福岡県は九州の玄関である。本州とは関門橋、関門トンネルで繋がり、諸外国とりわけ中国、韓国とは玄界灘を隔ててすぐの場所に位置し、アジアから多くの観光客が来訪している。また、商業の中心地としての福岡市、鉄、最近では環境分野も発達しつつある北九州市、自動車産業の集積地としては国内有数の苅田町、穀倉地帯であり、工業も発展している筑後地方などを有し、こうした各地を有機的に結ぶべく、道路建設事業を進めている。その詳細を同県県土整備部道路建設課の野瀬孝行課長に聞いた。(井手迫瑞樹)
――県内の地勢的特徴と道路網の現状について教えてください
野瀬課長 福岡県は、九州の北端に位置し、日本全体で言えば一番西ですが、唯一本州と繋がった交通の要衝であるとともに、国外に目を向けると、韓国、台湾、中国などのアジアから多くの観光客が訪れるアジアの玄関口として、日本経済を活性化する上でも重要な役割を果たしています。
地勢では、北部は玄界灘、響灘、周防灘に、南西部は有明海に面し、北東から南西にかけては、中国山地の延長にあたる筑紫山地が連なり、一級河川は、4水系192河川で、特に筑後川は九州第一の長流で県南部の穀倉地帯を貫流しています。平野は、周防灘に臨む豊前平野、遠賀川流域の直方平野、博多湾に面した福岡平野、有明海に注ぐ筑後川・矢部川流域に九州一の広さを持つ筑紫平野等が開けています。
本県は、二つの政令指定都市を有しており、人・モノ・情報が集積しており、国の出先機関や指定公共機関の本社などが多数立地しています。また、国際拠点港湾である北九州港や博多港、重要港湾である苅田港、三池港や拠点空港である福岡空港や北九州空港、主要ターミナル駅であるJR博多駅などの交通基盤を有しています。道路網では、南北、東西を縦横断する九州自動車道や今年4月、県内において全線開通した東九州自動車道、福岡・北九州都市高速、西九州自動車道(前原道路)、有明海沿岸道路などにて広域的高速道路ネットワークを形成しています。また、国道、県道、市町村道とは互いに効果的に結ばれ、日常生活を支えると共に、産業や経済の発展に寄与しています。
交通の状況は、幹線道路を中心に交通混雑が生じており、特に福岡、北九州、久留米の各市内及び周辺部で著しいものがあります。そのため、改良率では全国平均を上回るものの、整備率では57.3%であり、全国平均62.7%を下回っています。まだまだ道路整備が必要な所以です。
産業の特徴としては自動車産業の集中があります。県北部には4つ(トヨタ自動車九州(宮若市・苅田町・北九州市)、日産自動車九州、日産車両九州(以上苅田町)、ダイハツ九州(久留米市))の自動車メーカーが立地し、これに伴い全域にわたり自動車関連産業が、県南の中核都市である久留米市を中心にバイオ関連企業、研究機関が集積しています。さらに、イチゴ(あまおう)などの県産農産物のブランド化を展開しています。
また「『神宿る島』宗像(大社)・沖ノ島と関連遺産群」の世界遺産登録に向けて県の総力を挙げて取り組んでいます。これら産業や農産物を生かした地域創生のための拠点と広域交通基盤を結ぶ幹線道路などの整備が県の発展に欠かせない重要な要素の一つと考えています。
本県における道路整備の基本的な考え方としては、「福岡県総合計画」を踏まえて策定した「福岡県交通ビジョン2012」の基本理念や将来像に沿って、「活力のある地域社会の構築」と「安全・安心な生活の確保」を二つの柱とした道路整備の体系を構築し、計画的・重点的に取り組んでいます。具体的には、「活力ある地域社会の構築」として、①自動車産業をはじめとする産業振興の基盤となる幹線道路網の整備、②渋滞交差点やボトルネック踏切の解消を図る道路整備、③物流効率化を図るための高速道路ICや空港、港湾へのアクセス道路整備、特に有沿道へのアクセス道路整備、④中山間地域の特色ある産業の振興や若者の定住を支援する道路整備を行っています。
また、「安全・安心な生活の確保」として、①道路幅員が狭小な箇所を解消し、生活の利便性、安全を確保する道路整備、②大規模地震発生時に救急・救援活動などが円滑に行えるよう、緊急輸送道路ネットワークの機能確保対策として、災害防除工事や橋の耐震補強、③地域の利便性や安全性を確保するための生活道路や自転車走行空間の整備、④今後大量に更新時期を迎える、高度経済成長期に集中的に建設された橋梁について、予防保全の推進による長寿命化及び計画的な更新などを行っています。
