(1)はじめに~最近の話題を二つ~
①橋見学
4月9日土曜日の昼過ぎ、大阪市内の東横堀川沿いの桜見物に出かけた。時期は過ぎていたが中々見ごたえがあった。その後、特殊高所技術㈱山脇さん企画の「夜桜クルーズ2022」に。天満橋前の船着き場から総勢10名程が乗り込み、花見酒とあいなった。大川から堂島川と船に揺られながら。天神橋、天満橋、川崎橋、新桜ノ宮橋等々(写真-1参照)。水の都、大阪ならではの名橋の数々。普段は見られない船からの橋見学はたまらないものである。新入社員の頃、先輩に教えられた。「橋は下から見るもの」。本四橋を作っている側からすれば、正にそうなんだろう。吊橋や斜張橋の橋脚や主塔、主桁や補剛桁の織り成す構造美は、海面上から見上げれば一層素晴らしく思う。天神橋に見られるリベット継手しかり、川崎橋しかり、よくぞここまでメンテナンスをされていることに敬意を表したい。
②橋梁の技術支援
最近は、国内・国外の橋梁の技術支援を依頼されるケースが多くなっている。京都市の吊橋や横浜市の斜張橋、九州のPC斜張橋、ベトナム(斜張橋)やインドネシア(PC橋)、アフリカ(ED橋)の橋梁等である。1988年の瀬戸大橋供用後、新たな箱桁吊橋の計画を行うこととなった時の話である。当時の尊敬する所長が「角君、中央支間長600m級の箱桁吊橋案に対抗出来るPC斜張橋案の検討をしてみないか」と。当時、PC斜張橋と言えば鹿島建設さんの独壇場であった。鹿島建設の方にアポを取って、早速、視察に出かけた。佐賀県の呼子大橋である。農林水産振興事業の補助金で建設された名橋である。その後も多々羅大橋設計時に建設中の伊唐大橋を訪ねた。いずれの斜張橋も鹿島の名物所長であった栄所長に案内して頂いた。これらの橋も供用開始から既に40年が経過している。ある橋ではウエークギャロッピング対策の連結ワイヤーが破断したり、主桁等にクラックが発生しているようである。今後もこれらの歴史的な名橋を長く使用するためには適切な診断と処方が不可欠である。二昔前、コンクリート構造物はメンテナンスフリーとか、言う時代があった。福岡県では、新設の橋梁計画案の星取表が何れもコンクリート橋にNo.1の評価が付いていた。土地柄であろうか。コンクリート橋にはコンクリート橋の良さがある。相反して鋼橋には鋼橋の良い所がある。重さの違いであり、腐食するしないの違いである。適材適所で材料を選択し、延命化のための創意工夫をしていくことが望まれる。
今回は、前回に引き続き鋼構造物の防食について感じていることを記述する。
(2)鋼構造物の防食の重要性
①橋梁の架替理由と損傷理由
鋼構造物の防食の重要性については、皆さんご存知のとおりである。図-1.1に橋梁の架替理由(直轄管理)を、図-1.2に鋼道路橋の主な損傷(一般国道)を示す。図-1.2に示すように鋼道路橋の主な損傷の97%が防食に関することである。
②長期防錆型塗装系
飛来塩分の影響等を受ける海峡部橋梁については、「長期防錆型塗装系」を採用している。この長期防錆型塗装系(図-2.1参照)は、防食下地+下塗り+中塗り+上塗りで構成されている。それぞれ各層の役割は、図-2.2のとおりである。
③長期防錆型塗装系の要求性能
長期防錆型塗装系の要求性能は、防食性能、耐久性能(耐候性、耐熱性、耐水性、耐湿性等)、環境性能、景観性能、付着性能、施工性能の6点である。
④長期防錆型塗装系のポイント(その1)
長期防錆型塗装系のポイントの一つは、「防食下地」である。防食下地は、高濃度な亜鉛末を下地に用いることにより、塗膜が素地(鋼材)に達するような損傷を受けた場合でも亜鉛が素地(鋼材)に優先して腐食することで防食する「犠牲防食作用」を用いている。防食下地に用いる塗料の特徴を表-1に示す。
塗替え塗装においては、表-1に示す付着性、施工時の制約から「厚膜型エポキシジンクリッチペイント(通称;有機ジンクリッチペイント)」が使用される。つまり、防食下地としては無機ジンクリッチペイントが圧倒的に優勢ではあるが、付着性の確保のために1種ケレンが必要なこと、施工時の相対湿度の管理範囲が狭いこと、から厚膜型エポキシジンクリッチペイントを採用している。
⑤長期防錆型塗装系のポイント(その2)
長期防錆型塗装系では、防食性能は下塗り塗料と防食下地に委ねている。それでは上塗り塗料には何を期待しているのか。美観維持であり、耐候性である。本塗装系を気中に暴露すると、有機化合物は紫外線と水等の影響(塗料中の顔料も)で塗膜表層の分子が徐々に分解していく。この現象により、塗膜表面の光沢度低下(光が乱反射)、色彩変化、白亜化(チョーキング)に至る。塗膜の損傷の起点であるチョーキングを抑えることが「有機系塗料の最重要課題」である。