シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉔
ひび割れ抑制の考え方 その①(東北地整のひび割れ抑制のための参考資料(案)の策定)
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
1.はじめに
筆者らの品質・耐久性確保に関する取組みは、土木学会の2016年度(平成28年度)の重点研究課題に採択された。課題名は「コンクリート構造物の品質・耐久性確保と人財育成のためのマネジメントシステムの構築と実践」である。コンクリート委員会、建設マネジメント委員会、土木情報学委員会、教育企画・人材育成委員会と分野横断的に連携する形でスタートした。委員会としては、土木学会コンクリート委員会の中に「コンクリート構造物の品質・耐久性確保マネジメント研究小委員会」(229委員会)として設置され、1年間の活動を行った1)。表-1は、229委員会のメンバー一覧である。
表-1 コンクリート構造物の品質・耐久性確保マネジメント研究小委員会のメンバー
この委員会の目的は、我が国の多様な環境条件で供用されるコンクリート構造物について、長期に渡って求められる性能を発揮するための耐久設計と施工時の品質確保が達成され、その過程で人財が育成されるシステムを構築するための実践的な議論と分析を行い、可能なことから社会実装することであった。
229委員会の活動は多岐に渡ったが、その中で重点的に議論を行い、新たに手引き類を策定した事項について、本連載でも紹介していきたい。
東北地整の「ひび割れ抑制のための参考資料(案)」2)の策定は、229委員会が全面的に支援しながら行われたが、その過程で「マネジメント的」な多くの課題が共有され、それらについて議論を重ねて参考資料が作成され、整備局から通知された。この参考資料の策定の背景と骨子を本稿で説明する。次回以降、「ひび割れ抑制の考え方」の続編として、この参考資料に基づいた具体的なひび割れ抑制の例や、温度応力解析を使う際の留意点等についても述べてみたい。
2.「ひび割れ抑制のための参考資料(案)」
229委員会の活動期間中に最も多くの議論を重ねて作成したのが「ひび割れ抑制のための参考資料(案)」2)であった。2017年2月に東北地方整備局から通知、公表された参考資料である。ひび割れの発生やひび割れ幅を抑制する目的、制御の目標とするひび割れ幅およびひび割れ指数、ひび割れ抑制の方法等について議論を重ね、参考資料としてまとめた。以下にその骨子を説明する。
(1) 適用の範囲
まず、1.適用の範囲において、この参考資料は、東北地整の「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)」を用いた品質確保の試行工事に適用するものとした。この手引きにより施工することで、施工に由来するひび割れが発生する可能性が小さくなり、設計や解析で前提としている均質なコンクリートに近い状態となると考えたからである。
次に、この参考資料は、現場打ちコンクリート構造物を対象に、品質確保の一手段として、外部拘束による温度応力を主要因とするひび割れの幅を目標値未満にするための抑制対策を検討する場合に適用するものとした。ひび割れ抑制はあくまで品質確保の一手段であり、ひび割れ抑制そのものが目的化してしまうことに警鐘を鳴らし、対象のひび割れも貫通の懸念のあるひび割れに限定した。なお、ひび割れ幅の目標値は、当面0.2mmとすることにした。これは、東北地整の「土木工事施工管理基準及び規格値」(平成 25 年)において、対象となる構造物のひび割れ調査の規格値として0.2mmが定められており、0.2mm 以上のひび割れが発生した場合は、本数・総延長・最大ひび割れ幅等のひび割れ発生状況の調査が必要となり、この状況も参考にして設定したものである。将来的には、ひび割れが構造物の耐久性に及ぼす影響を環境条件等を勘案して検討し、ひび割れ幅の目標値を適切に決定していく必要があると認識している。
(2)各対象のひび割れ抑制対策
ひび割れ抑制対策は、橋脚、橋台、函渠、擁壁のそれぞれに適した方法で実施するものとした。橋脚、橋台には、目標値以上のひび割れを発生させないように適切なひび割れ抑制対策を実施するものとした。函渠には、目標値以上のひび割れを発生させないように、適切な設置間隔と断面欠損率を有するひび割れ誘発目地を配置するものとした。RC擁壁には、伸縮目地を適切に配置するものとし、それ以外のひび割れ抑制対策は実施しなくてよいこととした。
橋脚においては、誘発目地は用いないこととした。貫通ひび割れの発生する可能性のある中空の橋脚の場合は、構造上、ひび割れと直交する方向に鉄筋が比較的多く配置されるため、ひび割れ抑制鉄筋の追加を検討する場合には、このような構造鉄筋を考慮して行うことが望ましく、むやみに鉄筋量を増やして過密配筋としてはならないとした。橋台においては、ひび割れ抑制対策として誘発目地を推奨はせず、誘発目地を用いない場合には、ひび割れ抑制鉄筋の追加によりひび割れを分散させて、目標値未満に抑制することを基本とした。たて壁等で部材厚が大きい場合には、誘発目地を用いることによりコストが増大したり、コンクリート打込み中に誘発目地がずれることなどが懸念されるため、ひび割れ抑制鉄筋を追加する対策を推奨した。橋台の胸壁のように部材厚が薄くて鉄筋比が高い場合には膨張材の活用も有効であるとした。
図-1は、参考資料の巻末資料に掲載されている、小佐野高架橋のA2橋台(図-2)におけるひび割れ抑制対策での各種のひび割れ抑制対策の概算工事費を比較したものである。
図-1 各種のひび割れ抑制対策の概算工事費の比較(小佐野高架橋のA2橋台の例)
図-2 小佐野高架橋 養生中のA2橋台
このA2橋台におけるひび割れ抑制対策と実際の工事での結果は、本連載の次号で紹介する予定であるが、幅が22.5m程度の橋台であったため、実際にはひび割れ抑制鉄筋を追加してひび割れ幅を0.2mm未満にすることを目指した。この事例では、ひび割れ抑制のために追加した鉄筋量は約10 トンであり、概算金額にして約200 万円であった。一方、温度応力解析を行うと100 万円以上かかる場合が多く、解析の結果、2か所にひび割れ誘発目地を設置する対策を行うとなると対策費用の試算の結果は約300万円であった。このように、温度応力解析に頼らずに適切にひび割れ抑制鉄筋を追加できれば、比較的安価にひび割れ抑制対策が行える可能性がある。