道路構造物ジャーナルNET

2016年我が社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑩日立造船

魅力ある業界の形成を~船舶大型化で港湾事業に期待~

日立造船株式会社
常務執行役員
社会インフラ事業本部長

坂井 正裕

公開日:2016.11.11

 当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業の一つと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を訪ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。11日は、日本鉄塔工業の有田陽一社長と日立造船の坂井正裕常務の記事を掲載する。  

 ――前年度(15年度)の業績をお願いします。
 坂井 昨年度は鉄構部門として5年ぶりに黒字化した。目標達成まではいかなかったが、ほぼ満足できる水準まで到達できた。技術提案や積算精度の向上を徹底して行ってきた結果といえる。不採算物件の処理ができたことも大きい。ただ、装置産業にもかかわらず、いまだに収益すれすれでの入札状況が続いている。
 ジャケット、ハイブリッドケーソンやセルなどの海洋土木事業は、震災復興や防災・減災対策としてゲートや防潮堤なども堅調に推移している。なかでも、埋立護岸の建設方法の1つの根入れ式鋼板セル工法に使用する鋼板セルが増加している。同工法は現場で製作したセルと呼ばれる鋼製の円筒を、海底地盤に順次打ち込み、筒の中に土砂を充填して護岸を構築するもの。鋼板セルは、現地に鋼材を搬入し、溶接でパネル製作と大組立を行うもの。ただし、現場製作のため、工場操業度への寄与度はゼロだ。
 その結果、インフラ事業部門の受注高は前年度比24.5%増の受注高346億円、売上高は同58.8%増の308億円、営業利益4億円となった。
 ――16年度の見通しは。
 坂井 今年度は、国土交通省の案件が厳しくなるとの見通しから、昨年度同様を見込む。大型案件が多かった海洋土木事業もやや減少するとの見通しから、受注高は300億円、売上高は300億円、営業利益7億円を目標としている。なかでも、鋼板セルついては港湾整備事業が国内外でもニーズが高く、コンテナ船や客船などの大型化に対応した岸壁に有用な工法といえる。ジャケットとともに期待できる。
 昨年から組み入れられたシールド事業については、米国・シアトル市で掘進中のシールド機が順調に施工している。首都高速道路横浜北環状線向けは現在製作中。発注が予定されている東京外環道やリニア新幹線の営業活動を推進している。


横浜港南本牧地区岸壁(-18㍍/耐震) 鋼板セル及びアーク製作工事

 ――防災分野については。
 坂井 第16回国土技術開発賞最優秀賞を受賞した「浮体式仮締切工法」に続き、フラップゲート式防潮壁「neoRiSe ( ネオライズ)」(海上・港湾・航空技術研究所と共同)が今年の第18回国土技術開発賞優秀賞を受賞した。同システムは自然の力を最大限に利用し、津波・高潮による施設の浸水被害を防止する。最近の浸水被害の増加に比例して、引き合いが増加している。湾口、港口、河口などに設置するフラップゲート式可動防波堤の引き合いも具体化しつつある。
 また、浮体式仮締切工法はダムの嵩上げの増改築に有効。河川ゲートやダムの改修が増加傾向にあり、どう対応するかを考えていく。
 ――設備投資については。
 坂井 主力工場の広島県尾道市の向島工場は、施設の老朽化が著しいことから建て替える。また、堺工場では、来年度から操業度が高くなることを見越して、先行投資という面から塗装工場を新設する。魅力ある職場づくりとしては、ハード面の充実も必要といえる。
 ――海外事業については。
 坂井 海外事業は、東南アジアを中心に、ODAなどの案件対応活動を継続していく。早く展開しなければならない事は理解しているが、現地に工場を新設して、需要喚起を待つのも冒険だ。社内の他部門が先行している地域に帯同して営業活動を展開していく。
 ――人材確保については。
 坂井 人材確保には、若い人たちに魅力ある業界と感じる業界になることが必要。将来を見通せるための経営基盤となる需要がポイントとなる。企業だけで解決できる課題ではないので業界全体が取り上げて活動しなければならない。
 企業にとって一番大切なものは人材だ。会社に魅力がないとか、十分な給料とボーナスを払える会社でないと転職していく。当社では全社的に若手社員に希望を持たせる「2030年ビジョン」を策定中だ。(聞き手・佐藤岳彦、文中敬称略)

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