2021年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑩日本鉄塔工業
鋼材価格高騰の影響を強く懸念 環境負荷低減の技術開発に重点
日本鉄塔工業株式会社
代表取締役社長
有田 陽一 氏
当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。6回目は、日本鉄塔工業の有田陽一社長と、駒井ハルテックの中村貴任社長の記事を掲載する。
――業界を取り巻く環境と現状について
有田 当社の主力事業のひとつである橋梁事業においては、保全分野の重要性がより高まりをみせ、新設橋梁と保全工事をあわせた鋼橋分野の発注量は昨年度を上回ると予想している。
鉄塔事業では2050年カーボンニュートラルに向けた再エネ大量導入とエネルギー供給の強靭化に対応した送配電ネットワーク整備のグランドデザイン(マスタープラン)の策定に向けた検討が進んでいる。こうした動きが鉄塔業界に与える影響を電力各社の動きと併せて注視している。
また、記録的な大雨など甚大化する自然災害に対して当社にできることは何か、果たすべき社会的使命とは何かなど社内の横断的な取り組みでタスクフォースを立ち上げて検討している。さらに昨秋以降、鋼材価格が高騰しており、採算への影響を強く懸念している。
――昨年度の業績は
有田 橋梁事業では、九州地整『春の町ランプ(P8-9)上部工事』、北九州市『楠橋楠北1号線』等を受注した。完成工事では有明海沿岸道路関連の『早津江川橋』が多くの方々の支援を受けてお引渡しできた。また、福岡県発注の『新北九州空港線2号橋』はドーリーを使用した夜間架設を無事に終え、本年5月の供用開始に間に合うことができた。さらに、当社の特許技術を活用した『低騒音伸縮撤去工事』、『損傷したゴム支承の取り換え工事』等のメンテナンス工事も無事に完了した。
令和2年7月豪雨において熊本県の球磨川の氾濫で被災した西瀬橋の応急復旧工事では、2部門で局長表彰を頂けた。昼夜を徹しての突貫工事となり被災から約2ヵ月で開通にこぎ着けた。微力ながら地元の方々の生活の早期再建に貢献できてよかったと思っている。
鉄塔事業は例年通りであり、特段の変化はなかった。
――今年度の需要環境と業績目標について
有田 新設橋梁の発注量は昨年度と同水準と見込んでいる。技術提案や積算精度の向上に努め、着実な受注につなげていきたい。また、発注量がより一層増加するとみている保全工事にはこれまで以上に強力に取り組む。足元、独自開発の特許技術が実を結びつつあり、将来が楽しみである。
また、当社が参画した『新阿蘇大橋』がこのほど田中賞を受賞した。2016年熊本地震の被災を受けて新たに建設された橋梁だが、その一翼を無事に担えて安堵している。
鉄塔事業では引き続き、新規の各建て替え工事等に貢献していく方針だ。来年に予定されている設計基準JECの改定に向けて、悩みながらも前に進んでいる。
田中賞を受賞した「新阿蘇大橋」
――設備投資計画は
有田 設備投資計画では、工場の生産性向上やコスト削減、省エネ化の推進、品質向上等に直結する投資を優先して継続中である。昨今、気候変動のリスク低減、人権問題の解決等を念頭においたESGの視点が求められている。当社においても、企業の社会的使命をしっかりと認識した上で、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できるよう、新たな投資基準の採用を検討している。
――コロナ禍における勤務形態の取り組みと方針、DXへの取り組みは
有田 昨年来、新型コロナウイルス感染症対策として、在宅勤務、時差出勤、リモート会議等を導入、継続し、感染防止と拡大阻止に努めている。今後も引き続き、同施策を推進していく。コロナ禍というピンチをチャンスにして、社員一人ひとりが最も効果的な働き方を自ら選択できるような多様性のある職場にますますしていきたい。
また、DXについては、これまで新型コロナウイルス感染症対策としてデジタル化を進めたという側面が強かったが、今後は生産性向上の観点から、この流れを止めないように進めていきたい。
――新分野進出、技術開発など重点活動について
有田 新技術開発では、先述のESGの観点から、環境負荷低減を実現する技術開発を当社の重点施策に位置づけた。ライフラインに携わる企業として、企業の社会的使命をしっかりと果たせる存在であり続けられるよう早期に取り組んでいく方針だ。
(聞き手=大熊稔、文中敬称略)