橋梁のDBから診断、工費算定までひとつのシステムで対応可能
IHIグループ 橋梁維持管理支援システム「BMSS」を展開
IHI、IHIインフラシステム(IIS)、IHIインフラ建設(IIK)は「橋梁維持管理支援システム【BMSS】(*1)」を開発し、地方自治体・設計および点検会社向けに展開を開始した。同システムは、橋梁諸元、定期点検、補修設計、補修工事の各データを連動させ一括管理でき、さらに直営点検や補修工法選定、概算工費算出を支援するツールも搭載した橋梁の維持管理を統括支援するシステムである。IHIでは、人材や予算などで課題を抱える地方自治体をはじめ、設計および点検会社などで活用され、橋梁の点検・補修計画から補修工事までの各段階における維持管理業務の効率化に寄与したいとしている。
一括管理データベースと業務支援ツールを包括提供
若手技術者でも扱いやすく、維持管理に関する情報を多数掲載
BMSSの最大の特徴は、異なるシステムをパッケージ化したことだ。従来から点検管理や損傷診断などのシステムは個別に存在するが、BMSSでは橋梁諸元、定期点検、補修設計、補修工事を一括管理するデータベース(DB)と業務支援ツールを包括提供することで、維持管理業務に必要なことをひとつのシステムで対応できるようにした。
BMSSの概要
利用者視点のシステムになっていることも特徴のひとつである。「対象を地方自治体、設計会社の若手技術者に絞って、使いやすい工夫を行った」(IHI 理事 社会基盤・海洋事業領域 副事業領域長 伊東章雄氏)というように、橋梁補修の経験が少ない技術者でも簡易にデータを入力できるように、プルダウンでの選択や選択の際に参考となる写真や解説図版を入れて、順次入力をしていけば作業を完了できるようにした。
プルダウン表示や参考写真により、簡易なデータ入力を実現
橋梁の維持管理に関する用語集やNETIS登録などの新技術情報(現時点で約200程度)も掲載しており、不明点や参考にしたい資料をすぐに参照できるような対応も施されている。さらに、BMSSの全ページに相談窓口ボタンを設置して、操作に関することだけでなく、技術的な疑問や質問について、メールを送信すればIHIグループの鋼橋およびコンクリート橋の専門家が対応するサポート体制も整えた。
用語集と新技術情報の一例
橋梁諸元DBと維持管理DBとの連動により、欲しい情報を瞬時に検索
マッピング機能により橋種や健全度などに応じて橋梁を色分けして地図上に表示
一括管理DBは、橋梁諸元DBをベースとして定期点検など3つの維持管理DBとの連動により、橋梁名や工事名、変状種類などのデータをそれぞれ紐づけて保存するもので、キーワードにより関係書類やデータが瞬時に検索可能になる。地方自治体では「過去データを探す作業に時間がかかる、点検・設計・工事の履歴が分からない」といった課題が生じていたが、一括管理DBによりこれらの課題が解決される。
具体的には橋梁データ検索機能により、例えば橋梁補修設計・工事履歴紐づき機能で各橋梁の劣化要因や実施した対策の確認が可能となるほか、緊急点検が発生した場合に同一地区橋梁や同一構造形式を即時にリストアップして、緊急点検計画策定の手間を大幅に減らすことができる。
橋梁諸元と維持管理データを紐づけて保存。フィルター検索も可能
IHIグループが実施した地方自治体への説明会で評判が良かったのは、「タイムライン機能」だ。「ひとつの橋のカルテがすぐに見られる」(同)もので、定期点検・補修設計・補修工事の履歴が時系列で画面上に表示され、該当部分をクリックするとその内容が表示される。また、定期点検と補修設計・工事の関連性も「階層構造表示」で確認できる。
一括管理DBには橋梁データマッピング機能があり、橋種や健全度などに応じて橋梁を色分けして地図上に表示する。and検索にも対応しているので、例えば「塩害による損傷が発生している健全度Ⅲの橋梁」を地図上に表示することで、地域を特定した塩害対策工事の包括発注の検討も可能だ。
タイムライン表示で定期点検と補修設計・工事の履歴がひと目で分かる
橋梁データマッピング機能。橋種や健全度などに応じて橋梁を色分けして地図上に表示(※サンプルデータであり実際とは異なります)
本システムを導入の際、IHIに橋梁管理データ(csvファイル)を提供すれば、IHIグループでデータをインポートして納品することも可能である。導入後は、発注者が受注者(設計会社など)にID、PWを一時的に付与することで、成果品、データの入力を受注者が行い、電子納品することが可能となる。発注者は確認、承認を行うだけのため、発注者の業務削減に寄与する。また、受注者は権限範囲内の過去データや履歴を閲覧できるため、情報共有にも役立つ。
権限付与により電子納品や情報共有が可能に
直営点検支援ツールで定期点検調書作成を効率化
補修工法選定サポートツールはコンクリート橋だけでなく鋼橋、付属物にも対応
業務支援では、「直営点検支援」「補修工法選定支援」「概算工費算出支援」の3種類のツールが実装されており、来春には「長寿命化計画支援ツール」が実装予定だ。
直営点検支援ツールは、構造形式ごと、点検部位ごとに点検ポイントや変状例を分かりやすく解説する機能を備え、かつ国交省報告様式1、2を自動で作成することが可能なシステムとなっている。そのため、現地にてタブレットを活用し入力すると、事務所で様式1、2の出力が可能となる。
