渦励振・塩害対策・FCを用いた大ブロック架設
徳島河川国道新町川橋上部工 橋長500m、鋼重は約9000tに達する長大橋
国土交通省四国地方整備局徳島河川国道事務所は、2020年12月5日、徳島南部自動車道徳島津田IC~徳島沖洲IC間の新町川渡河部に建設を進めている新町川橋の閉合桁架設を行った。4ブロック中3ブロックの吊荷重が3,000tを超えていることから、FC船は深田サルベージ建設の「武蔵」(定格荷重3,700t)および寄神建設の「海翔」(同4,100t)を採用した。武蔵が先行3回分、海翔は最終ブロックの架設を担当した。同橋について設計・施工上の課題をどのように克服しながら、現状までこぎつけたのか、上部工を中心に取材したものをまとめた。(井手迫瑞樹)
橋長500m、総幅員の28.64mの鋼3径間連続箱桁橋
諸条件
新町川は、大河吉野川の南を東西に並行して流れる川である。架設地の上流はフェリーの港などがあるため、航路としても使われている重要河川である。国交省の資料によると、新町川の航路は、可航幅を220m(航路幅120m+余裕幅100m)、 航路高を計画高水位+28.0mに設定している。加えて、架設地周辺はフェリーおよび貨物船の回頭域となっているため、 設計においては、航路の確保と航行安全性を確認する必要があった。
こうした諸条件から同橋は、橋長500m、総幅員の28.64mの鋼3径間連続箱桁橋(1box)。支間長は側径間が123.5m、中央径間が250mとした。
新町川橋構造一般図(川田工業・横河ブリッジ・MMBJV提供、以下注釈なきは同)
上部工 耐風安全性や航行安全性を検討
最大の懸案は渦励振 通常の断面の左右に3mの剥離干渉断面
設計の課題
設計にあたっての課題は大きく分けて3つあった。①耐風安全性の確保、②支持層の検討、③航行安全性の検討である。②については、以前掲載した「徳島河川国道 新町川橋で80mの鋼管矢板井筒基礎を施工」を参照していただき、今回はとりわけ①について説明する。
①について、最大の懸案は渦励振である。同橋は総幅員が28.64mであり, 箱桁高は4.157m~中間支点上(P2、P3)では7mを超える。壁型防護柵を含めた有効計画高は8m弱と風を受ける桁高が高く、桁高・幅員比が小さな空気力学的に鈍い断面で計画されている。設計風速は56mに達することが予測されており、同様な断面形状の長径間の橋梁においては、曲げモードの限定的な振動である渦励振や風速の増加とともに振動振幅が増加し最終的には落橋につながる発散振動であるギャロッピングの発現が危惧された。
そのため、様々な形状で風洞実験を行った結果、通常の断面の左右に3mの剥離干渉断面を張り出す構造を採用した。張出断面も張出長の3/4 の位置で下フランジから15 度で立ち上げた線の交点に剥離点を追加した形状を中央径間の断面とすることにした。こうした形状は伊良部大橋の鋼桁部を思い出させるが、しかし箱桁の大きさとしてはそれ以上で、張出し部の角度も緩やかになっている。
桁形状は、通常の断面の左右に3mの剥離干渉断面を張り出す構造を有する(下写真は大柴功治撮影)
4ブロックをFC船で架設 鋼重は9,000t
製作は3工場で分割
施工
全長を4ブロックに分けてFC船を用いて架設する予定で、昨年11月下旬までに3回目までのブロックの架設を完了し、最終架設も12月5日に完了した。
1回目は左岸側P1~J2間ブロック長13.056m、治具などを含めた架設時のブロック重量245t(鋼桁の純重量は230t)、2回目はJ2~J16(P2を超えて少し中央径間側へ張り出す部分がある)間156.058m、3,419t(同2,830t)を架設した。さらに、10月下旬に行われた3回目は右岸側のJ25~P4間169.06m、3,259t(同3,040t)、今回施工された中央ブロックの最終架設はJ16~J25間160.875m、3,463t(同2,900t)となっている。
桁の部材製作は、横河ブリッジ分は、大阪工場(堺市)で行い、北九州市若松区の日鉄鋼構造で地組してFC船(武蔵)により浜出しした。エム・エム ブリッジは、長崎市の香焼工場で製作し、屋外ヤードで地組立したブロックをドック内に設置した台船に搭載し、浜出しした。川田工業分は四国工場(香川県仲多度郡多度津町)で製作し、FC船(武蔵)で浜出しした。
横河ブリッジ分(左岸側)の製作及び浜出し
エム・エム ブリッジ分(右岸側)の製作及び浜出し
川田工業分(中央部)の製作及び浜出し
鋼桁の最大ブロック長は18m強 最大重量は約68t
Uリブ溶接部にはピーニング処理し、疲労耐久性をさらに向上
鋼桁の1ブロック当たりの長さは大きいもので18m強。1ブロックの最大重量(約68t)や断面の寸法(高さ約6m、幅約5m)が工場建屋のクレーンの吊り能力を超えるものもあったため、ブロック割りを変えて工場建屋内での溶接から屋外ヤードでの溶接に変更するなどの対応が必要であった。また、鋼床版の疲労耐久性の向上を図るため、レーンマークを考慮した輪荷重走行範囲におけるUリブと横リブやダイヤフラムとの交差部のスカラップを省略している。さらに当該部分のUリブ溶接部にはピーニング処理を施しさらなる疲労耐久性の向上を図った。
工場製作状況(詳細)①左から罫書、切断、パネル溶接
工場製作状況(詳細)②左から大組立、本溶接、非破壊検査(工場内)
工場製作状況(詳細)③仕上げ、塗装、地組立て
工場製作状況(詳細)④地組立て溶接、非破壊検査(ヤード)
接合部は川田工業が製作
地組は1年程度を要した
本橋の架設地点は海に面しているため、腐食を考慮して桁の外面にボルトの頭部などの突起物を無くし全断面溶接とした。これは工場製作だけでなく、現場での大ブロック間の接合も同様としている。また、各社間の接合部はJVの親である川田工業の四国工場で製作し仮組した上で、(ジョイント部の片側を)各社に送り、施工時の精度を上げている。また、大ブロック架設時の桁の挙動を精度よく推定する必要があるためFEM解析を行い製作キャンバーに反映している。地組は各社とも1年程度の時間を費やした。
架設後の海上輸送状況①長崎の香焼、北九州市若松区で作った桁が関門海峡を通って台船輸送された
川田工業が作った桁は多度津(香川県)からのため比較的近い