道路構造物ジャーナルNET

従来工法に比べ断面修復量を大幅減、補強材の付着も確実に担保

ハイブリッド・塩害補強工法 シラン系含浸材と炭素繊維シートで塩害対策と補強を両立

公開日:2021.04.27

 日鉄ケミカル&マテリアルとポゾリスソリューションズ、レックス、プロダクト技研の4社は、コンクリート構造物の塩害対策と補強工法を両立させたハイブリッド・塩害補強工法を開発し、実績を重ねている。鉄筋腐食抑制型シラン系含浸材『プロテクトシルCIT』と炭素繊維補強材『トウシート』および『ストランドシート』を用いた塩害・補強工法で、補強前のコンクリート補修コストを最小限に抑えることができる。また、一般的なシラン系含浸材を使った際に生じる可能性のある補強材との接着効果の不具合も抑えられることを確認している。すでに山口、新潟、大分、栃木、岡山、神奈川、高知などで橋脚や床版・桁などの部位で8件の施工実績を有している。(井手迫瑞樹)

施工対象となる補強部位

適切な付着強度を有するプライマーを開発
 補強前工程およびコストを極小化

 橋脚の耐震補強や桁や床版補強などを行う際、従来は内在塩分が多いものはそれらをはつり取った上で腐食対策などを行い、さらに断面修復した上で補強しなくてはいけないため、対策に大きなコストと工程を必要としていた。同工法は、内在塩分が多くても損傷が生じていない箇所はプロテクトシルCITを浸透させることで対策を講じ、断面修復そのほかのはつりなどを伴う比較的手間の大きい損傷対策個所を最小限化することで、補強前工程およびコストを極小化した。さらに一般的なシラン系含浸材を使用した場合、炭素繊維シート補強に用いる接着プライマーをはじくという事象が報告されていたが、同工法では、プロテクトシルCITを塗布したコンクリート表面でも、適切な付着強度(破壊時:母材破壊)を有するプライマーを開発し、適切な補強効果を発揮できるようにした。

施工断面図

 はつりや断面修復を最小限に抑えられるのは、鉄筋近傍まで深く浸透し、鉄筋表面の水酸基にシランが結合し、鉄筋表面に保護層を形成することで鉄筋の防錆や、赤さびを黒さびへ変化させることで、塩害の発生や進展を抑制できるプロテクトシルCITを塩害対策として用いるため。従来、内在塩分量が高く発錆限界値(1.2kg/㎥)を超えるかぶりコンクリートは、耐震補強や各種補強を行う際、その後の塩害の進展によるコンクリートの脆弱化を考えてはつることが基本とされていた。しかし補強量が多いほど前工程の量も多くなり、内在塩分量が高ければ、電気防食や塩分吸着モルタルなどコストが高い工法を広い範囲で使用する必要があった。一方で、密実なコンクリートであれば内在塩分量が高くても、鉄筋の発錆は必ずしも生じないことから、同工法でははつる範囲を変状の見られる個所に限定し、あとはプロテクトシルCITにより対策を行うことで、施工量やコストを大きく下げることができる。
はつり部分の断面修復に用いる材料はプロテクトシルCITと相性が確認されている『マスターエマコS990』、鉄筋露出部の防錆処理には『マスターエマコS200』を用いることを基本とした。ひび割れ注入も含浸材の浸透を阻害しないため、セメント系注入材を使用するよう求めている。

 シラン系含浸材の撥水効果によるプライマーの付着阻害については、プロテクトシルCITが形成する吸水防止層に対し、適切な付着性能が期待できる専用のエポキシ系接着プライマー『FP-Si7』を開発し、建研式接着力試験はもちろん、実際のRC梁供試体を用いた載荷試験を行い、所定の付着性能および終局時の補強効果の検証から、耐荷力性能に影響しないことを確認している。

せん断付着性能での接着性評価(JSCE-E-543)

耐荷力評価試験のパラメータと試験結果の一覧

プライマーはじき状況の比較/表面_正常なコンクリート破壊

 補強材には炭素繊維シートを用いている。そのため他の補強材(鋼板接着やRC巻立てなど)に比べて、軽量であるため死荷重を増加させることなく所定の補強効果が期待できる。また、重機などを用いず人力で施工できるのも利点といえる。

 施工は、まず下地研掃を行う。次にプロテクトシルCITを塗布するが、ここで大事なのが下地含水率を深さ10㎜レンジで8%以下、かつ深さ40㎜レンジで6%以下になっていることを確認したうえで塗布することだ。シランは水に反応して結合するため、表面やその近傍に水分が多ければ、鉄筋近傍に到達する前に反応してしまい、所定の防錆性能を発揮できなくなってしまうためだ。また、面積当たりの塗布量は0.6l/㎡であるが、構造物の部位に応じて、橋脚部なら3回程度、RC床版下面なら4~5回程度、PC床版なら5~6回程度に分けて塗布し、より深くまで浸透させる。
 その後、養生時間を15時間以上置いた後、コンクリート表面にFP-Si7を塗布、不陸修正用のエポキシ樹脂パテを施工し、補強用の炭素繊維補強シートを貼り付け、最後にトップコートなど、仕上げ材の施工を行い、完成となる。(右図は施工フロー)

 4社はハイブリッド・塩害補強研究会を設立しており、今後沿岸部や凍結防止剤を多量に散布している地域の橋梁など土木構造物に対して、塩害と補強を両立かつ一括して行うことのできる工法として、適用を広く働き掛けていく方針だ。

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