シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉙
地元業者が取り組む高耐久RC床版の施工(その1)
日本大学 工学部 土木工学科
コンクリート工学研究室
准教授
子田 康弘 氏
1.はじめに
高耐久RC床版は、フライアッシュコンクリートを用いた向定内橋のRC床版が代表例になるが、その実装は三陸地域から始まった1)。高耐久RC床版の実装に携わった施工者に目を向けると、三陸地域の床版は大手建設会社がこれの担い手であった。この種の会社は、技術的な課題の克服にあたって現場単独のみならず、本社等からの技術支援部隊の応援も受けられる。すなわち、多くの技術者が会社に在籍している会社であれば支援体制が万全な状態で床版施工に臨めるといってよい。
本稿で紹介する写真-1の東北中央道「相馬福島道路(霊山~福島)」の(仮)桑折高架橋(橋長L=1,218m)(発注者:国土交通省東北地方整備局福島河川国道事務所)は、東北新幹線と東北本線および複数の道路を跨ぐ橋梁であり、このJR区間を除く工区における高耐久床版の施工を地場の建設会社が担当するもので、この点は高耐久RC床版の実装として初めてのことになる。本稿では、福島県の地元建設会社がいかにして本施工に向けて真剣に取り組んだかを報告する。
2.東北地方の道路橋の損傷
(仮)桑折高架橋のある東北地方における道路橋RC床版の損傷の現状を示す。写真-2は、東北地方の道路橋RC床版で散見される橋面上の変状であり、橋面舗装から土砂状の噴出物が確認できる。この種の変状箇所は大抵アスファルトを撤去するとRC床版上面には、コンクリートの砂利化2)が発生している可能性が高い。砂利化は、国道においては交通量が8,000台から12,000台/日程度の橋梁でも発生しており、凍結防止剤散布の大量散布が始まってから顕在化している。
写真-3は、床版下面のひび割れで見られたつらら状の白色析出物である。この析出物の主成分は塩素イオンである。つまり、この床版は床版上面から浸入した凍結防止剤(NaCl)混じりの水が下縁まで達し、ひび割れより析出し再結晶化したものと解釈された。このように塩漬けともいえるようなRC床版は東北地方には少なくはない数で存在する。これらのことから、高耐久RC床版は、疲労よりも材料劣化による損傷が先行する東北地方の橋梁を長持ちさせるために必須と考えられる。
3.床版の多重防護という考え方による(仮)桑折高架橋への高耐久床版の実装
国土交通省東北地方整備局は、凍結防止剤散布環境下におけるRC床版に発生する凍害、塩害、ASR、および疲労という4つの損傷それぞれに複数の対策で対処するという多重防護の考え方3)を本局が進める復興道路、復興支援道路の橋梁で実装を行っている4)。
RC床版の多重防護という考え方は、図-1より、(1)外的劣化因子の侵入を防ぐために、緻密性と塩分浸入抵抗性を確保することを目的にコンクリートの水結合材比(W/B)を45%程度にする。(2)凍結防止剤による塩害を防ぐため、凍結防止剤が大量散布される区間は防錆鉄筋を採用する。また、(3)凍結防止剤散布下の凍害、主にスケーリング劣化を防止するため、耐凍害性が確保される空気量の目標値として5.0%、特に厳冬地域は6.0%とする。最後に近年、凍結防止剤散布由来のアルカリ分の追加供給によるASRが解明されてきている5)。そこで、(4)フライアッシュの使用、または高炉セメントによってこの種のコンクリートの塩分浸入抵抗性に期待するとともに、ASRの発生を防止する。加えて、(5)主桁拘束と乾燥収縮によってひび割れの発生リスクは高くなるため、膨張材の使用といったひび割れ抑制も行われる。この種のコンクリートの品質を確保するため、必要な緻密性を得るために、上面は給水養生、下面は封緘養生をそれぞれ1ヶ月程度行うものである。
図-1 積雪寒冷地域にあるRC床版の劣化と多重防護という考え方3)
表-1は、高耐久RC床版に適用されるコンクリートの配合例である。表に示すコンクリートの配合では、高炉セメント(BB)を用いており、現着スランプ12cm、目標空気量を5%を満足させるため、高性能AE減水剤を用いて仕様を満足させるように配合が組まれている。
(仮)桑折高架橋は、コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)6)と凍結防止剤散布下におけるRC床版の耐久性確保の手引き(案)(以下,単に床版手引き)5)に基づき下部工から上部工まで、いわば“つま先から頭まで”を手引きに従って施工する1橋目になる。
地元業者が担当する床版施工区間は,図-2に示すように、JR部を除く16径間であり、これを連続桁ごとに4工区に分け、県内3社が受注した。2019年1月頃よりJR部を挟んだ2工区が床版工に着手したものである。