます。昭和47年には、それまで複数存在していた示方書や指針類を統合し、道路橋示方書Ⅰ共通編、Ⅱ鋼橋編が制定されました。また、昭和53年のⅢコンクリート橋編を経て、昭和55年にⅣ下部構造編、Ⅴ耐震設計編がまとめられ、現在の5編の体系として制定されています。
 その後、車両の大型化や疲労、塩害、アルカリ骨材反応への対応、度重なる地震を契機とした耐震設計の高度化等、その時代の要請や技術の進展に併せて、平成29年までに7回の改定が行われてきました。

表-1 道路橋の技術基準の変遷

【平成29年改定の概要】

 平成29年の改定は、昭和47年の制定以降、7回目の改定となりますが、その書式を部分係数設計法に変更する等、制定以来の大幅な改定となっています。

①性能規定型
 平成29年の改定では、平成13年から進めていた「性能規定型」に抜本的に見直しています。
 平成13年より前の道路橋示方書では、要求性能を明示しておらず、仕様的な規定として技術基準を定めていました。それを平成13年の改定では、図-1の①として模式化するように、個々の仕様規定を性能の標準的な達成手段、「みなし規定」としたうえで、その上位条文として、規定の意図を要求性能として示しました。このようにすることで、標準的な達成手段の求める意図を満足し、従来の標準的な手段と同等の安全性を有するものであれば、標準によらないこともできることを基準として明らかにしました。
 しかし、これを適用するにあたって、性能を比較、評価するための項目の充実や指標の具体化が課題として残されました。また、個々の条文の単位、すなわち橋の性能を構成する要素では性能が示されたものの、新しい上部構造形式などに対応するためには、個々の条文の範囲を超え、それを統合したものとしての性能を評価するための項目や指標も必要となります。しかし、耐震設計の一部を除けば、これらは明確でないままであり、様々な材料や合理化構造が提案されるなかで、橋の性能の説明の方法について統一的な考え方が求められていました。
 平成29年の改定では、図-1に示すように、平成13年から導入している条文単位での性能規定化はそのまま引き継いだうえで(図-1の①)、さらに、橋全体系、上部構造・下部構造・上下部接続部、部材、材料の単位で、求められる性能を階層化して規定するという、性能の階層化を行いました(図-1の②)。併せて、各階層において、外力と抵抗の関係における安全性や荷重支持機能の信頼性を明確化することを求めています(図-1の③)。これら性能規定化構造が一連となって構成されたことが、平成29年改定のポイントです。
 このように要求性能に階層性を持たせることで、橋全体として求める性能とそれを満足するための前提条件となる構造や部材の性能の関係が明確になります。また、新しい材質や部材の性能を評価するうえでも、その性質や強さなどの品質の保証に加えて、それらの使用による橋全体の性能との関係性を説明すればよいこととなります。


図-1 性能規定化の進化

②限界状態設計法と部分係数設計法
 性能を照査する手法として、限界状態設計法を導入しています。橋梁が遭遇する荷重等の作用状況を「設計状況」とし、各設計状況に対して橋がどのような状態であるべきかを「限界状態」として、性能マトリクスの形で規定しています。
 その際、どの程度の確からしさで達成されるかも重要です。性能を照査する際の各種不確実性については、複数の要因毎に評価する「部分係数設計法」により評価しています。部分係数設計法については、海外基準や土木学会基準、また、鉄道や港湾施設でも既に採用されており、ある程度理解されてきた設計手法といえます。

③改定の目的
 設計手法としては、上記のように抜本的に見直していますが、書式の変更は手段であり、それが改定の目的ではありません。平成29年の改定のポイントは、図-2にまとめられています。
 多様な構造や新材料に対応するため、きめ細やかな設計が可能となるよう、手段として上記の性能規定化や部分係数設計法・限界状態設計法を導入しています。さらに、長寿命化を合理的に実現するため、設計供用期間100年を標準とし、耐久性確保の具体の方法を規定しました。これらにより、安全性の向上、国際競争力の向上、技術開発・新技術の導入の促進、ライフサイクルコストの縮減を図り、適切な維持管理により長寿命化を達成することを目的としています。


図-2 道路橋示方書平成29年改定のポイント(道路技術小委員会資料より)

