西日本高速道路関西支社は5月19日0時から6月27日5時まで宝塚IC~吹田JCT間で桁や床版を取替えるリニューアル工事を行った。その間、宝塚IC~中国池田IC間は終日車線規制(全6車線を4車線)、中国池田IC~吹田JCT間は終日通行止めを行った。宝塚IC~中国池田IC間は主に床版の取替を行うが今回は防護柵設置などの準備工で、本格的な施工は8月中旬の規制期間内から始まっている。一方、中国池田IC~吹田JCT間は昨年、中国道御堂筋橋の鋼桁架け替えを行ったが、今回は同様の鋼桁架け替えを実に9連(豊中高架橋、宮の前高架橋、蛍池高架橋、御堂筋橋などの一部)同時期に施工した。中国池田IC~吹田JCT間は、2021年度に3回、2022年度に3回、今回と同様の更新工事を行う。全体で橋梁更新延長は約4.8㎞、橋梁修繕延長は約2.5㎞に及ぶ。床版取替は約46,000㎡(鋼桁更新時の床版取替含む、高性能床版防水は必須)、桁取替は約18,500t、床版防水工は約24,500㎡(高性能床版防水施工分のみ、床版取替分含まず)に達する。そのうち今回の第1期工事はいずれも上り線で宮の前高架橋P20-24、P36-38、P41-46、蛍池高架橋P1-P5、豊中高架橋P5-P8、P19-P22、P30-33、P37-41、御堂筋橋(下り線)A1-A2が対象で対象橋梁延長は約770m、橋面積は約7,600㎡に達する。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
本事業において更新工事・修繕工事を行う箇所
既設桁は単純合成桁を採用
設計から施工までの期間を3年で完了させるため切断合成桁を用いた
中国道中国池田IC~吹田JCT間の課題は、既設橋梁の特徴にある。関西支社内の中国道・近畿道の橋梁は1970年3月の大阪万博に間に合わせるため、設計から施工までの期間を約3年で完了させる必要があり、省力化・大量生産を目指した断面の合理化や最小鋼重設計に重点をおいた設計がなされている。その結果、比較的桁高が低く床版支間が広い鋼合成鈑桁橋が多く採用されている。
既設桁、床版支間の課題
橋梁形式は、主に単純合成桁(一部でSM58(現在のSM570)やF11Tを採用し、支点上は山形鋼を使用した垂直補剛材を用いている)や切断合成桁(鋼材や高力ボルトは単純合成桁同様)が採用され、鋼重や桁高の抑制に寄与している。単純合成桁は、昭和56年構造物標準図集Ⅱ(非合成桁タイプ)に比べると桁高は実に半分強まで低くしている。床版支間は5割強長く、鋼重も3割弱低減している。また、切断合成桁は当時の切断合成桁の標準設計と比較してもなお、桁高を3分の2に抑制し、鋼重も15%強軽くしている。
さらに、同支社管内の鋼鈑桁で床版支間が4mを超える橋梁は今回、施工範囲となる中国道吹田JCT~中国池田IC間が実に253径間中192径間と4分の3強を占めている。同区間についていえば、床版支間4m以上は実に96%に達する(すなわち8径間しか支間4m未満の床版はない)。他路線は名神・近畿道で同2.5~3.3m、西名阪道で2.9~3.5mであり、中国道の状況が際立っている。また当初設計の床版厚は最小で160mm(床版支間1.6mの場合)であり、床版支間4mの場合210mmで補完している。さらに上面増厚を施している場所もあるが、同区間の標準増厚は30~40mmであり、当初設計の床版厚であれば現行道示で必要とする厚さの7割程度しかなく、増厚をしてもなお、1~2割程度足りない計算となる。
鋼単純合成桁や切断合成桁を有する豊中高架橋や宮の前高架橋などでは、交通量の増加や車両大型化への対応として、床版増厚や縦桁補強を実施してきており、宮の前高架橋は以前にも切断合成桁に生じたたわみに対応するため、下から新しい橋脚で突いて補強する、アウトケーブルで補強する、上下面に増厚する――などの補強を行ってきたが、床版はひび割れや浮き・剥離、鉄筋腐食などの劣化が顕著で、鋼桁は漏水に伴う桁端部の腐食や疲労亀裂も散見されている。このような状況から、既設桁の構造や床版取替における補強、健全性に対する課題を総合的に勘案した上で、長期間の交通規制による社会的影響の最小化も考慮した結果今回床版取替えに合わせて鋼桁の架け替えを行うことにした。
床版の損傷状況(井手迫瑞樹撮影)
既設桁の桁高は最小1.1m 床版支間は最大4m
鋼桁の支点部は箱構造の横梁を設けて、主桁本数に拠らず2点の免震ゴム支承に
本工事の既設橋梁の概要
