かぶり厚を最小限に抑えた補強が可能
栃木県日光土木 国道120号乳ノ木橋 鉄筋代わりにグリッドメタルを使用して上面増厚
栃木県日光土木事務所が床版補修を行っている乳ノ木橋について、上部工のゲルバー部の遊間連結及び床版上面の補修・補強が進んでいる。既設RC床版(210mm)上面を32mmはつり、52mm打設して20mm増厚する上面増厚工。昨年度に床版下面をグリッドメタルおよびポリマーセメントモルタル吹付けで補強し、ゲルバー部を連結しており、今回は、張出し部のみグリッドメタル(JFEシビル製)を入れ、超速硬鋼繊維補強コンクリート(以降、「超速硬SFRC」)を打設し、中央部は超速硬SFRCのみで補強していることが特徴だ。現場を取材した。(井手迫瑞樹)
同橋は1964年8月に旧JHにより供用された橋長82.7mの鋼3径間鈑桁橋(主桁間隔は2.95ⅿ)である(※詳細はリンク先参照)。支間長は25+32+25m、幅員は7.7m(地覆補修後は8.0m)であるが、実際には中央部は両側にゲルバーを有する吊桁であり、中央部の桁は22mとなっている。また両端の桁は非合成鈑桁であるが、中央部の吊桁は合成鈑桁である。勾配は横断が2%程度。縦断はA1→A2に6%の上り勾配がついている。
交通量も多い、取材した9月21日も、新コロナが流行している状況ありながら、自家用車や観光バスがひっきりなしに通過する。さすがは日光と中禅寺温泉などを結ぶ路線に属する橋梁である。多少曲線も有しており、施工上は先の勾配や曲線に対する配慮も重要になる。
冬季に散布した凍結防止剤の塩分を含んだ水が橋梁に影響を与えている。地覆は凍害や凍結・融解、塩害の複合劣化の影響による劣化が著しい。鋼桁の劣化した個所やゲルバーおよび端部からの漏水の影響によって鋼桁全般的に塗装劣化や腐食が進行していた(現在は、塗装塗替済)。
施工手順
床版の補修補強は上り(中禅寺方面)2車線を1車線ごとに行うため、片側通行規制をしながらの施工とした。記者が取材した9月21日は左側1車線を通行止めし、右側1車線を通す規制で施工していた。施工はまず、既設舗装を撤去して、床版上面を調査した上で、損傷部は断面修復し、設計上、既設床版の上端鉄筋が露出するよう床版上面を32mm斫る。同時にゲルバー部上面の床版を連結する。その後、グリッドメタルを配置、超速硬SFRCを52mm打設し、防水工を施した上で、50mmの舗装をかけて、完成となる。床版上面増厚の面積は578㎡。うちグリッドメタルの配置面積は244m2となっている。
ゲルバーの連続化図面
ゲルバー連続化施工ステップ図/連続化しているゲルバー部
脆弱部の補修およびゲルバー部の床版連結が完了した状況
特徴
ここで特徴なのは、補強鉄筋の代わりに展張型グリッドメタルを採用していることである。主鉄筋と配力筋両方の機能を兼ね備えていながら、それが1層の格子鋼板筋として作られているため、鉄筋のように重ねる必要が無く、12mmの板厚であるため、かぶり厚を最小限に抑えることができる。ここでは、補強効果を増すために超速硬コンクリート内の骨材(13mm)を鋼板の下側に回せるようにするため、グリッドメタルと既設床版間のクリアランスを15mm取るように設計した。そしてかぶり厚は25mmを確保している。
グリッドメタルの配置状況/、グリッドメタルと既設床版間のクリアランスを15mm取る
グリッドメタルの配置は、床版張出し部の負曲げへの抵抗を増すための補強が目的であるため、橋軸直角方向に主鉄筋、橋軸方向に配力筋を配置するものである。主筋ピッチは100mmで配置、グリッドメタル1枚ごとの設置は1628mmピッチとし、グリッドメタル同士は15mmの幅で固定金物により添接した。固定金物のアンカー深さは40mmほどとしている。
同橋には1車線51枚、合計102枚のグリッドメタルを配置している。長さは1628mmピッチで一定しているが、幅は曲線に合わせて1,200~1,700mmと変化させ、合理的な設計を追求している。
グリッドメタル配置後に床版上面のマイクロクラックに浸透する「浸透性KSプライマー」を塗布し、さらにその上にコンクリート接着エポキシ樹脂「KSボンド」を塗り重ね、その上から超速硬SFRCを打設していく。縦断勾配が6%と厳しくコンクリートがだれやすい一方、超速硬SFRCを用いているため、可使時間が短く、施工はかなり難しい。打設のレベリングが変わると舗装の厚さにも影響が出る。
KSプライマーの塗布
KSボンドの塗布
今回は東京コンクリート技研の「レザーバック工法」を採用したが、最も勾配が大きい日光側の床版打設は、施工にかなりの手間を要していた。しかし、勾配が小さくなるにつれて、その手間も減少し、最終的には床版上面増厚を1日で施工することができた。
超速硬SFRCの打設/レザーバック工法の施工
締固めおよび打設が完了した部分
最終的には床版上面増厚を1日で施工
今後はもう1車線分の施工を行うと共に、両車線の地覆を撤去し、両側共に150mmほど拡幅した上で地覆・高欄部を再構築する予定。同橋の勾配などを考慮すると、床版端部および地覆立ち上がり部の床版防水を入念に施工する必要がありそうだ。
地覆・高欄は撤去して再構築する
設計はピーシーレールウェイコンサルタント。元請は榎本建設。下請はケイティ―メンテナンス、オーシャンなど。(2020年10月9日掲載)