奈良県は内陸県であり、県内に空港、JR貨物線もなく、物流を100%道路により賄っている。そのため、道路整備への要求は他府県以上に高いが、奈良盆地や紀ノ川沿いのわずかな平野以外は、山がちな地形であり、道路整備の難易度は高く、道路改良率も全国最下位レベルとなっている。しかし近年は京奈和自動車道の段階的な整備が進み、県南も紀伊半島のアンカールートとしての国道168号、169号の改良が捗っている。名阪国道などの維持管理上の課題なども含め、県内主要国道の整備、補助国道の権限代行による改良を進める国土交通省近畿地方整備局奈良国道事務所の原久弥所長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
物流手段を100%自動車に依存
道路改良率は全国最下位レベル
――管内の地勢的特徴は
<strong”> 原所長 奈良県は紀伊半島の中央に所在する内陸県です。県の北西部に奈良盆地が広がり、同盆地に県人口の大半が集中しています。ベッドタウンとして大阪との結びつきが強い市町村も多くなっています。ただし、近年脱ベッドタウン化の動きも進んでいます。
奈良県は物流手段を100%自動車に依存しています。空港もJRの貨物線も県内にはありません。道路改良率(5.5m以上の幅員を確保している道路)は全国最下位です。直轄国道は改良されていますが、補助国道は最低レベル(一般国道改良率は73%)です。幹線道路や生活道路も非常に道路整備が遅れています(県内全道路の改良率は約20%)。
奈良県は、日本国発祥の地というべき歴史の古い地域と言えます。世界遺産に登録されるような社寺仏閣も多く、非常に土地を大切にされる県民性があります。そのため用地買収が非常に難しい地域がらともいえます。用地買収しても文化財が出てきますので、道路事業を進める際は、丁寧な説明と調査が他地域以上に大切になります。
とはいえ、奈良県は、企業立地の振興、観光の促進、安全安心な交通という観点から骨格となる幹線道路の整備は必須と言えます。</strong”>
京奈和自動車道、県南のアンカールートを重点整備
東西軸は名阪国道 Ωカーブが課題
――それを踏まえて道路整備の方針は
原 当事務所としては、盆地内外の交通渋滞を緩和する事業が業務の中心になっています。奈良県が進める道路整備5カ年計画(平成26年度版)で、骨格幹線道路ネットワークとして位置づけられているのが、京奈和自動車道や県南部の地域高規格道路などです。奈良県は雨が多く、大台ヶ原などは尾鷲市と同じくらい多雨な場所として知られています。非常に地盤が弱いので、補助国道・県道・市町村道とも、かなりの頻度で通行止めになってしまうことが、南部の道路の弱いところです。
――紀伊半島大水害(平成23年台風12号による)は記憶に新しいところです
原 一部地域で最大約2,000mmの雨量に達した同水害は大きな被害を各地に与えました。災害後、新たな砂防事務所として紀伊山系砂防事務所ができ、大規模な砂防事業を今もなお展開しています。
――管内の道路概要は
原 道路の管理延長はおよそ150kmです。管理道路としては東西軸として名阪国道(国道25号)、新設道路としては南北軸として京奈和自動車道をはじめ、国道24号関連の事業が直轄国道としてはメインの事業となっています。管理しているという意味で言いますと名阪国道は西名阪と東名阪に挟まれた、昔、千日道路(※編注 当時の建設大臣、河野一郎の千日で造るという公約から)と呼ばれたとおり3年で作り上げた無料区間です。針ICから東側は中部地方整備局が管理しています。奈良国道事務所では天理IC~針IC間約17kmを管理しています。
――この間にはきついカーブがありますね
原 Ωカーブと呼ばれているものですね。天理から福住までの高低差は420mに達します。その高低差を埋めるために、最小曲率半径が150mという回り道を作ったものです。
京奈和自動車道(仮称)奈良北IC~奈良IC6.1kmが平成30年度新規事業化
約4kmがシールドトンネル構造 奈良県初のシールド工法で掘進
――個別の道路事業を京奈和自動車道の大和北道路から
原 (仮称)奈良北IC~郡山下ツ道JCT間12.4kmが事業延長です。同事業の構造をお話しすると、(仮称)奈良IC~郡山下ツ道JCT間(延長6.3km)は、郡山下ツ道JCT側から国道24号の現道の上を高架構造とし、JR関西本線を跨ぐ現道の跨線橋があるのですが、それをくぐって線路沿いに右にカーブしつつ盛土構造により奈良ICに到達します。同区間は平成20年度末に事業化しています。
大和北道路概要図(奈良国道事務所HPより抜粋)
詳細図(同)
また、平成30年4月には、(仮称)奈良北IC~(仮称)奈良IC間6.1kmが新規事業化されました。この区間のうち、約4kmはシールドトンネル構造(上下線別)を予定しています。
様々な構造が混在する。奈良県初のシールドトンネルもある(同)
――奈良市内で地下構造ですが、文化財への影響軽減は
原 奈良市は古くから平城宮跡があります。記録類は専ら木簡によってなされたため、度々貴重な記録を伴って出土します。3月には平城宮跡歴史公園も公開されましたが、その資料館を訪れても木片にたくさんの情報が書かれていることが分かります。木簡の保存状態が良い理由は地下水に浸されていたから腐食しなかったためです。
すなわち、地下水位を下げずにトンネルを掘進しなくてはいけない、ということが技術的に最大の課題と言えます。
同地は都市計画決定前から地下水位のモニタリングを続けており、工事を開始してからも続けていく方針です。
地下水のモニタリング/道路構造と地下水帯水層との関係
(第7回「大和北道路地下水モニタリング検討委員会」(平成30年2月28日(水))
資料-4 地下水モニタリングシステムとリスク低減計画(案)より抜粋)
――ということは、施工方法はシールドですね
原 大部分が地下水への影響に配慮したシールドトンネルです。
――深度は
原 深い所で40mぐらいを想定しています。ただし詳細設計はこれからです。
今回の新規事業化にあたって(仮称)奈良北IC~郡山下ツ道JCTまでの区間はNEXCO西日本との合併施工が決定しました。具体的には、西名阪より北側は全て有料道路事業として西日本高速が将来管理することになります。施工区分の詳細決定はこれからです。
――奈良でこれだけの大深度、長距離をシールドで抜くということはこれまでにあったのでしょうか
原 初めてです。
平成30年度業務一覧