【道路橋示方書における長寿命化実現のための規定】

 平成29年改定における二つ目のポイントである、長寿命化を合理的に実現するための規定について紹介します。

①耐久性設計(共通編6章)
 平成29年の改定では、橋の耐久性能を規定しています。耐荷性能と耐久性能は別の概念としており、橋の耐久性能は、橋の耐荷性能を満足させるための前提条件として位置付けています。
 橋の耐荷性能は、任意の時点の載荷状況に対して、所要の橋の状態を実現できることの確からしさで定義されます。このとき、橋の供用期間中の任意の時点で耐荷性能が満足されるための前提として、経時的な影響に対して、耐荷性能の前提となっている部材や材料の力学特性が保証されていなければなりません。そこで、橋の耐久性能は、経年の影響の累積に対して、橋の耐荷性能で見込んだ部材や材料の状態が保持される期間が、所要の信頼性をもって当該部材の設計耐久期間以上になるよう確保するものとしています。
 ただし、作用の累積に伴う材料等の経時変化のみならず、作用の累積そのものの見積もりや劣化そのものの想定は非常にばらつきが大きいものがあります。このため、橋の耐久性における信頼性を、部材等の更新や修繕、点検といった維持管理戦略までを含めて、耐荷力の設計の前提とした橋の状態を目標期間中維持することの確実性と捉えています。
 部材等の設計耐久期間に対して所要の耐久性を確保するための方法として、表-2の3つの方法に区分しています。その際、補修、更新等の想定される維持管理を、適切に設計に反映させるとしています。

表-2 耐久性確保の方法

②維持管理の確実性及び容易さ(共通編1.3、1.7)
 橋の設計の基本理念として、使用目的との適合性、構造物の安全性、耐久性、維持管理の確実性及び容易さ、施工品質の確保、環境との調和、経済性を考慮することとしています。この内、維持管理の確実性及び容易さについて、紹介します。
 100年間にわたり橋梁の性能を保持するためには、供用中の日常点検や定期的な点検、地震等の災害時の調査の他、劣化や損傷が生じた場合に必要となる対策が確実かつ合理的に行えることが求められます。これが、維持管理の確実性及び容易さです。設計段階で予定する点検などの維持管理行為を容易に出来るよう配慮するだけでなく、維持管理が困難な部位をできるだけ少なくするなど維持管理が出来ることの確実性についても配慮すべきとしています。
 とくに、跨道橋や跨線橋では、定期点検や災害時の点検、劣化の補修や被災時の復旧などの工事が適切に行われるよう、架橋位置や構造形式、維持管理設備の計画が重要となります。

③前提とする維持管理の条件(共通編1.8.1)
 設計にあたっては、前提とする維持管理の条件を定めなければならないとしています。具体的に橋及びそれを構成する部材等の設計を行うにあたっては、100年間という設計供用期間中にどのような維持管理を前提とするのかによって、橋の性能を満足させるための設計条件が異なってきます。例えば、前述した耐久性能の照査は、維持管理の条件によって、部材等に求める設計耐久期間が変わってきます。また、地震等による影響を受けた場合に、橋の機能が損なわれているかどうかを速やかに確認できるような構造になっていなかったり、必要な維持管理設備が設けられていなかったりすると、橋の状態が速やかに把握できなくなります。耐荷性能としては早期の機能回復や緊急車両等の走行性の確保を求めたにも関わらず、結果として点検の結果待ちとなってしまうと、その性能が達成されないことになります。このように、橋の性能の実現には、どのような維持管理を前提として部材や構造等の設計を行うのかが密接に関連することから、橋の設計においては、あらかじめ前提とする維持管理の条件を定めることが必要となります。
 橋全体としての設計供用期間100年に関わらず、橋を構成するそれぞれの部材では、設計供用期間中に更新することを前提として設計する方が合理的となる場合もあります。このため、部材によっては、橋の設計供用期間とは別に、当該部材の耐久性を確保する目標期間を別途定めて、所要の耐久性が確保されるように設計できることを規定しています。このような部材毎の設計条件が維持管理に確実に反映され、更新や補修などが適切な手法で行われる必要があります。

④構造上の配慮(共通編1.8.3)
 橋の設計にあたっては、上記の耐久性の確保や維持管理の確実性及び容易さについて、具体的な構造設計において配慮していくこととなります。その際、耐久性能を満足するための設計の前提条件と、部材各所における局所的な応力状態や暴露環境との乖離を小さくすることができる細部構造とするための配慮も重要となります。
 材料の経年劣化は、橋の各部における応力状態や劣化因子に対する暴露状況の局所的な条件にも依存します。部材の局所的な環境条件の違いを原因とする耐久性のばらつきをできるだけ小さく出来るよう、構造各部の細部構造に十分配慮することが求められます。例えば、継手位置や補剛材の位置関係が部材の局所的な応力状態に与える影響により、設計で想定している応力条件から乖離を生じさせることもあります。また、水の排出・滞留状態は局所的な構造特性に依存し、耐久性をばらつかせる要因となり得ます。これらができるだけ小さくなるよう細部構造にわたって配慮を行う事が求められます。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム