南阿蘇鉄道は、2016年4月11日に発生した熊本地震によって甚大な被害を受けた。全線が17.7kmに対して、全線の中央から立野駅に向かうにしたがって被害が激化している状況にあった。構造物は2つの橋梁、2つのトンネルが大きく損傷した。土木的な被害では法面変状、落石、地盤変状、ホームの変状、軌道の変状、路盤の陥没などが生じた。現在、高森駅から中松駅は復旧している一方で、中松駅から立野駅までの復旧工事に全力を挙げている。既に土工、トンネル部、立野橋りょうの補修は完了し、現在は最大の構造物である第一白川橋りょうの架替えを進めている。同現場を取材した。(井手迫瑞樹)
変位量は最大で鉛直方向に495mm移動 鋼桁の破断や著しい変形示す
ローラー沓の逸脱や橋脚基礎のせん断破壊等著しい損傷も生じる
損傷状況
第一白川橋りょうの旧橋は152.4mの鋼2ヒンジスパンドレル・ブレースト・バランストアーチ橋。A2側(長陽駅側)の単純鈑桁は大きな被災がなく、A1-P1側のアーチ橋に被害が集中した。損傷は1Aが先行して移動し、1Pが追従するように変位した可能性がある。変位量は最大で鉛直方向に495mm(1A橋台上流側)、白川下流方向に250mm(1A橋台)、支点間距離縮小方向に230mm(1P→2P方向)移動した(右上図参照。南阿蘇鉄道提供、以下注釈なきは同)。それに伴い部材も1A橋台~1P橋脚間の部材が破断や著しい変形を示し、1A橋台と3P橋脚のローラー沓の逸脱、1P下流橋脚基礎のせん断破壊、2P橋脚ピン支承の台座コンクリートからの浮きあがりが確認された。加えて基礎も布田川断層を抱える起点側(犀角山トンネル出口)の下方斜面(橋りょう基礎部の斜面)が、脆弱な岩質(凝灰角礫岩および安山岩、一部破砕帯も有する)であることが確認された。終点方(戸下トンネル入口)斜面でも、上流側では不安定な浮き石が多く、下流域では橋脚基礎周辺が表流水による浸食が進んでいることなどから、架替えに際して下部工の補強も必要と判断した。
さらに上部工は1P-2P間が230mmほど、支間が短くなっている状況にあり、中央が160mmほど反りあがるような変形をしていた。地盤が変形したことで、多くのブレース材に座屈、破断が生じていた。
また、側径間の下弦材では、土砂崩壊の影響で、大きく塑性変形している状況にあった。それら支点が動いた状況を解析してみると、多くの部材で降伏を超える数値が出ていた。
鋼桁の座屈、変位、基礎のせん断破壊などが生じていた
唯一無事であったP3-A2間の鈑桁(井手迫瑞樹撮影)
1A側は崩して平場にした旧犀角山トンネルのヤードを使用
2A側は戸下トンネルを背後に控えるためヤードが狭い状況
仮設主塔およびクレーンの設置
さて、まず架設・撤去のための仮設主塔の設置である。
ケーブルエレクション設備計画図
(左)1A側架設主塔とストランドチャッキングシステム、(右)2A側架設主塔はバックヤードがないためグラウンドアンカーを配置している(井手迫瑞樹撮影)
仮設主塔は1A側(立野側)が120tで塔高35.435m、2A側(長陽側)が137tで塔高40.435mのものを建てこんだ。1A側は背面に在った犀角山トンネルの損傷が著しかったため、同トンネルを崩し、平面化したため十分な施工および仮組、仮置きヤードを確保することが出来た。そのため1A側は200t吊オールテレーンクレーンを用いて20ブロック(最大重量は塔頂梁の33t)に分けて施工した。
一方で2A側は背後にトンネルを控えヤードが狭かったことや、復旧した線路上の移動があり、使用する専用台車の積載能力の限界なども踏まえて、46ブロックに細かく分割し、最大でも4.8t(鉄塔柱材)に抑えて35tラフタークレーンで組み立てた。
ケーブル(鋼索)は、概ね足場や材料などを運ぶメインケーブルと、撤去・架設時に上部工の荷重を支える受梁を支持するため桁の両側に配置する直吊りケーブルがある。これらを支えるために1A側にはアンカーブロック、2A側にはグラウンドアンカーを配置してケーブルを定着した。吊り索の定着はストランドチャッキングシステムを採用している。
