行政技術職員、民間技術者、土木に関係する教員に今何が欠けていて、何が必要なのかを書いてほしい、黒子でもよいからとの話が私にあった。即、書くからには実名で書くと答えた。黒子で書いても執筆者が不明では説得力はないし、黒子だから言えるんだとの声も聞こえてきそうである。特に強かったのは、名前も明かさずに書くのは卑怯だとも考えたからである。しかし、執筆を引き受けたのは良いが全く書く内容が浮かばない。どうしたものかと四苦八苦するうちに半月が経過した。しかし、これから急速に変わる環境とその中で変わらなければならない専門技術者に、何かを示唆しなければならない使命を痛切に感じている自分に鞭を打ち、諦めの境地で書き始めてみた。まずは、出来上がった構造物の品質についての話である。
1.「コンクリート構造物の耐久性、コンクリート工学、Vol23、1985」
小林一輔先生の言わんとするところ
「コンクリート構造物の耐久性」に関して小林先生は論説で次のように述べている。「現代の建設材料の中で鉄鋼や合成高分子材料はそれほど安定した材料ではなく、これに比べると、コンクリートは桁違いに耐久性の優れた材料ということができよう。これは、大正時代につくられた鉄筋コンクリート(RC)構造物で現在も支障なく供用されているものが、なお多く存在していることからも明らかである。」事例として、新潟の万代橋、御茶ノ水の聖橋、三井物産横浜支店ビルなどをあげている。小林先生が言わんとすることはここではない。その後の記述である。「・・・他方では10年の供用も危ないようなコンクリート構造物が、しかも近年になって何故に増えてきたのか?」と重大な課題を示し、公共工事の土木分野について先生の考えていることを述べている。その原因は、コンクリート材料としての研究が遅れていること、公共土木工事の分業化を原因とする官公庁技術者(私の言う行政技術者)の現状把握が不足していること、高度経済成長期以降の施工や材料の質の低下が著しいことなどをあげ、「この時代の価値観は、良いものをつくることではなく、早く仕事を片付けることにあった」と当時の行政技術者を批評している。そして、「塩害は人災である。アルカリ骨材反応をめぐって。分業化と官公庁の工事発注方式について・・・最後に昭和40年代以降につくられたコンクリート構造物をできる限り沢山見ていただきたい。橋梁を真下から観察するなどということは、地形によってはけっして楽なことではないが、ゴルフ場を回る体力のある方ならば心配は無用である。おそらくは、一篇の論文を読むよりは、はるかに多くのことをコンクリート構造物は物語ってくれるはずである。」と私が日ごろから考え、多くの産官学の技術者が実行すべきことを述べてくれている。
ここで、実際に供用開始した直後(供用後2年)の道路橋を事例に起こっている変状を見てみよう。事例は、橋長約557㍍の鋼床箱桁形式橋梁と橋長約461㍍のローゼ形式の橋梁である。外観は橋梁を特定できるので全景の写真はご勘弁願うとして、一つは、既設道路を跨ぎ短期間に建設した鋼橋、も一つは美しい外観とシンボル性を期待して河川を横断して建設した鋼橋である。
供用後2年で伸縮装置取付けボルトから漏水
35㍉以上の空きを許容――鳥が入り込むのは時間の問題
前述の箱桁橋は、供与開始2年後に調査したところ、箱桁に取りつく伸縮装置取付けボルト部からの漏水で既にボルト及び端部の腐食が始まっていた。また、鋼桁添接部からの空隙からこれも雨水が浸入し、同様に腐食が始まっていた。短期間に建設することは使命であることかもしれないが、長期的な耐久性から考えればこのような変状の発生は許されることではない。箱桁の中を点検する必要性を感じていても、定期点検時にマンホールを開けて中に入り込む点検を常時行っている組織は数少ないのが実態であることをまずは考え、設計・施工すべきである。もう一つの大きな問題は、添接部分の空きの不揃いも問題であるが、35㍉以上の空きを許容したことにある。鳥が入り込むのは時間の問題であり、最悪の事態が起こる結果は目に見えている。
写真‐1 腐食が始まった添接部
写真‐2 大きな空きのある添接部