道路橋の維持補修 ――「床版防水」その1
(一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所
研究第二部 部長
谷倉 泉 氏
重要視される床版防水工
1.はじめに
前回、―道路橋の維持補修「水を制するー既設橋の桁端部」―と題して、橋を安全で長持ちさせるためには第一に水処理が大事であり、特に橋面排水や桁端部からの漏水に注意し、設計、施工、維持管理の面から「水を制す(コントロールする)」ための配慮が重要だということを述べさせて頂いた。この時は、床版防水については次回にという事で終わらせているので、今回はその続きを述べさて頂きたい。
まず、防水層とは何かという方もいるかもしれないので図-1を参考にして簡単に説明すると、一般的には主桁上のコンクリート版(厚さ20㌢前後のRC床版あるいはPC床版)の上に敷設(設置)されるシート状、あるいは吹き付けたり塗ったりした塗膜状の防水材のことを指す(図-2)。その上には舗装が転圧されたり、交通車両の輪荷重が舗装を介して載荷されたりするため、防水層は過酷な荷重状態に置かれている。また、舗装中を浸透してきた雨水等を遮断して床版内に浸入させないことが防水層の一番重要な役割であるため、上述したような供用条件に対する耐久性が求められ、排水設備と合わせて防水および排水の役目も担う。床版が平坦であったり窪みがあったりすると滞水するため、舗装との接着力が不足する場合には舗装とのはく離を生じたり、ポットホール(舗装表面の数10㌢程度の孔)が発生する原因となる。さらに、床版にひび割れが存在している場合には、車両通過時にひび割れが開閉するため、その開閉への追従性が求められる場合もある。
図―1 床版、防水層、舗装の配置
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図―2 シート系防水層(左)と塗膜系防水層(右)の例
このような防水層が重要視されてきた背景には、最近のコンクリート床版の損傷に伴う交通の安全性への懸念と維持更新費用の増大が指摘できる。
維持管理費4兆円の半分が床版関係
昨年公表された旧道路4公団における維持更新計画によると、全14,000㌔に及ぶ路線の今後15年間での維持更新コストは4兆円規模と見積もられており、そのうちの約1/2が防水工を含む床版関係(RC床版、鋼床版等)の維持更新費用とされている。国や地方自治体を含めると、その金額はそれ相当な額となることが予想される。これは、床版が多くの交通荷重による疲労や自然環境の影響を受け、損傷が大規模に広がってきているという供用上の問題だけではなく、荷重を直接支える版としての設計方法にも未解明の課題があったのではなかろうかと言う反省もなされてきている。
特に、雨水がRC床版上面に常に供給される状態を模擬した試験体で疲労試験を行った場合、床版の疲労寿命は乾燥状態のそれの1/100以下になることが松井繁之大阪大学名誉教授らの輪荷重走行疲労試験による研究成果から明らかになっている、すなわち、うまく防水ができれば床版の耐久性が100倍以上になるということであり、今後の防水対策の重要性を物語っていると言える。さらに、我が国全体では約70万橋に及ぶ橋が存在し、そのうちの7割に相当する約50万橋は予算不足、技術者不足と言われている市町村が管理する地方道となっている。多くの地方自治体にとって、このように多数の橋の高齢化(長期供用)に伴う床版対策は、今後も一つの大きな課題として取り組まざるを得ないことが予測される。
2002年からは全橋で床版防水を設置
このような状況ではあるが、床版防水については2002年の道路橋示方書の改訂に伴って全橋での設置が規定され、2007年には道路橋床版防水便覧も改訂された。さらに高速道路の多くを管理するNEXCOにおいては、日本道路公団の時代の1988年から防水に関する規定を設けており、2010年には高機能防水を初めて採用した構造物設計要領が定められた。さらに土木学会においても、路線の交通量や寒冷地等の供用条件に応じた要求性能をカテゴリー分けし、これに沿って防水層の選択を行うとともに、設計、施工の要領や留意点を示した「道路橋床版防水システムガイドライン(案)、2012」をとりまとめている。このような経緯から、今後の床版については耐久性の確保に向けてある一定の効果が期待できると推定される。しかし、現状でもまだ設計、施工上の課題が散見されており、問題を解決するためには現場での品質確保を含めた実施工について検討するとともに、新たな取り組みも必要であろう思われる。
ここでは筆者が得ている情報や経験をもとに、現状における床版防水工についての課題と対策の一部について私論を述べさせて頂き、それが今後の設計、施行上の参考になればと考えている。