起重機船やSEP船を用いて床版を撤去・架設
国交省京浜港湾 横浜港南本牧はま道路を8か月弱で復旧
国土交通省関東地方整備局京浜港湾事務所は、昨年の台風15号で被災した横浜港南本牧はま道路の損傷部復旧工事を5月7日に完了した。災害直後から調査をはじめ9月下旬および10月中旬の2回にわたる検討委員会で論じた方針を基に11月中旬から現地工事に着手し、損傷発生から8か月弱、工事着手から半年弱での工事完了となった。その軌跡について取材した。(井手迫瑞樹)
委員会を2回開催し、早急に方針を決定
PC桁は4径間を取替
調査
2019年9月5日に、本土のはるか南方、南鳥島で発生した台風15号は、本土に近づくほど勢力を増し、中心気圧955hPa、風速45m/sに達し、9日3時前には、非常に強い勢力で三浦半島付近を通過、同5 時前に強い勢力で千葉市付近に上陸(千葉市上陸時にも960hPa、40m/sと勢力を維持)し、関東地方を北東に進み各所で大きな被害を齎した。
神奈川県内では各所で1時間に30mmを超える激しい雨を観測し、横浜では9日3時 50 分までの 1 時間に72.0mm の非常に激しい雨を観測した。8日10時から9日11時までの横浜市内の総降水量は177.5mmに達した。8日夜遅くから9日朝にかけて強風も伴い、9 日の最大風速は、横浜で23.4m/sを観測、海上では大しけとなった。本牧ふ頭部でも施設の損傷や桟橋の損傷が起きている。さらに川崎港では貨物船同士の接触事故が生じており、横須賀港でも海洋実習船に砂利運搬船が衝突する事故などが生じた。
南本牧はま道路の橋梁で被災した部分は、南本牧運河上を跨ぐ3径間連続鋼床版箱桁(約500m)の内、南本牧コンテナターミナル(CT)側の約300m部分と隣接するPC桟橋部110m。走錨して橋梁への激突を引き起こしたのはパナマ船籍の貨物船「M/V Bungo Princess」(6,736t)だ。関空連絡橋の桁損傷、鳴尾橋の桁損傷でも感じたことだが、今次のような自然災害はもはや常態化している。さらには新たに造成した人工島の周りは、利用船舶数に比して避泊スペースが限られたり、海底の状況でアンカーが効きにくい場所がある。今後はこうした状況でどのように安全に停泊させ、強風下での走錨事故をいかに引き起こさせないようにするか、ソフト・ハードの両面から考える必要があるように思える。
損傷の調査を始めたのは9日の台風通過直後からである。といっても桁下は小型船舶が往来する場所であり、船舶航行の安全確保のため、関東地整との『災害時の応急対策業務等に関する協定書』に基づき、(一社)海洋調査協会へ現地調査を依頼した。被災当日からドローンによる上空からの撮影や復旧検討の基になる3Dモデル作成、海上からの目視点検および水中可視化調査による橋脚の状況確認を行った。
その調査結果を踏まえて、災害協定を結んでいる(一社)日本埋立浚渫協会関東支部により、被災を受けた路面上に散乱するがれきの撤去と、一般人の立ち入り禁止など24時間警戒配備を実施した。それに合わせて(一社)港湾技術コンサルタンツ協会により被害調査と施設の健全度評価、概略の復旧対策を立案した。その上で、「横浜港南本牧はま道路復旧工法技術検討委員会」を9月24日と10月17日の2回開催し、約1か月で復旧方針を決定した。
1回目の委員会の結果を受けてPC桁や鋼桁の損傷調査を行ったが、そのためにはまず、損傷した舗装や高欄の丁寧な撤去から始めなければならなかった。調査はそれらの撤去と並行して行われ、復旧工法も並行して検討された。調査は10月末から11月中旬にかけて実際に設計・施工を行う担当者が現地に赴いて確認した。
鋼桁とPC桟橋の境となる橋脚付近を中心に、鋼桁部は鋼床版張出部がめくれ上がるように損傷し、PC桟橋部に至っては2径間において一部のPC桁が脱落するなどの大きな損傷を受けていた。船の激突は1度だけではなく、何度も繰り返して衝突したため、被害が大きくなったようだ。調査の結果、PC桟橋受梁部、PC桁下面、鋼橋部下面、および側面部に損傷があった。PC桟橋部はPC桁の一部脱落および損傷が4径間、PC定着部の損傷があった個所が4径間あった。壁高欄に至っては7径間中6径間で損傷が見られた。その結果、被害が大きい4径間については取替を決定、3径間については、詳細点検や工事の中で健全性を確認し、復旧方法を検討した。
検討にあたっては、埠頭機能を回復するために一刻も早い道路の復旧が望まれる一方で、損傷の影響範囲と健全性を確認しつつその結果を踏まえて撤去や製作、架設を同時並行的に進めねばならない過酷なミッションであった。そのため「ワンデーレスポンスならぬ現地即決や会議即決による『クイックレスポンス』に努め、すぐに次の工程に進捗できるよう柔軟に対応した」(京浜港湾)。
