青森県十和田市に構える上北建設の音道薫氏は高耐久コンクリートの求道者だ。2004年にコンクリート技士の資格を取るために試験を始めて以降、人に出会い、現場で危機意識を持ち、さらに東北特有の環境に対応して、長く良い品質のインフラを残すためにどのようなコンクリート品質を確保すべきか、そしてその確保のためには何をなすべきかを追求してきた。また自分だけでなく、青森や東北全体のレベルを底上げするために積極的に自社外の挑戦的な現場に助言者として出て、官や学と地場企業との橋渡しを行っている。その情熱と考え方を細田暁横浜国立大学教授が聞いた。(編集:井手迫瑞樹)
コンクリート技士の資格取得が契機
良いコンクリート構造物を施工したい
細田教授 品質確保や耐久性確保に非常に積極的に取り組んでおられて、今回は札幌でのJCIで高耐久RC床版の施工について発表もされましたが、どういうきっかけがあったのですか。
音道氏 コンクリートに興味を持つきっかけになったのは2004年の春に上司である漆戸常務にコンクリート技士の試験を受けてみないかと促されたことです。そこで初めてコンクリートについて真剣に勉強を始めました。その後もコンクリート診断士やコンクリート主任技士の資格など難しい資格を取るにつれて、コンクリートに詳しい人たちと出会う機会が多くなり、会話していく中で、良いものを造らねばならないと思うようになりました。
コンクリート診断士を取得した後は、青森県コンクリート診断士会に入会し、そこで八戸工業大学の阿波稔先生とのお付き合いが始まりました。阿波先生には目をかけていただいており、非常に有難く感じています。
そうした出会いの中で、さらにコンクリート品質を高めることへの意欲が増しました。表層品質であったり、気泡であったり、打重ね線であったり、砂すじなどの課題をどうやって解決していけばいいのかということを考えながら施工していた時に、2010年に徳山高専の田村隆弘先生と、細田先生が八戸に来て講演したのを聴きに行きました。聴いているうちに自分が直面している課題と解決方法にまさにマッチした考え方だなと思い、講演完了後すぐに駆け寄って挨拶させてもらいました。話すに従って、自分も熱い人間だと思っていましたが、細田先生も非常に熱い人間だと感じました。簡単に言えば細田先生に惚れたという感じですかね(笑)。
2010年から本格的に施工状況把握チェックシートなどを活用
施工の際の雪寒仮囲いなど東北地方には独特の課題
細田 ありがとうございます。コンクリートの品質へのこだわりに最初に挑戦した現場はどこですか。
音道 2010年に施工した場所打函渠工です。その前にもRC橋脚の施工でコンクリート構造物の品質がなぜ安定しないのか試行錯誤しながら施工していましたが、本格的に施工状況把握チェックシートなどを利用してのめり込んだのは、その函渠の現場です。
細田 コンクリート構造物の品質の向上や耐久性の向上にチャレンジする人は全国的に増えてきているのですが、特に音道さんの場合は、青森県の十和田で、北東北ならではの寒冷地施工などの難しさや逆にやりがいなどがあると思います。地元を代表して述べてください。
音道 北東北での施工の難しさは冬季に雪を防ぐための雪寒仮囲いをしながら施工をしなくてはならない点です。青森県の中でも降雪量に地域差はありますが、十和田地区は一晩に30cm積もる場合もあります。仮囲いの屋根がつぶれないための対策が必要で、積雪した雪を降ろさなくてはいけないため安全面でもあまり良くありません。施工中も型枠を組んでからどうしても、屋根を開けて後続の作業を行いますので、屋根を開けた時に雪が中に入ったりすると品質に影響が出てしまいます。型枠を組んだ後に雪がその中へ入っていくと、それを溶かすというのは至難です。打設前には、水を使って清掃しますが、それが凍らないように工夫するというところにも、かなり神経を使います。
逆に言えばそういった課題をクリアすること自体が一つのやりがいになっています。
細田 寒い時期に良いものを作るには様々な配慮が必要ですね。気を使うだけではなく、実際に適切に行動しなくてはいけませんよね。それには当然お金もかかるわけですが、その辺の費用は十分工事費の中で見てもらえているのですか?
