京都府所管の松島橋で超緻密高強度繊維補強コンクリートを適用
J-ティフコム 従来の半分以下の厚さで床版補強可能
舗装との間の床版防水工も不要
京都府中丹東土木事務所が所管する同府舞鶴市内、舞鶴野原港高浜線の志楽川渡河部に架かる松島橋の床版補強に超緻密高強度繊維補強コンクリート「J-ティフコム」が使用された。既設床版をWJではつり脆弱部を除去した後、水を散布し、同コンクリートを20mmの厚さで上面打設、その後専用のアスファルト用接着剤を塗付し、表層を打設して完成というもの。従来の床版補強よりもはるかに薄い厚さで補強効果を発揮でき、かつ「J-ティフコムで形成された補強層そのものが緻密で防水効果を有するため、打設後に床版防水を施工する必要が無い」(J-ティフコム施工協会)としている。その内容と施工した松島橋の現場ルポをまとめた。
水分量は一般コンクリートの1/2以下に抑制し
高気密・高強度の硬化体を形成
J-ティフコムは、専用のミックスセメント、鋼繊維、骨材、混和材および水で構成された補強材で、水分量は一般コンクリートの1/2以下と極端に少なく、高気密・高強度の硬化体を形成し、高耐久性を有する。また鋼繊維を2vol.%以上混入させて、コンクリートのひび割れを抑制している。圧縮強度は打設後1日で100N/㎟、管理設計強度28日では130N/㎟と通常のコンクリートの5倍程度の能力を有するほか、引張強度も13N/㎟以上、曲げ強度は35N/㎟以上を有するため、鉄筋も必要とせず、層厚も20mm程度で補修・補強による死荷重増を低減できる。加えて非常に高強度で緻密な層を形成するため、遮水性や遮塩性に優れ、防水層を設置する必要もない。同材料は粘性に対する時間依存性を保持することができるため、打設後の材料の再流動化が可能で、7%を超える急勾配にも対応できる。
床版全面約600㎡ 1日で100kN/㎟の圧縮強度を発現
J-ティフコムの水分が吸収されないよう母材に水を打つ
今回施工した松島橋は、舞鶴港(東港)にほど近い箇所に架けられている橋長49.8m、幅員12.4mの単純鋼I桁×2連の橋梁。橋脚はパイルベント形式であり、1962年に供用されて老朽化も進んでいることから、補修のため、床版全面約600㎡に「J-ティフコム」を採用したもの。
松島橋
既設床版面(WJ後、鉄筋露出部には、防錆剤を塗布)
具体的には、拡幅部と本線(3回に分けた)の4回に分け施工した。まず舗装を切削した後、残アスファルトを研掃し、WJで脆弱層を斫った後、「J-ティフコム」を床版表面に打設する。打設に際しては、同材料の水分量が一般のコンクリートに比べて1/2以下と少ないことを鑑みて、母材に水が吸い取られないように予め床版上面を水で飽和した後に施工する。打設は専用の振動敷き均し機による締固め後に作業台車を利用して左官小手などによる部分的な仕上げを行い、その後珪砂を散布して、散水。追いかけでビニールシートによる養生を24時間程度行う。1日で圧縮強度は100N/㎟に達するため、舗装を打たなくても暫定的に車両を通すことが可能だ。上面舗装はすべての打設が完了した上で全体を敷設する。舗装に際しては専用のアスファルト樹脂系プライマーとJ-ティフコム専用の舗装用接着剤を塗布し、珪砂を散布、その後舗設する。防水工の施工は不要だ。
床版補修フロー/切削/WJによるはつり
既設床版上面の散水養生/材料の運搬/敷き均し状況
J-ティフコム上面に珪砂を散布/養生シートを設置/プライマーの施工
舗装敷設前でも暫定的に通行可能/舗装用接着剤を塗布した後/舗装を敷設して完成となる
攪拌機械は据え付けだけでなく
4tトラックに積んで現場攪拌できるシステムも開発
J-ティフコムは「画期的な新材料を諸外国から導入して開発したものではなく、諸外国研究機関のアドバイスとJ-ティフコム開発者が国内材料の組み合わせとそれを実現するための攪拌用機械や配合プログラムを工夫することにより開発された超緻密高強度繊維補強コンクリート」(同協会)ということ。そのため材料の確実な撹拌が性能を発揮するために特に重要であり、高性能な攪拌機を外国から導入した。容量500ℓの攪拌機の中に、まず300ℓほどのプレミックスしたセメントを投入、一般のコンクリートに比べて1/2以下の水を入れる。投入後しばらくはから練り状態となるが、その後わずかに湿った粉玉のような性状を経て、さらに攪拌していくとだんだんと粘り気のあるフロー性状に変貌していく。その状態になった後、2.5vol.%の鋼製短繊維を投入し、再度攪拌を続け、直下に配置した専用輸送機械に落とし、現場まで運ぶ。練り混ぜ開始から完了までの時間は15~20分ほど。エア量は3~4%程度で「主に敷き均し機に設置してある高周波により振動脱泡を行う」(同)ということだ。
今回は、主にヤードに据え付けた置型攪拌機2基により製造したが、既に4tトラックに積んで、現場で攪拌できる車載型攪拌システムの開発もほぼ終えており、試験攪拌し、製造性能を確認した。
まず、プレミックスセメントの投入/少量の水を入れて練り混ぜを開始する
さらに専用のスチールファイバーを2vol.%投入する/直下に配置した輸送用機械に落とす
4tトラック搭載車上の攪拌機によるJ-ティフコムの製造
同施工
増厚せず補修で耐荷性向上を目指す
今回施工した松島橋は、既存床版の設計厚さ180mm、アスファルト舗装50mmを表面から60mm切削し、さらに脆弱部を確実に除去するため最後の10mm程度をWJではつっている。現在の道示を満たす補強を検討すると、ジェットコンクリートによる施工で、「50mm程度の増厚が必要と考えられる」(同)が、死荷重を増加させない補修対策で、劣化因子の遮断と超高強度特性により、設計当時の床版耐力の確保・向上を目指している。
もう1つの特徴は、既設床版界面とJ-ティフコムの間に接着材を必要としないことだ。今回の現場も写真のように不陸を有していたが、「粘着性の高い材料内の成分が、母材の細孔内に入り込んで、補強層から食い込む形で新旧界面を一体化させている。各種試験によって界面に接着剤を塗布しなくても十分な付着性能を有することは確認済み」(同)であり、接着剤塗布および養生の工程を不要としている。
接着剤を必要としない/材料はチクソ性に富む/打ち継ぎ目はワイヤーメッシュなどで対応
また、一日で100N/㎟の強度を発現するため、短い期間であれば表面舗装を施工しなくても暫定的に供用できる。そのため施工に要する交通規制を大幅に減らすことができる。
打ち継ぎ目については、そのまま(J-ティフコムを)重ねるだけでも十分だが、ワイヤーメッシュまたは、カーボングリッドを継手部に入れることでより性能と品質を向上させることができる。
床版補修補強分野では既に北海道などで数件の実績がある。同協会は、床版だけでなく、大規模更新事業で使われるプレキャストPC床版の間詰部への適用、床版上面に点在する局部的な断面修復、その他のコンクリート部材の補強にも広く適用できる新材料として、普及を働きかけていく方針だ。
元請は宋徳建設。(井手迫瑞樹)