国土交通省の新道路局長に吉岡幹夫氏が就任した。covid-19(新型コロナウィルス)により、人の移動が制限されてしまう中で、今回改めて物流機能の円滑化に寄与した道路をどのように建設し、また維持メンテナンスしていくか、アフターコロナの働き方も含め、国土交通省建設専門誌記者会が合同で行った新局長インタビューのうち、道路構造物に関わる部分を中心に内容を抜粋した。(新局長の「吉」の字は本来「士」の上下の長さが逆であるが、環境依存文字のため、こうした表示にしています。ご容赦ください)(井手迫瑞樹)
――局長就任の抱負からお願いします
吉岡 コロナ禍の中で局長に就任ということになりました。コロナ禍では、人の移動は制限されている一方で、物流が機能しているおかげで人々の暮らしは支えられています。それを支えているのは道路です。暮らしを支える、経済を支える――大事な仕事をしているのだという責任を持って仕事をしたいと考えています。いくつかの企業のBCPを確認すると、道路の通行ができることが基本条件になっています。その責任の重さも改めて認識しました。国民目線、使用者の目線に立って仕事をすることが大事です。
制度面では、有料道路含め制度の基幹は昭和の時代に作られています。平成を通して見直してきたわけですが、継続すべきものは継続し、見直すべきは見直しながら、決めていきたいと思っています。
――道路行政のIT化についてはどのように考えますか
吉岡 国土幹線道路部会の中間とりまとめでさらなるご指摘をいただきました。もともとETCで取り組むなど色々なデジタル化には取り組んできましたが、その中で大きく4つの視点があると考えています。
道路管理においては早く管理して早く処理することが大事です。
これはi-Constructionに通じますが、徹底して自動化、省人化していくことも大事です。
手続面においては、できるだけオンライン、キャッシュレス、タッチレスを進めていきます。
最後は集まったデータを社会に還元することが大事であると考えています。
新技術をたくさん使っていくということが大事で、特に橋梁点検が自治体に取って負担になっており、省人化・省力化していかなくてはなりません。今回、橋梁など道路構造物の点検が二巡目に入りましたが、新技術を用いる手続はガイドラインを作って受発注者間で確認すべき事項を整備させていただきました。点検支援技術性能カタログも出しており、現在は画像技術や非破壊技術など約80工法に達しています。性能や使用する見本を示しながら、新技術の活用を進めています。
――国土強靭化についてはどのように進めて行きますか
吉岡 最近、毎年のように台風などによる被害が出ています。道路においては途絶させないことが一番いいわけですが、中々そうはいきません。一日ぐらいで早期復旧して、緊急車両の通行ができるようにすることが道路には求められています。ミッシングリンクの解消は急務です。既存高速道路においても4車線化しておくことが重要です。7月の九州の災害でも、あるいは一昨年の西日本豪雨においても、4車線化しておいたおかげで早期に復旧できたということがありました。また、下の国道と上の高速道路をうまく組み合わせておくことも大事です。西日本豪雨の際の広島~呉間の復旧がその好例(リンク※1、※2)です。
西日本豪雨の際の広島~呉間の復旧状況(当サイト機掲載)
もう一つ大事なのはメンテナンスです。建設した施設を次世代に良好な状態で引き継ぐことは極めて重要です。その中で課題を感じているのは、自治体管理の道路インフラのメンテナンスです。
予算も技術力も不足する基礎自治体をどのように応援していくかです。一端を上げれば、これまでの点検で橋梁を例に挙げると63,000箇所が修繕すべきということですが、これまでに3割しか修繕できていません。一方で、毎年修繕が必要なものが出てくるということもわかりましたので、これを減らして予防保全をしていくことが非常に大事です。隅田川の橋梁は関東大震災後に震災復興事業として架けた橋ですが、適切に手入れした結果、現在でも十分使える橋として残っています。新潟の萬代橋は、新潟地震にも耐えて、今でも十分に機能しています。早く予防保全を行い、手入れをきちんとしていくことができれば、長く持ちます。これも国土強靭化の柱ではないかと感じています。これについては、しっかりと予算を確保していくとともに、国や各都道府県が各都道府県のメンテナンス会議を通して、基礎自治体に対して技術支援や研修などを行っていきたいと考えています。
――コロナ禍での道路事業の対応について
吉岡 DX(デジタルトランスフォーメーション)も絡むのですが、キャッシュレス、タッチレスにしていくことが大事です。社会資本整備審議会から高速道路のETCの専用化を都市部中心に進めるというご指摘をいただきましたが、コロナ禍の感染リスクもありますので、それを踏まえて、専用化も進めていかなくてはいけないと考えています。
コロナ禍の中、有識者会議もリモートで参加していただいています。遠隔地で参加をしていただくということに関してリモートは非常に価値があります。現地に行かないと確認できないものもありますが、受発注者の打ち合わせなどについてはリモートのシステムを使いながら確認できることもあります。そうした良さをフルに使いながら仕事をしていくということが、アフターコロナにおいては極めて大事だと考えています。
リモートワークやi-Constructionの推進は仕事の効率化、生産性向上につながります。建設現場の週休2日制を実現するためのツールとしても有益だと思います。
――改正道路法について
吉岡 道路法はいろいろなメニューがあった改正ではないかといわれています。次代を先取りしたものが入っています。一つは特車のシステム、まさにDXの話です。接触せずにできないか、と。キャッシュレス、タッチレスでできないかということもあります。歩行者の利便増進道路なども、今まさにコロナの時代で道路空間をオープンカフェなどに使えるようにすることを恒久化するような制度です。
バスタの推進についても交通結節点を大事にし、公共交通と連携を高めるので非常に意味があります。その際には特にバリアフリーには留意すべき必要があります。しっかりとやっていきたいと考えています。
――球磨川水害についての復旧体制をどのようにしますか、熊本地震の時のような復興事務所は作らないのですか
吉岡 今次の水害では球磨川にかかった道路橋が10橋も流されました。河川も道路も国土交通省が代行してしっかりと復旧させていきたいと考えています。八代河川国道事務所においても、年度途中ではありますが八代復興出張所を作って動かしています。道路局だけでなく国土交通省全体での議論が必要ですが、将来的には熊本地震と同じ対応をするという話も出てくると思います。非常に大きな被害ですので、県や市町村だけでは対応できません。国も非常に厳しい組織体制ではありますが、しっかりと応援していきたいと考えています。
直轄権限代行によって復旧を進めている(国土交通省発表資料より抜粋)
――広域道路計画についてその進捗状況は
吉岡 平成10年に広域道路計画を見直して以降、見直されていないので、その後の環境の変化に応じて見直さなければいけないと考えています。その一方で防災の点検の進捗も鑑みる必要があります。この前の国土幹線道路部会の中でも緊急ネットワークをきちんと点検すべきという提言もいただきましたので、その要素も合わせながらできるだけ早くベースとなる広域道路計画をまとめたいと考えています。災害でもコロナ禍中でもそうですが、物流を途絶えさせないということが非常に大事です。(2020年10月8日掲載)