トンネル本体工は新年1月から坑口付けへ
国交省近畿地整紀南河川国道 奥瀞道路(Ⅲ期)でニューマチックケーソンを相吊り架設
国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所は、奥瀞道路Ⅲ期の工事を進めている。同事業は、和歌山県の飛び地である東牟婁郡北山村(和歌山県に属するが、同村自体は奈良県と三重県に囲まれている)を結ぶ区間に作られている全長14.9kmの道路で、既にⅠ期6.3kmとⅡ期5.2kmの11.5kmが開通しており、現在はⅢ期として北山村小松~同村下尾井間3.4km間を施工中だ。ここでは拡幅盛土、橋梁のニューマチックケーソン施工、トンネルの施工共、条件的に難しい。ニューマチックケーソンの据付では、山奥の河川に関わらず、台船での施工を行っている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
壁面の施工においては1月当たり1.2mずつ立ち上げていく
拡幅幅分をFCBにより6mほど積み上げ
一番東側の下尾井地区から施工が進んでいる。同地区は北山川沿いの現道を500mほど現在の3mから7mに拡幅するもの、川側にコンクリート壁面を造り、拡幅幅分をFCBにより6mほど積み上げて、現在の現道の高さから2m程度、高くするものである。しかし、河川上には仮桟橋がかけられず、河からの施工はできないため、供用している道路を通行させながら施工しなくてはいけない。そのため東側(起点側)からの片押し施工を余儀なくされた。また「ヤードが狭く、小さい機械で少しずつ施工していくしかない」(松原組)ため、「壁面の施工においては1月当たり1.2mずつ立ち上げていくしかない」(同)状況だ。
壁面の施工においては1月当たり1.2mずつ立ち上げていく
2つの台船を構築してニューマチックケーソンを製作
ケーソン移動は相吊りして施工
1号橋(橋長178m、PC3径間連続箱桁橋)および1号トンネル(481m)の施工は、記者が最初に訪れた4月下旬の段階では、トンネルおよび橋梁工事を進めるための仮桟橋(ヒロセPG橋、G桟橋を採用)の施工が進んでいた。仮桟橋は全体で230mほどになるが、まだ完了はしていなかった。というのも桟橋を支持するための杭の一部(とりわけ河川内の水深が深い部分)で設計より支持層の岩盤が深くなっている箇所が見つかり、5か所ほどボーリングを追加して確認しなければならなかった。また、その結果、全体の25%の杭で長さが変更されて、杭を継ぐ必要が出て、杭を生産する手間が必要になり、それらに約3か月の期間を要したためだ。
4月上旬の施工状況
そのため、工期が限られているニューマチックケーソン(P1)の施工は、当初仮桟橋上にクローラークレーンを据付、ケーソンの製作ヤードも作る予定であったが、急遽、台船による施工に切り替えることにした。
必要な台船は2つである。すなわちケーソン製作ヤード用と製作のための200tクローラークレーン搭載用だ。まず200tクローラークレーンを搭載する水上ヤードを作るため、9.0×2.5mの台船を36隻、陸上ヤードに配置したクローラークレーンを使用して台船を並べて緊結し、さらに200tクローラークレーンを組み立てる。次いで、陸上に据え付けたクレーンを用いて、6.6×2.3mの台船を21隻配置して同じように緊結して、鋼殻ケーソン製作用のヤードを製作する。これらの台船は主に高知丸高のものを使い、高知から13t積みトラックに1ブロックずつ載せて小分けに搬送した。
仮桟橋の施工状況
地上側200tクローラークレーンの設置/フロート台船組立状況/台船側200tクローラークレーン設置状況
そのヤード上で、φ8.1m、高さ7.5m、重量約90トン、約51㎡の鋼殻ケーソンを組み立てる。
クローラークレーンを組立後、台船を定位置まで動かす/空いたスペースに鋼殻ケーソン用製作用の台船足場を投入する/台船足場構築完了状況
鋼殻ケーソンの製作状況
ケーソン設置個所の準備状況
組み立て終了後もダイナミックだ。水上の200tクローラークレーンだけでは安定感にかけるそのため、陸上部のクレーンと共に相吊りするのだ。相吊り施工の際、荷重は両方のクレーンに45tずつ均等にかかるが、台船側クレーンは、荷重のため台船が60cmほど沈み込む。台船側クレーンは前に倒れ込むのような案配になるため、それを考慮した同期、調整および操作を行った。3mほど上げて、製作ヤード用の台船を抜き、再度同じ個所におろして着水し3mほどの喫水で浮かべる。最後に水上の鋼殻ケーソンをケーソン設置個所のガイド杭と陸上部に固定したウインチと台船上の200tクローラークレーンでケーソン設置個所に約30mの距離を誘導し、所定位置に繋留した。一連の鋼殻組立据付作業は9月28日に施工した。
相吊り状況
ケーソン直下から台船が退出していく
ケーソンをいったん着水させる
台船上に据え付けた200tクローラークレーンで所定の位置まで曳航した
沈設後は河底から13mほどの深さを掘削する。最大水深12mで作業気圧は0.26MPa程度であるため、有人掘削可能、岩盤が先述した通り硬いため、装薬して発破し、その上で0.1㎥程度の能力を有するショベルで掘進していく。圧気のため電気が必要であるが、北山村内の商用電機では賄えないため、独自に発電機を調達して必要な電力を供給する。
1号トンネル
トンネルの施工は、まず仮桟橋を12月末までに完了させ、その後、坑口付けを行い来年2月ごろからトンネル掘削に着手する予定である。
仮桟橋の進捗状況
本体工はNATM工法で施工する。地山は四万十層群の砂岩主体で、抗口部DⅢ区間では、補助工法としてAGF工法が必要な区間があるものの、その他はほとんどCⅠないしCⅡで、湧水も少なく安定しているとみている。一方で課題となるのが酸性土および酸性湧水の可能性である。熊野市では昔鉱山であった箇所が確認されており、トンネル設置該当箇所においてもpHが大きく酸性に傾いている可能性は否定できない。そのため調査を進めると共に、必要な箇所があった場合は、コンクリートや鉄筋の劣化を防ぐための対策工を施していく方針だ。
基本的に東側からの片押し施工となるため、2号橋、2号トンネル、3号橋については未着工もしくは準備工を施工している段階だ。
設計は、1号橋、1号トンネルが中央復建コンサルタンツ。元請は下尾井地区拡幅部施工が松原組、1号橋P1橋脚下部工が大豊建設、1号トンネルが佐藤工業。