点検に必要な情報や方法を分かりやすく解説
定期点検調書(国交省報告様式1、2)を自動で作成
IHIグループでは直営点検を推奨する橋梁として、前回点検で健全度Ⅰの15m以下の橋梁を挙げている。これは次回点検までに劣化が急速に進行する可能性は低いと考えられるためだ。また、直営点検の橋梁を増やすことで、点検にかかる予算を削減し、その分を補修設計・工事の予算に回して対策の進展が期待できる。
補修工法選定サポートツール「IRDS」(*2)は、補修設計を行う際に劣化要因の診断や試験方法、対策工法の選定、概算工費の算出を行うもの。他システムと違い、IRDSではコンクリート部材だけでなく、鋼部材や支承、伸縮装置、高欄の付属物にも対応していることが特徴だ。劣化診断ではエキスパートシステムを採用して、一問一答形式ですべてに説明写真や図版を入れて、写真や図を見ながら選択が可能なため、経験の少ない若手技術者でも容易に入力が可能である。
鋼部材、コンクリート部材、付属物に対応
写真や図を見ながら一問一答形式で入力
IRDSでの診断結果例
変状レポートでは対策工法が示される
「設計会社の成果品の確認ができない」「再劣化が多数発生している」といった地方自治体の課題もIRDSで補修工法・材料が適切であるかを調べることが可能で、セカンドオピオンとして活用することも可能だ。「維持管理の教科書がない」との声には、試験方法、対策工法の技術情報を一覧表で掲載して、それぞれの詳細が確認できるようにした。参考図書・文献や論文も掲載してポップアップ形式で簡単に出せるため、資料を探す手間がかからないという特徴も有している。
デジタル教科書としての活用も
概算工費算出支援ツールは足場工費にも対応
長寿命化計画支援ツールは部材健全度Ⅰ~Ⅳをベースに評価
概算工費算出支援ツールの特徴は、対策工費、諸経費に加えて算定が難しいとされる足場工費にも対応している点だ。従来足場やシステム足場など多様な足場に対応し、防護工の有無や数量、現場条件、工期などを入力することによって算出ができる。IRDSと同様に入力の際には写真や図などの説明があり、経験の少ない若手技術者でも容易に入力が可能である。
多様な足場工費を算出できる
実装予定の長寿命化計画支援ツールでは、ふたつのことに重点を置いて開発を進めている。ひとつは対策優先度評価基準である。地方自治体によっては部材ごとに健全度区分を細分化(a、b、cなど)しているが、細分化が必要のない自治体があることや出力過程の分かりやすさを追求し、BMSSでは部材ごとの健全度Ⅰ~Ⅳをベースに評価するツールを構築している。Ⅰ~Ⅳで対策優先度が把握できるためだ。
橋梁の重要度に応じた健全度の順位づけについても重点を置いている。緊急輸送道路や鉄道などとの交差橋梁、水道管などの添架物のある橋梁は優先的に対策を取る必要があるためだ。優先度評価や対策工法,数量計算方法など細部については、現在、大学と共同研究を進めているという。
「ひとりあたり年間100時間程度の時短が可能」という自治体も
新技術や他自治体の動向を掲載した新聞も発行
IHIグループでは、BMSSの開発に約3年をかけたという。維持管理業務の現状と課題を把握するために、地方自治体を中心に国土交通省、高速道路会社、設計会社を含め延べ100ほどの法人に数回にわたりヒヤリングを実施した。地方自治体では、「紙保存で探すのが大変。点検に予算がかかる。技術職員以外で橋梁保全を担当」などの“お困りごと”を聞いて、それらを解消できるシステムとして、地方自治体へフィードバックしながらBMSSの開発を進めた。
ヒヤリングや事前説明会ではシステム導入により、「ひとりあたり年間100時間程度の時短が可能」「ワンデーレスポンスではなく、ワンアワーレスポンスができる」といった効果も地方自治体から寄せられた。
販売営業や導入後のサポートは、IISとIIKの営業を全国9ブロックに分けて行っていく。システムを販売するだけでなく、新技術や他自治体の動向を掲載した「BMSS新聞」を2カ月に1回発行して契約先に持参し、相談に乗るといったリアルでのコミュニケーションも図っていくという。
「BMSS新聞」サンプル。本システム利用者とIHIグループのコミュニケーションツールとしても活用
今後について、伊東章雄IHI理事は「2020年度の段階で地方自治体での健全度Ⅲ橋梁の対策完了率は35%となっている。これを上げるために、BMSSが業務効率化の一助になればいい」としたうえで、「各自治体のデータを接続して、ひとつのコミュニティーとしても活用できるようにしていきたい」と抱負を語った。そのための一例として、国土交通省や自治体等が保有している他のDBとのAPI連携も視野に入れている
システムについては、直営点検支援ツールに加え、設計会社用の定期点検用システムを提供していくことを検討中のほか、利用者に役立つシステムとなるようブラッシュアップしていく予定である。
*1 BMSS:Bridge Management Support System
*2 IRDS:IHI Repair Diagnosis Support