国土交通省事務次官に就任した毛利信二氏の建設専門紙記者会による共同会見が2日、国土交通省で行われた。毛利氏は1981年東京大学法学部を卒業後、建設省に入省。建設省大臣官房政策課、国土交通省関東地方整備局建政部長などを経て、内閣府本府産業再生機構参事官を兼務。その後、京都市副市長、国土交通省大臣官房総括審議官、土地・建設産業局長、総合政策局長、国土交通審議官などを歴任後、7月7日から現職。島根県出身、60歳。共同会見のうち建設分野に関係する内容を一問一答形式でまとめた。(大柴功治)
初動と情報の共有、総合力で危機事象に対応
国民の課題に対してできることを改めて考える
――就任の抱負をお聞かせください
毛利事務次官 危機事象への対応と国民目線の国土交通行政の推進を心掛けていきます。災害や事故などの危機事象への対応では、初動と情報の共有、総合力での対応の3つが重要だと思っています。国民目線の国土交通行政というのは、行政は法令と信頼によって支えられていますから、職員一人ひとりが国土交通省として国民の課題に対して何ができるかを改めて考えて取り組んでほしいし、私自身もそのようにしたいと考えています。
国土交通行政の現場は事業者が活躍しているフィールド
現場力、総合力をより高めていく組織運営を目指す
――九州北部豪雨、秋田の大雨と、国土交通省の現場力を発揮しなければいけない場面がありました。災害時や公共事業の対応などを含め、現場力、総合力を生かす国土交通省らしい組織運営のあり方について、どのようにお考えでしょうか
毛利 国土交通省では58,000人の職員の約9割が地方整備局をはじめとする現場で働いています。現場の職員の方々は、地方公共団体や事業者団体の方と連携しながら、日ごろから社会資本の維持管理や、老朽化の問題、防災・減災、災害復旧といった非常に地域に密着した重要な職務を遂行してくれています。九州北部豪雨や秋田の大雨の時には、TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)が災害対策車両も含めて被災地に結集して、被災状況の調査や道路啓開の支援にあたりました。災害に限らず、地域を支える建設事業者の方々や住宅・不動産関係の事業者の方々が活躍されているフィールドこそが国土交通行政の現場ですので、そこをよくみて仕事をする姿勢が重要だと思っています。
国土交通省は幅広い分野を所管していますが、縦割りではなくて横断的に協力することが総合力だと思われがちです。しかし、そうではありません。総合力の発揮の例としては、コンパクト・プラス・ネットワークの政策があります。これは、都市行政であるコンパクトシティの政策と公共交通を充実させるネットワークの行政があって初めてできる政策で、都市政策と公共交通政策の融合となります。
全省的に現場力、総合力の意味を改めて認識してもらい、それらをより高めていく組織運営を心掛けていきます。
社会資本のストック効果は自然に出るものではなく、出すもの
その最大化にむけて生産性革命を推進
――今後の社会資本整備の進め方についてはどのように考えておられますか
毛利 ストック効果の高い社会資本の計画的な整備が重要となります。そのためには、生産性の向上を通じて経済成長を牽引するプロジェクトへの重点投資の必要があると思います。例えば、3大都市圏の環状道路整備や、物流・訪日観光客の拠点となる港湾整備、大都市圏の国際競争力や地域の潜在成長力を向上させるプロジェクトなどとなります。
社会資本のストック効果は自然に出るものではなく、出すものだと思いますので、その最大化にむけて生産性革命を推進していきます。ピンポイント渋滞対策やダム再生など既存の施設の有効活用や、民間の力も活用した駅、街、道の一体整備などの取り組みを進めて、賢く投資し、使うことを徹底していく必要もあると思います。
さらに、i-ConstructionをはじめとするICT、AIなどの新技術を活用して、建設現場の生産性向上とメンテナンスの効率化も加速させていきたいと考えています。このような社会資本整備の計画推進のためには、経済規模に見合った安定的で持続的な公共投資をしていくことが必要だと思います。
時間外労働縮減にむけた取り組みをしなければ、
10年後には建設業界の担い手がいなくなる
――建設業のあり方についてはいかがでしょうか
毛利 建設業は人に支えられて現場で成り立つ産業です。人口の減少、とくに地方ほど若い人が少なくなり、高齢化が進むなかで、たとえば地域の守り手であったり、災害復旧の担い手であったり、我が国の経済を支えてくれている存在であったり、という建設業の重要な役割を果たしてもらうためには、担い手の確保は重要だと思います。
石井啓一大臣のリーダーシップの下で働き方改革を進めて、時間外労働の上限規制を5年後には適用していきたいと考えています。そのプロセスの間に、民間の発注者のご理解もいただきながら発注の平準化や効率化をはかり、週休2日制の実現にも取り組んでいかなければなりません。
新国立競技場の建設現場で若い方が自殺するというあってはならないことが起きてしまいました。非常に残念で遺憾なことですが、日本建設業連合会(日建連)も段階的な時間外労働の縮減にむけて自ら取り組むという姿勢を示していますので、我々もその動きを支援し、より強く推進していかなければならないと思っています。そうしなければ、10年後には建設業界の担い手がいなくなってしまうでしょう。
被災地の復旧・復興が最重要課題
経済成長実現のためにも公共事業予算の安定的、持続的確保が必要
――2018年度の予算編成にむけて、国土交通行政をめぐる各種課題に対応するための基本的な考え方や方針をどのようにお考えでしょうか
毛利 東日本大震災や熊本地震など、多くの災害が起こっていますので、被災地の復旧・復興が最も大事だと思います。また今後のことを考えると、防災・減災、老朽化対策といった国民の安全安心の確保も極めて重要です。社会資本整備の役割としての生産性向上や新しい需要をつくりだす効果で、成長力の強化にも貢献していかなければならないし、地域についても豊かで活力のあるものにしていかなければなりません。とくに、ストック効果を重視した公共投資により経済成長を実現して、経済再生と財政健全化の双方に資するように国土交通省としても全面的に取り組んでいきます。そのために公共事業予算は安定的、かつ持続的に確保していくことが重要となります。
民間の担い手確保の流れのなかで制度改正を考える
――担い手の確保をさらに進める点で建設業界のための法改正のお考えはありますか
毛利 官民をあげて行うことが重要で、国がいくら旗を降っても知らんぷりをされたらどうしようもありません。現在、担い手の確保へむけたうねりのような流れが事業者団体にあることは貴重なことだと思います。その流れを我々が後押しをして、やはりいまの制度を変えたほうがいいとなれば、その流れのなかで制度改正をするべきだと考えいます。
――ありがとうございました