シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑯
南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「お手伝い」から主要メンバーへ
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授
細田 暁 氏
インタビューシリーズの第四回目は、復興道路事業促進PPPで日常業務をこなしながら、コンクリート構造物の品質確保の手引き等の規準書の作成実務に携わったウヌマ地域総研の梅沢武人氏に話を聞いた。産官学の協働でまとめあげる新設構造物の規準書の叩き台を作る、という全く初めての仕事にとまどいながらも、その陣頭指揮を執る佐藤和徳所長(当時)とのやり取りも踏まえた人間模様を聴くことができた。(聴き手:細田暁・横浜国立大学准教授)(編集:井手迫瑞樹)
手引書を使う側から作る側へ
――現在梅沢さんは、PPP事業促進の職員として南三陸事務所に来られているわけですが、その仕事内容から教えてください
梅沢 PPPというのは官民パートナーシップじゃないですか。ざっくり言いますと、役所のお手伝いじゃないですけど、本来職員がやるような協議だとか、地元の説明が主な仕事ですね。
――施工管理はその中に入っていますか
梅沢 施工管理も含んでいますが、事業管理がメインですね。進捗工程管理を主業務で担っています。私が所属するPPPのチームは4社で構成してまして、長大、ドーコン、そして私の派遣元のウヌマ地域総研と、施工会社の前田建設工業です。
――担当工区はどこですか
梅沢 唐桑高田道路の陸前高田工区ですね。
――ウヌマさんからは何人入っているのですか
梅沢 去年までは2人でしたが、現在常駐しているのは私だけです。というのも当社は、用地買収・取得を担当しており、それがほぼ完了した状態であるため、事実上減員しています。
跨道橋橋脚フーチングの立会/現場事務所で作業内容の確認
牧田跨道橋での試験施工立会
――梅沢さんは、コンクリート構造物の品質確保の手引作りにも参画されていましたが、あれは普段の業務と全く別にやられていたのですか
梅沢 そうです。
――それは何故ですか。佐藤(和徳所長、当時)さんが梅沢さんを指名したわけですか
梅沢 そうですね。最初は私じゃなかったんですけど。
――最初は年配の方でしたよね
梅沢 そうです。前任の方は大船渡のほうに常駐していて事務所にいないので、レスポンスを良くするということで、私はお手伝いの立場で入りました。それが知らぬうちに主担当でやることに(笑)。
当初は何もイメージできない
――少し実情をお話ししておきますと、梅沢さんがすごく作成で頑張られた「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)と「ひび割れ抑制のための参考資料(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)」(下写真)はいろいろな意味ですごく重要です。品質確保の手引きに関して言いますと、東北地整の手引きとして作ったんですけど、全国で参照・活用されるステージに入ってきています。ご苦労されていると思いますが、その苦労した点を率直に教えていただけますか
梅沢 普段、私の会社では新しいものを造る仕事はほとんどなくて、今ある橋梁なり構造物の橋梁点検とかを主要事業としており、新設に関する仕事は私自身あまりやったことがありませんでした。
橋梁点検は、劣化を発見して、診断を行い、延命化のための補修設計という成果品を作って納品して終わるという仕事であり、それを長年行っていました。言ってみれば手引きなり規準書などを使って仕事をする側だったのに、いきなり今度は作る側をやれと言われたわけです。正直、何もイメージできず、何をやって良いのかさえイメージできませんでした。ただ仕事ですから、できないとは言えません。所長室で佐藤所長とマンツーマンで作業を始めました。所長室なんてまず入る機会なんて一生のうちに1回あるかどうかと思っていたのに、牧童にひかれる羊のように所長室に連れて行かれました(笑)。
――こんな感じだよね、というような議論を所長としながら、ですね
梅沢 佐藤前所長もイメージ的に喋る人なんで、それを形にするのが中々できず、できなくて悩んでいると、まだかまだか、と気づくと後ろに立たれていました。部屋も近いんで。毎週後ろに立っているんです。
――(編集部)それだけ期待されていたわけですね
梅沢 焦る気持ちが募る一方でした。成果が出来てこないという状況が続いていたんですよね。ですけど、人間とは慣れてくるもので、途中から開き直って、まあいいや、と。
――今回のすごく重要な手引きと参考資料をあまり慣れてもおられない立場にもかかわらず、すごく重要な働きをされたと思います。こういう文書は、たたき台をつくるのが大変なのであって、たたき台さえ上がってくれば、あとはみんなで意見を言いながら改善されていくのですから
梅沢 そうですね、普段のPPPの仕事以上に大変でした。