先月は自動車業界において技術の最先端を走っているとのプライドを持つフォルクスワーゲン社(ドイツ)のエンジン偽装問題発覚事件を受け、私の過去の経験から国内で起こっている鋼橋に関する製作上の大きな問題を指摘した。私が執筆し、掲載後に国内では、民間マンションの杭に関する偽装が発覚、10月下旬はどの紙面、どのニュースを見ても杭偽装に関する話題で持ちきりである。しかし、技術者として何とも情けない話である。杭偽装が発覚すると、技術者を雇用している会社の幹部が担当者の日常の態度にまで触れ、信頼性を疑うような発言を公然とするこの社会は何だと感じるのは私だけであろうか?一流企業の企業理念、社員に対するモラールやモチベーションをどのように考えているのか大いに怒りを感じた記者会見であった。担当者個人の偽装工作でなく、会社ぐるみ、同業種ぐるみ・・・の偽装工作、データねつ造へと発展する状況をテレビ等で知り、これで国内の専門技術者に対する国民の信頼は失われ、これまで多くの技術者が取り組んできた信頼向上のゴールは遥か彼方となったのは事実である。先の会社の幹部のような人がこの国のリーダーである限り種々な難題に自らの身を削って対応しようとする技術者、誠実な作業に命をかける技術屋がいなくなるのは間近かもしれない。技術者、専門技術者の育成が喫緊の課題であると言っている関係者の努力を無にするような事態の続く昨今に飽き飽きしているのは私だけではないはずと思う毎日である。
さて、ここで、先月お約束したコンクリートに関連する事故を事例に重大な問題を投げかけるとする。
1.プレストレストコンクリート(以下、PC)桁の欠け落ち損傷
コンクリートの欠け落ち事故は、新交通システムとして代表的な跨座式モノレール桁に発生した。跨座式モノレールの特徴は、街路上の空間に設置されており、道路中央に支柱を建て軌道桁を架設するのが一般的である。跨座式に採用される軌道桁は、モノレールと交差する道路、鉄道、河川等の長支間となる一部を除いて耐久性の高い?単純PC桁で製作されており、桁の長さは標準で22㍍(曲線区間:L=19㍍)が一般的である。PC軌道桁は、品質確保のために工場製作され、現場に輸送された後にトラッククレーン等で架設されることになる。
図-1 一般的な跨座型モノレールのインフラ構造
写真-1 跨座型モノレールの桁と橋脚
欠け落ち事故は、モノレールの走行する軌道の直下、街路上にコンクリート塊が発見されたことが事の始まりである。車道上に写真-2に示すようなコンクリート塊が数個発見された連絡を受け、疑心暗鬼な状態で現場に向かった。よもやPC桁が欠け落ちたとは思わず、鉄筋コンクリート橋脚の天端か、若しくは支承部の一部が塩害、かぶり不足等の原因で車両の振動によって落下したものと考えて該当する範囲を見て回った。
写真-2 欠け落ちたコンクリート塊
日も暮れようとする時刻、橋脚周辺を見て回っていた我が目を疑う事態に唖然とした。コンクリートが欠け落ちたのは橋脚や支承まわりではなく、信頼性の最も高いPC軌道桁であることを見た時である。欠け落ちは、単純桁を繋ぐ伸縮継手部の数か所に確認された。モノレール軌道桁は、温度変化等による伸縮量から遊間長が決定され、車両がズムーズに走行できるように、また車両の横方向の移動を制限し、軌道から外れることのないように種々な工夫がなされている。
写真-3 軌道桁、橋脚、支承と伸縮継手
コンクリートの欠け落ちは、PC軌道桁の端部、鋼製フィンガージョイント周辺部で発生していた。原因として考えられるのは、車両走行時に走行輪、案内輪が段差等による衝撃によって当該部分に強度に接触し、駆け落ちたのではないかと考えた。これまで国内で数多く採用されている跨座型モノレールにおいて車両走行時の衝撃でPC軌道桁が損傷した事例を耳にしたことは無く、今後同様な損傷が多発する可能性も危惧し、詳細に原因分析を行うこととした。
写真-4 欠け落ち損傷のあるPC軌道桁
図-2 一般的なモノレールPC軌道桁と配筋図