中日本高速道路金沢支社は、北陸自動車道の砺波IC~小杉IC間の庄川渡河部に架かる庄川橋(上り線)の更新工事を進めている。同橋は1973年10月に供用された。今回対象となるP5~A2間の橋長は275m、総幅員は11.45m(有効幅員10.51m)の鋼3+2径間連続非合成鈑桁橋だ。1日交通量は約31,000台で大型車混入率は26.9%となっている。床版上面の土砂化など塩害を起因とする損傷が生じており、抜本的な対策として、床版厚240mmのプレキャスト(PCa)PC床版に取替えるものだ。クレーンから床版の撤去・運搬・架設業者を統一して効率化を図り、仮設屋根をレールにより人力移動可能にするなどソフト・ハードの両面で効率化を追求している同現場を取材した。(井手迫瑞樹)
橋梁一般図(側面図/平面図、拡大して見てください)(NEXCO中日本金沢支社提供、以下注釈なきは同)
橋梁概要と損傷状況
今回取替えるのは、庄川橋のP5~A2間(橋長275m)の床版である。5月22日から7月28日までの68日間、上り線を通行止めにして、下り線を用いた対面通行規制にして施工した。完全な対面通行区間は1.6㎞、渡り線も含めると規制区間の総延長は3.5㎞となる。
同橋は、冬期の交通を確保するために散布している凍結防止剤の影響と見られる損傷が散見されている。2017年には、鋼桁の腐食が確認されており、先行して塗替えを施すことで補修を完了している。床版は舗装表面にポットホールが多く発生しているため、パッチングによる部分補修をかけて補修してみると、既設舗装を撤去した後に床版上面のコンクリートの剥離が散見され、下面にも漏水が生じていた。凍結防止剤を含んだ水による影響か、鉄筋近傍の最大塩化物イオン濃度は最大で3kg/㎥弱に達していた。
同橋の既設床RC版厚は210mm、床版支間は2.79mで疲労由来の損傷は見られない。過去に増厚や床版防水工の設置は行われていなかった。
舗装及び床版の損傷状況
PCaPC床版の製作
同橋のPCaPC床版は全部で240枚撤去し、117枚配置した。新設パネルの内訳はP5~P8が71枚で端部版が2枚、斜角調整版が6枚、標準版が59枚、突起版(定着版)が4枚という構成だ。また、P8~A2は46枚で内訳は端部版2枚、斜角調整版3枚、標準版39枚、突起版2枚となっている。さらにA2側には、桁端部からの劣化を防ぐため延長床版と延長底版を配置するが、これは場所打ちで施工した。プレキャストPC床版の重量は「最大でも22.5tに抑制」(元請の川田建設)した。床版厚は標準版が240mm、突起版が240mm+(突起部最大180mm)、斜角調整版や端部版が最大320mmとなっている。
プレキャストPC床版の製作
床版は川田建設の那須工場(大田原市)で製作した。床版の長期耐久性をより向上させるため、通常の養生工程に加えて3日間の水中養生を施している。
製作したプレキャスト床版の水中養生
製作した床版は、一旦、全パネルを同社の富山機材所に陸送した。架設の際は壁高欄まで一体化した形で運ぶが、製作工場から事業所までは壁高欄を打設しておらず、床版及び地覆立ち上がり部のみ一体化した状態で製作し、運搬する。壁高欄の打設は、富山機材所内のヤードで架設前までに順次施工した。壁高欄の配置のずれを招かないために、実際施工する橋梁の平面および縦横断の勾配に合わせてPCaPC床版を仮置きし、その上で鉄筋の組立て、型枠の配置、コンクリート打設を行った。その上で、現場では壁高欄まで一体化したプレキャストブロックとして架設している。標準版だけでなく突起版や端部版もヤードで壁高欄の打設を完了させ、現場では伸縮装置部付近のみの小規模打設に留まった。
壁高欄の打設は、富山機材所内のヤードで架設前までに順次施工した
床版及び壁高欄の鉄筋は、塩害対策のためエポキシ樹脂塗装鉄筋を使用している。エポキシ樹脂鉄筋の供給は明希。
床版の撤去・架設
