-分かっていますか?何が問題なのか- 第52回 一巡した定期点検結果の公表資料を読み解く ‐私が意図した点検・診断は適切に行われたか?‐
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
はじめに
今年の夏から冬にかけての国内外の異常気象は、想定を超える被害を各地にもたらし、目を覆いたくなる惨状が数多く見られた。異常気象が進む主原因を、多くの人が知っているにも関わらず、知識人の掛け声は素晴らしいが、肝心の行動が全く伴わないことから、地球環境の実態は悪化の一途をたどるばかりである。本当に欲深い人間の飽くなき行動は情けない。
先日、11月26日に世界気象機関(World Meteorological Organization・WMO)公表された資料を見ると、地球温暖化の主原因である温室効果ガスの一つ、二酸化炭素(CO2)平均濃度が約407.8ppmと観測以来最も高い値となり、第一次産業革命前の水準値の1.5倍となったと警告を発している。現代社会に生きる人々は、将来に『負の遺産を送らない』活動をと公言して止まないのに、最悪の道を自らの意思、行動で突き進んでいるのが現状だ。手遅れに近い地球環境を救えるのは、肝心の人間ではなく、ロボットやクローン人間では無いことを真に願いたい。文頭から何時もの泣き言がきて申し訳ないが、自らも反省すべきと思い、我慢できずに苦言を呈した。この様なことをいくら発言しても現実は変わらないので(書いている私は、何時か良い方向に変わると信じているが)、私が連載させていただいているインフラの話しに戻すとしよう。
前回読者の方々の目に触れたのは、忘れ去られようとしている3か月前9月1日であったが、それ以降、国内外に報道された橋梁崩落事故は、驚くなかれ、何と4件もあった。一つは、隣国の中華民国・台湾、そして、話題に事欠かない中華人民共和国、まさか無いよねと思っていたヨーロッパのフランス、そして、直近はモランディ橋が崩落したイタリアである。まずは記憶から消えつつある台湾の道路橋崩落事故について、崩落状況と原因について考えてみた。
落橋ケース①台湾 南方澳大橋
2019年10月1日(火曜日)の午前9時30分ごろNanfang’ao Bridge (南方澳大橋)が崩落し、崩落動画が世界を駆け巡った。Nanfang’ao Bridgeは、図‐1に示す台北の東南、太平洋に面した宜蘭県の南方澳漁港に架かる道路橋である。Nanfang’ao Bridgeは、台南、屏東県新園郷東港鎮の赤色に輝く『進徳大橋』とともに数少ない単弦ローゼ橋で、写真‐1で分かるようにアーチリブから斜めにケーブルを張り、日本ではお目にかかったことが無いタイドアーチに似た形式である。私は、何回か台湾政府を訪問し、台南、台中、台北エリアを見て回っているが、一度も見たことのない橋梁形式である。Nanfang’ao Bridgeと同様な外観、変則とも言える交差型(逆Y字型)単弦アーチ橋を他の国で探してみると、スペイン・セビリアにあるバルケッタ橋、同じくスペイン・サラゴサのテルセール・ミレニオ橋、オランダ・ナイメーヘンのデ・オーフェルステーク橋がインターネットでヒットした。今更の話しであるが、インターネットを使ったテキストマイニング技術は素晴らしい。
今回崩落したNanfang’ao Bridgeはアジアでは唯一、かつ初の採用事例との記述もある。世界的に見ても採用例が少ないのは、景観的には評価されるが、バランスを微妙な形でとる交差型構造的であるからかもしれない。また、重要なアーチ基部の交差部が路面下であり、写真‐2で明らかなように路面にケーブル基部が露出、床版部を貫通している構造であることから、維持管理的には難点があると思われる。Nanfang’ao Bridgeの規模を調べると、全長は140メートル、幅15メートル、ライズ高さは18メートル、海上面からのアーチリブ頂点までの高さは47.5メートルとなっている。近点でNanfang’ao Bridgeを自分の目で見ることを想定すると、これだけの外観であることから目を奪われることには間違いなく、当該地域のランドマーク的存在であったことには間違いない。
崩落当時の台湾での情報を調べると、前日の9月30日に猛烈な台風が同橋のエリアに襲来しただけでなく、崩落同日の早朝にマグニチュード3.8の地震が発生したことが、Nanfang’ao Bridgeが崩落に至った一因との報道もある。しかし、ここに示した情報が崩落の主原因と考えるにはかなり無理がある。常識的に考えると、飛来塩分もしくは塩分を含んだ雨水等が架設後徐々にサスペンションケーブル部に浸入し、応力腐食環境状態となった。次に、吊ケーブルの腐食が急速に進行し、車両が通過した際の動荷重でケーブルが破断し、崩落したと考えるのが一般的であろう。
参考に、写真‐3に崩落直前、写真‐4に崩落が始まった直後、写真‐5に崩落した状況を、読者が理解しやすいように順を追って掲載した。ネットに乗っている動画から分解した写真であることから、解像度が悪く見るに堪えない状態であることはご勘弁願いたい。写真には、Nanfang’ao Bridgeが崩落に至る状況と路面上を通行する車両位置を赤い矢印で示しているので、主桁(床版)の変形状態も併せて見て貰いたい。別の意見として、架設位置の環境から、太平洋から吹き抜ける風を考えると、Nanfang’ao Bridgeは風によって引き起こされる長期的な振動で、重要なアンカーの緩みや疲労損傷が発生指定可能も考えられる。しかし、それを確定するのは、崩落した部材やケーブルを集め、化学的な分析調査が必要である。私も、当該地域ではないが、台湾の北東部、太平洋に面した道路橋を見に行ったことがあるが、飛来塩分の凄さと猛烈な風の強さには驚いたことを今でも覚えている。台湾のNanfang’ao Bridgeに関係している技術者には申し訳ないが、ここに示した実体験から言わせてもらえば、世界的に事例の少ない単弦ローゼ橋、特に路面下の主要部材にアーチから発生する水平力を持たせる構造であることを考え、架設直後から手厚いメンテナンスの実行とメンテナンスに関係する種々なデータ収集が必要だったのではと思う。結果的はそれらが不足していたことから、今回の崩落事故に至ったと私は考える。
Nanfang’ao Bridgeに関連する最後の写真‐6を見てほしい。本橋が崩落した直後の取付け部の状況であるが、滝のように水抜き穴?から噴き出る水は何を意味するのか、読者の方々に考えて貰いたい。これが、当該橋梁、Nanfang’ao Bridgeが、メンテナンスを十二分に受けることが出来なかった状況を物語る、Nanfang’ao Bridgeの涙なのである。読者の方々の周辺にも同様な涙を流している構造物が多々あるのではないであろうか?私個人の思い過ごしであれば良いのだが。
次に、中華人民共和国で起こったコンクリート道路橋崩落事故は、読者の皆さんにインターネット等で見てもらうとして、個人的に興味があったヨーロッパ、それもフランスで起こった吊橋崩落事故について、崩落状況と原因について話すとしよう。