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橋梁予備設計手間や時間を大幅に縮減 BIM/CIMを数十秒で自動表示可能

パシフィックコンサルタンツ 新しい橋梁予備設計プログラムを実装

公開日:2021.07.14

 パシフィックコンサルタンツは、橋梁予備設計における多量の比較案の設計における手間や時間を大幅に縮減し、その設計成果を用いたBIM/CIMモデル作成をほんの数十秒で自動表示可能な橋梁予備設計プログラムを開発し、実装している。入力項目を絞り、単純なルーチンワークを極力省くことで、経験が浅い若⼿技術者に対して橋梁設計の概略を把握してもらう教育ツールとしての活⽤も行っている。(井手迫瑞樹)

現実の数値入力は僅か4、5分程度 橋梁比較案も出力可能
 「V-nasClair」に連動し読込み3D モデルを自動作成

 同システムの根幹となる橋梁1次選定プログラム(下概略図参照)は、まずはエクセルベースで作成された。「予備設計における蓄積されたデータは、いわば当社の長年のノウハウであり、絶えず更新していく必要があるため、それがやり易いプログラムとするため、まずは簡便な手法が最適」(藤井久矢取締役)と考えたため。根幹となるデータは、各種協会・市販資料などの公開データ、材料・人件費などの実勢価格のほかは、蓄積した同社独自の知見や技術情報、工事単価などを事前にプログラム内へインプットしているもの。これらのデータがフォーマットとなっており、現実の数値入力は僅か4、5分程度で済む。

 入力内容は橋長、全幅員、有効幅員、橋軸方向設計震度、地域区分、下部工やPC橋・鋼橋など上部工の算定条件、径間・形式、床版の種類や条件、下部工や基礎の諸条件や形状、上部工の維持補修サイクルなど所与の条件など大きく分けて23項目程度であり、それらを入力するだけで緻密な計算書や概算工費などを含む報告書を出力できる。また、入力に応じた比較案を選定し、経済性・構造性・施工性・環境への適用性・維持管理面を配点した比較表も出すことができる。出力前にはプログラム内にあるデータチェックボタンで確認するようになっており、明らかなミスはここで弾かれる。

橋梁一次選定プログラムインプットイメージ

 出力データはXML形式になっており、プロクラムで⽣成した⽀間割、下部⼯形状を川⽥テクノシステムの3Dソフト「V-nasClair」に連動させることで、⽐較案から選定した各案を読込み3D モデルを作成することができる。同システムは両社の技術協力により構築したものだ。読み込んだモデルは、橋台、橋脚の設計計算ソフトと連動し、安定計算、断⾯計算を⾏い整合性の取れた下部⼯の形状を作成し、配筋データも⽣成することが可能になる。社内での議論や発注者などとの打ち合わせにおけるイテレーション(反復計算)も可能である。さらにその成果は数十秒で計算書や報告書付きで3Dモデル化されるため、時間やお金もかからず非常に精度が高いものが提供できる(但し橋梁形式には制限がある)。


橋梁一次選定プログラムアウトプットイメージ

V-nasClairの上部工INPUT及び3Dモデルのイメージ

V-nasClairの下部工INPUT及び3Dモデルのイメージ

 一次選定で3案程度を選んだあとは、二次選定に進み、さらに地形と線形の条件を与える。一次選定の条件から精度を上げた設計にバージョンアップを一元管理し、様々な視点から可視化された構造物をリアルタイムで確認できる。基礎においては掘削の数量を自動算出し、ボリュームを視覚的に確認でき、一次案同様のイテレーションによる別案作成も自在に行うことができ、それを視覚的に確認し、他者に伝えることができる。業務開始の段階で、最終形の橋梁イメージを3Dで共有することも可能である。また、部材情報も3Dモデルにオブジェクト化する形で紐付けできるため、「今後は維持管理も考慮した5Dは勿論、将来的には7D(3D+時間+コスト+安全+環境)に対応した情報を管理できるものとしたい」(同社)考えだ。

ルーチンとエンジニアジャッジする項目を分け、負担を減らす
 システム自体がノウハウとして蓄積し、将来に生きる伝承物である

 こうした反復計算は、通常、部材ごとの煩雑な計算(構造及び費用積算)を伴うため、「若手技術者では一次選定だけでも1週間以上かかる」ものであるが、これを1案当たり数十秒でできるようにした。「ルーチンとエンジニアジャッジすべき重要項目を分けて、ルーチンは今までのノウハウを駆使することで作業から極力省き、エンジニアの負担を減らすことで設計精度を向上させるとともに、ジャッジすべき項目に関して若手が重点的に学ぶことができるようにした」(同社)。

 また、イテレーションしたデータや2次選定に至らなかったデータもできるだけ残し、ノウハウとして蓄積するようにした。出力データだけでなく、案としては没になったデータも残すのは、「その時、所与の条件やコストによって不採用となったデータも、発注者がイニシャルコストあるいはライフサイクルコストを重視するか? 塩害やASR対策が必要か否かなど、試行錯誤を未来の設計に生かすことができる」(同)ため。加えて同社では、現在積極的に一部のゼネコンやPC橋・鋼橋ファブとも情報交換しており、単純な完成系だけでなく、設計コンサルタントとして弱さが指摘されがちな施工性についても「施工段階にも有用・有益に受け渡しできる情報データ」となることを目指している。

 同社では、今後もこの独自橋梁予備設計プログラムをブラッシュアップし、設計精度、若手教育の両面から生かしていく方針だ。

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