撤去・架設はA2側に延長床版の施工があるため、A2→P5への1方向に進めた。重機は360tトラッククレーン(TC)1台を用いた。撤去は4主桁の中央で切断し、壁高欄および地覆付きで半分ずつジャッキアップして撤去していく。前日までに既設床版の切断を行い、翌日午前中にセンターホールジャッキによるジャッキアップ工法にて撤去し、上フランジに残った鉄筋の溶断や上面のケレン、防錆処理などを行った後、15時ごろからプレキャストPC床版パネルの架設を行い、終了後、夕方から20時頃までクレーンの移動や既設床版の切断を行うという工程だ。
床版の切断
撤去床版の重量は地覆付きが1枚当たり(橋軸)2.35×(橋軸直角)5.825mで9.45t、壁高欄付きが2.35m×5,625mで9.46t。1日に14枚外して7枚設置していく。クレーンスペックが高いため撤去や架設するスピードを上げることができた。吊能力が小さいとクレーン据付け1箇所当たりの施工できる範囲が狭くなるので、据付け頻度が高くなり1日当たりの施工数量が少なくなってしまう。
壁高欄も付いた状態で一緒に撤去できるため、切断の手間も省けた。切断は桁の床版厚さを上フランジまで傷つけないように、床版厚マイナス10~20mm切断し、後はセンターホールジャッキの剥離で床版を桁から縁切りする。「カット数を必要最小限にする」ことも効率化のための施策だ。撤去・運搬に使う車は同じ25t~30t積トレーラーを用いた。新しい床版(最大22.6t)を現場に運搬したトレーラーで撤去した床版を搬出した。地覆や高欄を別に切断しないことで延べの搬出台数も減らした。それが一日当たり作業量の増加につながっている。
ワイヤーソーによる既設壁高欄の切断
壁高欄ごと撤去した
これら360tTCと輸送用トレーラーは全て同じ業者が担っている(今井重機建設)。撤去床版の運搬も新しい床版を運搬するトレーラーを使っているため、壁高欄付きで搬出できる。クレーンと撤去・運搬を行う会社が同じであるため、工程調整も容易だ。「配車も含めて、撤去・架設業者とクレーン、輸送会社がバラバラであったなら、それぞれにお願いし一社でも無理だと言われたら工程が成り立たなくなるため、大きな負担だったが、本現場ではそれを大きく減じることができた」(川田建設)。つまり、夕方架設したトレーラーを置いて帰り、翌朝に撤去した床版を載せて帰ることもできる。ここでは「遠方から来てもらっているのではなく砺波地区の会社を使っているためそれができる。今のところ北陸でしか、そういうオペレーションはできないが、ほかの地区でもそうしたことができるようにしていきたい。できるだけ他の地区も新しい施工業者を教育するということも必要ではあるが、めどが立てば、その業者を一次下請けに使ってその地区は施工するとか、そういう協力体制を作ろうとしている」(川田建設)ということだ。
同じトレーラーを使って架設・撤去した
床版取替(撤去)の面積はP5~P8が1896.9㎡、P8~A2が1267.2㎡。用宗高架橋と同様に延長床版、延長底版は場所打ちとした。パネル枚数は新設が117枚、既設撤去は240枚。新設版の重さ定着パネル部は最大で22.6t、標準パネルは21.8tとなっている。1パネルごとの標準サイズは橋軸2.35×橋軸直角11.4mだ。これを壁高欄ごとプレキャスト施工していく。継手は縦締めPCを使用した(最大本数43本)。縦締めPCのプレキャスト導入、間詰モルタルの施工は、P8~A2、P5~P8の2回に分けて行っている。
床版割付配置図
床版の架設状況
延長床版構造図
延長床版施工状況写真①(施工前、直下の掘削、ウイング撤去)
延長床版施工状況写真②(パラペット撤去、表面処理、アンカー設置)
延長床版施工状況写真③(橋台部の再構築)
延長床版施工状況写真④(底版部の鉄筋配置及び打設)
延長床版施工状況写真⑤
(延長床版部の施工、埋設型枠にはKKフォームを活用し、床版と同じくエポ鉄筋を用いている)
延長床版施工状況写真⑥(床版打設後の養生および壁高欄の製作)
施工を完了した延長床版部
縦締めPC鋼材配置図(P5~P8)
縦締めPC鋼材の配置状況(定着版部)(井手迫瑞樹撮影)
ここではPC鋼材の量を多くすることで床版の厚さを抑制し、軽量化した。間詰幅は30mm程度で116箇所あり、LS500(ひび割れ低減無収縮モルタル)を採用した。
間詰部の充填および養生(左写真のみ井手迫瑞樹撮影)
下部及び側面の型枠工(井手迫瑞樹撮影)