1A側アンカーブロックは地中にめり込む形で逆凸型のブロックを採用している。アンカーに作用する水平力に対し、必要とする前面土圧を確保するため用いたもので、アンカー重量は924tに達する。2Aについては、削孔径165mmの中に80mm(ケーブル径は54mm)のタイブルアンカーA型F230TAを挿入し、外側はグラウトで充填する。トンネルが直近にあるため、これを上下流に6本ずつ配置した。支圧版はサイズ3,800mm×4,300mm(t=700mm)のRC支圧版を用いている。
吊索同士を鋼製の受梁で結び、既設の下弦材を下から抱え込むように支持
中央径間の上弦材、斜材、垂直材を外側から中央に向かって撤去
既設橋の撤去
施工は、両側のタワークレーンに吊支持用のケーブルを2本通し、同ケーブルからハンガーロープのように吊索を下げて、吊索同士を鋼製の受梁で結び、既設の下弦材を下から抱え込むように支持することを基本とした。2格点分を1つのパネルとして考え、受点をその数設けた。これだけ降伏した部材が多くあると予想される中では、無応力状態での撤去が最適なためだ。通常であれば下からベントでついてそうした状態にするが、谷間にあるこの現場ではとてもできない。そのためこのような特殊な直吊り工法を選択した。
直吊設備資材構成図および同設備設置状況
撤去用の作業足場は、下弦材通路足場の組立ては、メインケーブルクレーンで運び、1つ1つ組み立てた。垂直材や上弦材の足場は設置箇所付近に荷置き場を設けてケーブルクレーンで足場材を運搬後、手組した。
撤去はまず側径間から施工した。側径間撤去後は作業受梁を盛替えて中央径間の上弦材、斜材、垂直材を外側から中央に向かって撤去していった。中央径間中央部から外さないのは、地震時の損傷が中央に反り上がる性状を示しており、大きな応力がかかっているため、その反力を警戒してこうした手順とした。
最後に中央径間の下弦材を撤去するが、これは中央から外側に向けて撤去していった。(施工手順は右図(図は拡大できます))
旧橋の撤去状況
熊本地震級、立野ダムの湛水時の水の影響による水平力や負反力にも耐えられる設計
支承規模は1基12,000kN 損傷制御設計も施す
新橋の設計コンセプト
新橋は旧橋と同じ橋梁形式を踏襲し、152.15mの鋼3径間連続スパンドレル・ブレースト・バランストアーチ橋とした。
新橋の全体一般図
新橋が考えなくてはならない設計コンセプトは大きく分けて2つある。1つは、布田川断層の影響や、今次の地震による地盤の損傷を加味しつつ、熊本地震級にも耐えられる橋梁を作ること。そしてもう一つは立野ダムの湛水時(豪雨時が考えられる)の水の影響による水平力や負反力にも耐えられる設計にすることである。湛水時のSWL(サーチャージ水位)は中央径間の下弦材が一部つかる箇所まで到達する。つまり橋に水圧がかかることを考慮した橋の設計を行わなくてはいけない。また、水にぬれることによる劣化防止(防水・防食)も考慮しなくてはいけない。
1P、2Pの支承は1,200t(12,000kN)規模(1支承線で2,400t)を用いた。橋梁の鋼重は650tとそれほど重くないが、地震時及び洪水時の水圧による水平力がかかるため、支承の規模が大きくなった。また弦材はすべてボックス構造であるため、湛水時には浮きやすい構造である。その浮力も計算に入れ、支承(4基)は引き抜き対策として2m超のアンカーボルトを施工している。アンカーボルトのΦは120mmを20本配置した。また、地震時において支承の損傷により段差が生じてしまうことを防ぐために、ベースプレートと下沓のボルトが先行破壊するようにする損傷制御設計を施した。
工場での仮組状況
1,200t規模の支承を用いた(井手迫瑞樹撮影)
防食については、湛水時の水が溜まらないように水抜き孔を適切に配置している。防水としては、中間支点(1P、2P)が湛水試験時に浸かってしまう。支承はピン構造であるためその隙間に水や土砂が詰まってしまう可能性があることから、コーキングを施している。
コーキング状況