宮の前高架橋は鋼単純合成鈑桁や切断合成桁、鋼連続非合成鈑桁、蛍池高架橋は鋼単純合成鈑桁、豊中高架橋は鋼単純合成鈑桁や鋼連続非合成鈑桁、御堂筋橋は鋼連続非合成鈑桁という構成になっており、鋼単純合成鈑桁は主に複数径間で床版を連結する構造となっている。桁高は最小1.1m(宮の前高架橋の一部)~2.1m(今回は取替非対象の箕面川橋)である。前述のように床版支間は最大4m(床版厚は210mm)あり、主桁材料の一部にはSM570の高強度材料を適用している。
主桁構造上の特徴と床版取替上の課題
更新する上部工の特徴(桁)
単純鈑桁部については、今回の架け替えで全て連続化する。蛍池高架橋P1-P5と豊中高架橋P5-P8は、それぞれ他の径間と合わせて8径間ないし14径間連続鈑桁橋とするが工期などを考慮すると、今回だけで全ての径間を取替えることは難しいため、今期工事では4径間と3径間部分を連続桁として更新する。蛍池高架橋については、阪急宝塚線と交差する箇所があり、耐震性などを考慮して鉄道直上との両サイドの径間を連続化させる形で橋梁形式を見直した。豊中高架橋(P5-P19)は当初鋼単純合成鈑桁の床版連結構造であったものの、既設桁は既に全体14径間の主桁連結を実施しており、今回はそれを踏襲する形で14径間連続化する。
宮の前高架橋P20-P24新既上部工比較/同取替部図面
豊中高架橋P5-P8 新既上部工比較/同取替部図面
豊中高架橋では若干曲線が入っている個所もある/並行道路も交通量が多く、さらにモノレールも近接している
更新する鋼桁の支点部は箱構造の横梁を設けて、主桁本数に拠らず2点の免震ゴム支承により支持する構造にした。終日通行止めの限られた日数での施工であり、当初からの課題として支承設置の際に沓座コンクリートのアンカー削孔に非常に時間がかかることが予想された。そのため横梁+2点沓とすることで削孔の手間を半減させた。
主桁本数に拠らず2点の免震ゴム支承により支持する構造
支沓高は既設より高くなるが、横梁は新しい鋼桁の下フランジ下面に配置するのではなく、下フランジ上面のウエブに添接する形で配置しているため、支沓高の上昇を吸収することが出来ている。
現場施工条件を考慮し、床版形式は高耐久鋼床版とPCaPC床版が半々
PCaPC床版はMuSSL工法を採用、壁高欄は全径間でPGF壁高欄
更新する上部工の特徴(床版・壁高欄)
さて、次に床版形式である。並行して走る中央環状線は10万台弱、中国道そのものも5万5千台走っている。路面凍結や疲労耐久性を考慮すれば、基本的にはプレキャストPC床版(以降、PCaPC)を使いたいが、河川や交差道路など高架下の制約があり、短時間で架設する必要がある箇所については、床版厚16mmの高耐久鋼床版を採用した。採用面積は約半分に達している。その他高架下の制約がない箇所についてはPCaPC床版を採用している。鋼床版同士は地組みできる(後述)部分においては溶接構造とし、それ以外で架設時に添接しなくてはいけない箇所については、基本的には皿ボルト、精度的に厳しい場所については高力ボルトを採用した。
基本的には皿ボルト、精度的に厳しい場所については高力ボルトを採用
PCaPC床版はMuSSL工法を採用した。鉄筋端部に円形ナットが配置された継手鉄筋を用いる新しい継手工法であり床版厚さ220mmにも適用可能。あご付き形状版にも使用できるため場所打ち部の底型枠が不要となり施工性が向上する。上側の間詰め幅は440mm。間詰め材は早強コンクリート50N/mm2を使っている。床版間詰め部の鉄筋には凍結防止剤による塩害対策としてエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用している。
MuSSL工法
壁高欄は全径間でケイコン製のプレキャストRC壁高欄(PGF壁高欄)を採用している。とりわけ鋼床版へのプレキャスト壁高欄の設置にあたっては、初の試みのため、衝突載荷試験を実施して定着部の耐荷力性能を確認した。加えて事前に実物大試験体による施工性確認を実施した上で本施工に入っている。桁下で地組みし、ジャッキアップする部分については、あらかじめ壁高欄まで設置して架設し、終日通行止め期間での施工をできるだけ少なくしていた。また、PCa壁高欄施工時の通信管内へのモルタル材の浸入を防ぐための管路ジョイント「プレキャスト壁高欄通信管接合部材」を用いて、さらに施工性を高めている。
PGF壁高欄の設置状況/プレキャスト壁高欄通信管接合部材を用いていた
PGF壁高欄施工ステップとアンカー定着構造