PC桟橋部の支承は、約15mm程度のずれが生じており、交換あるいは補修による使用可否については、PC桁撤去後に判断することにした。また、伸縮装置はPC桟橋部の2箇所について損傷が見られ、全交換または一部交換については引き続き詳細調査を実施のうえ決定した。
鋼桁部は張出床版部がめくれ上がるように損傷
新設時に担当した各社が補修範囲・補修方法をチェック
鋼桁部は船が下から突き上げるように衝突したため、捲れ上がるように損傷した外洋側の張出床版部については取り替えることにした。壁高欄についても一部で損壊しており現場打ちにより打ち替える。ウェブなどでも衝突による変形が見られる箇所については、詳細調査の上、必要に応じて当て板などで補強することを検討した。支承などの損傷は概ねなかった。
これらの設計に関しては、いずれも前回施工した会社が補修範囲・補修方法をチェックした。すなわちPC桟橋部の受梁補修については五洋建設(今次工事の元請でもある)、PC桁の製作に関してはピーエス三菱(同一次下請)、鋼床版部の補修・製作・架設については川田工業(同一次下請)である。とりわけ鋼床版については、撤去範囲の設定にあたって、既設鋼橋の一部を切断・撤去して補修した前例がないことから、一部を撤去することで応力が変化し鋼橋全体に異常な変形が生じないかを確認しつつ、撤去に伴う応力集中を緩和させる施工計画を策定することを目的に、FEM解析を用いて切断順序を決定した。FEM解析の結果から、橋軸直角方向の切断を先行すると施工過程において切断先端位置に非常に高い応力集中が生じることが確認され、予期せぬ損傷が懸念された。そこで、2方向の切断線が交差する予定位置に応力緩和を目的とした直径100mmの円孔を設けた後、その2つの円孔を結ぶように橋軸方向の切断を先行し、最後に床版張出し先端と円孔を結ぶように橋軸直角方向の切断を行う順序とした。
橋脚は受梁部断面修復 PC桟橋部はPC桁を2~3本ずつ起重機船で吊撤去
支承はP3部のみ交換 受梁部は被覆鉄筋を傷めないよう丁寧に斫りだす
撤去(PC桟橋部)
調査の結果、基礎は鋼桁のニューマチックケーソン、PC桟橋部の鋼管杭基礎とも変形は認められず、補修の必要はない。
上部工の損傷部は、まず鋼・PC桟橋共通の工程として、舗装および道路照明灯、壁高欄を撤去した。舗装から壁高欄までの撤去は全て桁上で行い、壁高欄はワイヤーソー用のコア削孔を行った後、乾式ワイヤーソーで切断し、25t吊ラフタークレーンで橋上に撤去、仮置きし、トラックに積み込んで、所定のヤードに運搬し、小割した上で処分した。桁の取替に支障となる鋼桁とPC桁の取り合い部分の伸縮装置は、周囲のコンクリートを斫った後、ガス切断した。
PC桟橋上部工部(損傷している4径間のPC桁は19本/径間)は、まず連結部を撤去し、次いで主桁2~3本ごとに間詰コンクリート部をコア削孔およびコンクリートカッターで桁横締めPC鋼線ごと切断した。切断にあたっては海上に汚泥が落ちない様に桁下端より30mm程度残して切断した。桁下端が一部つながった状態で吊り上げるとクレーンに負荷がかかるので、コア削孔した孔に油圧シリンダーを挿入し、加圧してコンクリートを分割するバースター工法により桁同士の縁切りをした。
間詰コンクリート部をコア削孔およびコンクリートカッターで桁横締めPC鋼線ごと切断
バースター工法により桁同士の縁切り
海上には船の位置と方向を自動で保持する自動定点保持機能(DPS)を有する自航式500t吊起重機船(五洋建設所有『CP-5001』)を配置し、PC桁を2~3本ずつ起重機船のクレーンで吊り上げ、起重機船の貨物搭載甲板に積み込んでいく。通常は仮設構台を設置し、その上にクレーンを搭載するのが一般的であるが、仮設構台の設置時間短縮と施工時の影響の軽減を意図して起重機船による撤去工法を採用した。
船舶を使って撤去した
PC桁の撤去状況/PC桁の撤去完了状況
残り3径間については横締めの損傷が懸念されたため、壁高欄を斫って調査した結果、問題がないことを確認した。断面欠損もほとんど生じておらず、桁の取替や補修は必要ないと判断した。
支承はP3部のみ交換する。19か所の免震ゴム支承が配置されているが、同箇所は15mm程度変形しており、桁を取り外してもその変形が戻らなかったためだ。P3近傍では船体が何度もぶつかった形跡があり、取り分け酷い損傷であったことが分かる。
橋脚の受梁部はPC桁との連結部コンクリート部が部分的に大きく脱落、あるいはクラックを生じ、エポキシ樹脂塗装鉄筋が露出している状態にあった。上部工撤去後、受梁に支保工および足場を設置した上で、損傷部をブレーカーではつり、必要な個所は配筋し、断面修復を行った。鉄筋ごとコンクリートを除去してしまうと復旧用の差し筋を差す場所がなくなってしまう。そのため既存の鉄筋を残すように、またその鉄筋を被覆しているエポキシ樹脂塗装を傷めないように斫らねばならなかった。