(1)はじめに
「どさくさに紛れて」と言っていいのかは分からないが、いよいよ東京オリンピックが始まった。始まったら後には引けない。プロジェクトも同じだ。26年前、1995年5月に新組織が発足して「新北九州空港連絡橋」プロジェクトが始動した。
4カ月前の1月17日、未曾有の阪神淡路大震災が発生。阪神間のライフラインがズタズタになった。阪神高速道路では3号神戸線が甚大な被害を受け、5号湾岸線の一部の橋も落橋した。
私も震災1週間後に現地入りし、兵庫県西宮大橋の復旧支援を行った。偶然、鋼管矢板井筒基礎の性能(耐久性・耐震性)を知ることとなった。いろいろな知識・知見を踏まえて福岡県に乗り込んだわけだが、前途多難のスタートとなった。前回紹介したように、①橋種決定理由の説明不足、これを受けての委員の一部から委員を退くとの意思表示、②プロジェクトの利権と主導権争い、等々。①については着任早々に何とか解決できたが、②については根が深い。
今回は、前回に引き続き「北九州空港連絡橋(その3)」として、事業スタート後の四方山話をちりばめながら一般競争入札制度の導入、モノコードアーチ橋の採用経緯等について紹介する。
(2)福岡県で初めての一般競争入札方式の採用
①あるきっかけ
当時、指名競争入札制度や随意契約制度が本流であった福岡県の入札制度に新たに「一般競争入札制度」を導入することになった。新たな入札方式の導入は、今後福岡県が変わるためには必須であった。
着任早々、営業さんの一言でびっくりした。県庁の窓際族の方々は、名刺を持ってくる(置いていく)枚数で指名業者を決定する、というではないか。この手の話はこれまでも聞いてきた。それがこの大都市・福岡県で常態的に行われているとは。常々、県のOBさんに話したことがある。「いつでもお会いしますから、御社の技術を説明して下さい」と。たちまち、遊び半分(以上)のOBさんの訪問はなくなった。
私達がしなくてはならないのは、OBさんにお土産(仕事)を渡すことではない。業務や工事に必要な技術力を持ち、併せて発注者側の視点・考えを持ち合わせている会社(技術者)に仕事をしてもらいたい、と考えている。OBさんに仕事をあげる、そういう時代はとっくに終わったのだから。このコンサルの営業さんの一言から「公明正大」な契約制度を導入することを誓った。
②対象プロジェクト
一般競争入札方式の導入は、私が担当する「新北九州空港連絡橋」ともう一つ、「九州歯科大学」が対象となった。空港連絡橋プロジェクトの全体事業計画と工区割りは私が案を作り、実行に移すわけだが抵抗勢力もある。当時は、工事規模で24.3億円以上が対象となっていた。しかし、施工上24.3億円以上の発注単位が合理的であればそうした。意図的に24.3億円未満とする姑息なやり方をする発注者もあったようだが。何とか財務当局とマニュアルを作成した。
③天の声
競争参加資格は、この制度の根幹をなすものである。発注者側からすれば最大効果を発揮するために設定する必須条件である。余りきつくしてもいけないし、緩くしてもいけない。
今では笑い話にしているが、あるOBさんが面白いことを言ってきた。下部工一期工事(約56億円)の競争参加資格作成を私がしていた時のことである。「マリコン(マリンコンストラクション)に工事を出さないのなら、天の声を出してくれ」という。一般競争入札制度を導入したというのにこういう馬鹿なことを平気で陳情するOBさんにも呆れたものである。私は、マリコンが嫌いなわけではない(好きでもない)。この条件で参加したいのなら御自由に応募して下さい、と告げた。
裏話 ~よくある指導(?)~
空港連絡橋の設計を行っていた1995年夏以降のことである。設計は、下部工詳細設計と上部工基本設計である。
工区分割は、海上部2.1kmを3工区に分けて、陸上側(約0.8km)、海上中央部(0.4km)および空港島側(約0.9km)とした。設計金額は、各工区とも1.5億円規模である。ある暑い日、コンサルタント(O、K、Cの3社)の代表に東から呼び出しが掛かったようである。後から聞いた話では、東の議員秘書から「お宅の会社で施工計画はできるのか?」ということだった。
要は下部工の施工計画を大手ゼネコンの内、特定の会社にやらせてくれということである。同じ話は上部工に対してもあった。「いずれも設計可能な会社を選んでいるので必要ない」、と断ってもらった。実は、一般競争入札の競争参加資格に縛りを設けることを考えてのことであった。
これまで、コンサルの設計段階でゼネコンやファブリケーター、メーカーに仕事を丸投げする会社を数知れず見てきた。女神、名港……。今回の案件はある程度の所までコンサルが自力でやってもらわないと意味がない。条件を付して契約したゼネコンとしっかり詳細検討(鋼管杭の支持機構の解明など)をしようと覚悟を決めてのことであった。
(3)鋼モノコード式バランスドアーチ橋
一般的なバランスドアーチ橋(復弦;アーチリブが2個)の事例を写真-1に示す。
写真-1 バランスドアーチ橋の事例(九州) (伊万里湾大橋写真:唐津港湾事務所HPより)
「鋼モノコード式バランスドアーチ橋」というネーミングは、私が考えた。それまで使用されていた「鋼中路式単弦ローゼ橋」ではインパクトがない。構造を一言で表現したかったためでもある。
鋼モノコード式バランスドアーチ橋は、以下の構造的な利点を有する。
〇中間橋脚上で水平力(中央と側径間のアーチリブからの)がバランス
〇端橋脚上でアーチリブと補剛桁が結合(自定式)。このため軟弱地盤でも建設可能。
この橋は、構造が単純ではあるが、奥が深い。構造的な特徴を以下に示す。
・バランスドアーチ; 死荷重完成系では中間橋脚上で左右(中・側)の水平力が釣り合う。
・アーチリブ軸力の伝達; 上弦(単弦)から下弦(復弦)に向かってきちっと軸力を伝達する。
・アーチリブの正面形状; 上弦から下弦に向かって人形に
・アーチリブ吊材; ローゼ橋では初めて吊材にケーブルを使用
・アーチリブの断面形状; 四角形(起拱部)から六角形(天頂)へ漸次変化
以下、それぞれについて概説する。
①バランスドアーチ(中間橋脚上で左右(中・側)の水平力が釣り合う)(図-1参照)
死荷重完成系において中間橋脚上では中央径間及び側径間側のアーチリブの水平力が釣り合うこととなる。設計荷重作用時、不釣り合い力は支承が分担することとなる。
図-1 バランスドアーチ橋とは
②アーチリブ軸力の伝達(図-2参照)
補剛桁(ローゼアーチ橋では、桁を指す)を吊り上げた吊材からのアーチ軸力は、単弦から復弦に向けてスムーズに軸力を伝達させる。
図-2 アーチリブ軸力の伝達
③アーチリブの正面形状(図-3参照)
図-3 アーチリブの正面形状
④アーチリブ吊材(図-4参照)
図-4 アーチリブ吊材の見え方(パンフレットの変遷)
アーチリブ吊材は、当時の設計の主流はH形断面やボックス断面であった。これは、アーチリブ面内・面外の有効座屈長を短くでき、経済的な設計が可能なためである。しかし、北九州空港連絡橋では、ケーブル(PWS)を採用した。その理由は次ページの通りである。