道路構造物ジャーナルNET

㉖コンクリート硬化前に振動を受けるコンクリート構造物

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2021.10.01

 私がかかわった特徴のある構造物について紹介します。鉄道以外でも有効な技術ではないかと思うものを何例か引き続いて紹介しようと思います。

1.列車振動を受けながらコンクリートが硬化して、鋼と一体化させた桁

 都市部で列車を止めることが難しい鉄道の既設構造物を、その下を道路が通るなど、今のスパンより広げる必要がある場合などに最近ではこの工法が数箇所で実施されています。

 既設高架橋下に道路などを通すために、高架橋を改築する必要が生じます。今までの一般的な施工法は次のような方法が行われています。
 列車の運行を止めないで工事をするため、まずはレールを仮設の鋼製の桁と鋼製枕木受桁を設置し、枕木受桁上の枕木に取り付けます。この鋼製の桁は、桁高は既設の構造物のスラブ天端と車両との間の空間に制約されます。構造物を造って良い範囲が建築限界ということで規定されています。
 まず今の枕木の間のバラストを掻き出し、そこに枕木を入れた鋼製の横梁(枕木受桁)を配置します。これは夜中に数本ずつ施工します。その後、主桁をバラストを掻き出して配置します。主桁と、横梁を接合して仮設桁が出来上がります。
 鋼製の仮設桁の支点部には事前に仮設の橋脚や杭を施工しておきます。仮設の桁を仮設の橋脚に載せた状況で、既設の構造物を壊して撤去します。その後に仮設の桁の下で新設の構造物を必要なスパンで造ることになります。その後に、仮設の桁と仮設の橋脚を撤去して新しい構造物に軌道を受け変えます。
 仮設の桁の下で行う本設の構造物の工事以外は、夜間列車の走っていない3時間程度の間での施工となります。仮設の桁を施工して、また撤去するのは、工期も工事費も非常にかかっていました。

 今回紹介する工法は、この工事桁を撤去するという工程をなくすために、仮設の鋼桁を残したまま利用して本設のSC構造の桁とするものです。都市部ですので、鋼桁では騒音が大きく許されないので、コンクリートで一体化した構造としています。合わせてSC構造とすることで死荷重のウエイトが大きくなり、鋼材の疲労の問題も解決されます。このコンクリートの施工も夜間の数時間で施工し、初列車からすぐに列車が通ることとなります。列車荷重をコンクリートが固まらない状態から受けて、鋼桁と、コンクリートを一体化させるものです。
 過去の文献でも、硬化中に振動を受けるコンクリートについてのものがあります。鋼材や型枠とコンクリートが一体に動けば、かえって締め固まるといわれています。
 開発に当たって最初に小型模型で実験をしました。型枠の中に鋼材と鉄筋を配置し、コンクリートを打設し、硬化前に鋼材に力を加えて上下に振動させると、鋼材(H型鋼)と鉄筋と型枠と、コンクリートが一体に動かないで、硬化中にひび割れが多数発生してしまいました。コンクリートと鋼材などが一体に動く方法を工夫しては何度か試験をしました。
 試行錯誤の末、鋼桁のI型桁の下フランジ上に側型枠を載せて、型枠と鋼材を一体化させることで、型枠と鋼材が一体に動くことになり、コンクリートにひび割れの生じないことが可能となりました。
 鋼材すべてコンクリートで包む構造を考えていましたが、それはあきらめ、下面は鋼材を表に出す構造にしました。鋼材とコンクリートと型枠が一体に振動すれば、完成物も十分一体の構造物になります。

 写真-1は、振動下で実物大の施工試験を行った供試体を、後から切断してコンクリートと鋼材の状況を見たものです。ひび割れもなく、充分密実なコンクリートとなっています。仮設の鋼桁の桁高は、車両と、高架橋スラブ上面の位置で制約されるので、7m程度のスパンとなります。完成構造物のスパンとしては下が道路などに使われることが多いため、大きなスパンが要求されます。そのため、桁高が必要となるので、写真-1でわかるように仮設桁の下に追加の鋼桁(補強桁)を施工して桁高を大きくしています。


写真-1 振動を受けながら硬化した実物大の供試体桁の切断面

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