音道 十分ではありません。仮囲いの中のヒーターの燃料が一番見合わないですね。経費率の中に入ってはいますが、見合っているとは言えません。
細田 持ちだしになっちゃいますか。
音道 現状はそうです。
細田 ということは、音道さんがやっているような養生をやってない現場もきっとあるということですよね。打ち込みながら表面が凍っているという現場も耳にしたことがありますし。
音道 (苦笑)
考えながら施工する行為そのものが好き
直営の作業員を使いノウハウを落とし込む
細田 現在の音道さんの活躍は凄く頼もしく思っています。特に耐久性の高い場所打ちRC床版を実現すべく頑張っている技術者集団のコアメンバーだと思っています。そうした活動をどういう思いでやっていますか。
音道 社会貢献したいという思いが大前提としてあります。自分がしている仕事が現場監督ですので、良いものを造って社会に返すことを心がけています。一つの仕事に満足するのではなく、課題を見つけてより良いコンクリート構造物を作るためにはどうすれば良いか、常に考えながら施工しています。その「考えながら施工する」行為そのものが自分は好きです。しかし現実は結構厳しくて、100点だと思えるような構造物はまだ造ることが出来ていません。
また、色々な先生方と出会って、自分がやってきた小さな取り組みから含めて、委員会で活動した結果、報告書に掲載され、講習会で発表することもできました。些細なことかもしれませんが、自分の技術が誰かの役に立てるのであれば、社会貢献になっているのかな、と考えています。
細田 やっていて楽しんでますか?
音道 昔に比べたら発注者への報告に関する要求量が多くて、書類に圧迫されるから物を造る楽しみが少し遠のいているところはあります。しかし基本的には良いものを造るためにはどうしたらいいかということを考えて楽しんでいます。
細田 社会貢献という意味では申し分ないと思います。ただ我々「学」はそれが仕事だから良いのですが、会社の理解というのは得られますか?
音道 そこは上司によって考え方が違う所もあります。当社の田島社長は、それぞれの特徴を活かせるように行動しなさい、と言ってくれています。ただ、ある程度活動をセーブしてくれよ、という人もいます(苦笑)。
細田 最近の作品では青ぶなバイパス1号橋があると思いますが、2号橋もやるんですか?
音道 やります。今年は下部工を施工しており、現場打RC床版の施工は2年後に受注できれば行いたいです。
細田 前に施工した同バイパス1号橋のRC床版で工夫したことや、工夫する中でアイデアを実現するために困難であったこと、それをいかにして克服したかについて話してください
音道 実地試験の段階から直営の作業員で打設しました。直営の作業員の中には熱意を感じられる人がいます。そうした人を現場に引っ張り込んで自分がどういう構造物を造ろうとしているかをじわじわと落とし込んでいきました。
細田 いつも直営の作業員を使っているのですか?
音道 私が監督する現場では直営の作業員を使っています。自分の持っている技術を他の下請を呼んできて持って帰らせるよりは、自分の会社にノウハウを落とし込んだほうが良いと思っているからです。熱のある人は自分と同じく良いものを造りたいと思っていて、そういう人間を施工の中心メンバーに据えていくと周りの作業員も引っ張られて同じベクトルの方向に動き始めます。それが一つの工夫といえます。
1号橋をやるときに困難だったのは、東北初の凍害区分種別Sの耐久性床版の取組みであったことです。施工時は利益を度外視して、やれることは全部やりました。一発目の工事で行った試行錯誤が次からの工事の目安になるからです。手を尽くさねば、それが標準となり単価が下がってしまう。それよりは採算を度外視してでも高耐久性床版を実現するには何が必要かを明確にしたほうが良いと考えました。
利益は残りませんでしたが、社訓である「誠意」、「創意」、「熱意」を実践したことによって、発注者から感謝してもらい、上北建設のプレースタイルを示せたと思います。また、結果的に東北地整の高耐久RC床版の手引きにも知見が落とし込まれました。社会貢献という意味ではよかったと思います。
自助努力でエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用
先行現場の取組みを参考に施工
細田 一番お金がかかったのはやはり鉄筋ですよね。
音道 そうです。エポキシ樹脂塗装鉄筋です。
細田 それを会社の自助努力で用いたんですね。
編集 ※それは、すごいですね。
細田 理由があって、この事業は青森県から国交省が受託した権限代行事業なので、国としても費用を出しにくかったということがあります。技術的にも工夫しましたよね
音道 先行工事でIHIインフラ建設さんや大林組さんがやっている取組みがあり、それを参考にしながら施工しました。一番大変だったのは打設時期が暑中コンクリートになったため、遮光ネットを張るところが大変でした。予め張っていれば、ポンプ打設する時に邪魔になります。施工の進捗に合わせながら、いつでも引っ張って日陰を作れるような仕組みにしました。また作業の支障にならない高さに張るというのも工夫しました。また、打設時に多くの人工を使うので、天気が崩れて延期になると、人のコントロールが混乱します。人を集めて仕切り直しするためには1~2週間かかります。本当に天気だけは祈りながら施工しました。
先行現場の取組みを参考にしながら施工した
遮光ネットはポンプ打設時に容易に交わせ、打設時は日射を遮られるようにアコーディオンのように設備した