福岡県の道路整備は、幹線道路から地域の生活道路まで未だ十分とは言えません。今後共、必要な道路の整備を進めていきたいと考えています。
――渋滞交差点はどれくらいあるのか。また、事業中箇所を除く交差点の立体化計画がどれくらいあるのか
野瀬 福岡県交通渋滞対策協議会が平成25年1月に選定した「地域の主要渋滞箇所」では、県内に181箇所の渋滞箇所があり、そのうち県管理道路は30箇所あります。これまでに3箇所が完了し、交差点の立体化やバイパスの建設など15箇所で事業を実施しています。
事業中箇所を除く交差点の立体化計画は事業中箇所の進捗を着実に図るため、現時点ではありません。
大牟田川副線BP 沖端川(おきのはたがわ)大橋が施工中
耐候性鋼材、エポキシ樹脂塗装鉄筋を採用
――進捗中の各事業路線の目的と概要、現況について教えてください。またその中で特徴ある形式あるいは工法適用の橋梁・高架橋、特に建設中の長大・特殊橋、長大トンネルなどについて触れてください。まず県道大牟田川副線からお願いします。
野瀬 県道大牟田川副線ですが、現道の幅員狭小や線形不良といった課題を解消するため、柳川市内の2.4㌔区間で施工中です。そのうち、一級河川矢部川水系沖端川を跨ぐ橋梁を含む、延長1.33㌔の「沖端川工区」については今年度末の供用開始を目指し工事を進めています。
――構造物は
野瀬 構造物は、橋長610㍍、幅員9.5㍍の沖端川大橋(仮称)があります。主径間は、施工中である橋長360㍍(最大スパン170㍍)の3径間連続鋼床版箱桁、側径間は橋長120㍍と130㍍、合計250㍍の4径間連結PCポステンT桁です。側径間は既に完了しております。
主径間は、潮の満ち引きが激しく作業時間が取れないため台船が使用できないこと、浚渫船や漁船の航路高さ、幅を確保することから、河川内にベントを設けないトラベラクレーン片持ち式架設工法にて架設しています。橋脚基礎は、潮位の影響を受け、支持層が約40㍍と深いため、締め切り兼用の鋼管矢板基礎を採用しています。
沖端川大橋の現況
閉合前の沖端川大橋の建設状況
――鋼桁の防食や塩害対策は
野瀬 鋼桁は、LCC縮減のため、耐候性鋼材を使用していますが、沿岸部に位置しており、飛来塩分量が多いため、対策として適用範囲内であることを確認した上でウエザーアクト処理(安定さび生成促進剤)を施しています。塩害対策としては、耐久性向上のため下部工や地覆にエポキシ樹脂鉄筋を使用しています。
――飛来塩分量は
野瀬 平成21年9月から平成22年8月にかけて実測した年間平均値は、左岸側が0.12mdd、右岸側が0.14mddです。耐候性鋼材が無塗装で使用できる限界は0.05mddですが、ウエザーアクト処理すれば0.4mddまで対応できます。実測値から同手法を採用しました。
――エポキシ樹脂鉄筋の使用範囲は?
野瀬 下部工の梁、柱部と地覆内の全ての鉄筋で使用しています。
久留米筑紫野線BP神代(くましろ)橋 老朽化した橋を架け替え
筑後川に架かる橋梁を4車線に拡幅
――事業の概要は
野瀬 県道久留米筑紫野線神代橋は、久留米市に位置し、九州一の長流、一級河川筑後川を跨ぐ橋梁ですが、現橋は昭和15年の架設で老朽化が進み、車道幅員が5.4㍍と狭小で、特に朝夕は交通渋滞が慢性化しています。
このため、交通渋滞の解消や安全性の向上を目的に現橋の架け替えを含む2㌔のバイパスを整備中です。
――主な構造物は
野瀬 新橋は、橋長390.2㍍、幅員22.75㍍の4車線で、5径間連続PC箱桁橋です。架設工法は片持架設工法で、下部工基礎は低水路がオープンケーソン基礎、高水敷が場所打ち杭基礎です。
去る7月15日には上部工の「連結式」が執り行われ、橋梁工事は終盤を迎えています。今後、残る橋面工や橋前後の取付道路の工事を進め、新橋を含む2㌔のバイパスを平成29年度内に供用すべく工事を進めていきたいと考えています。
神代橋は7月15日に連結した
神代橋の建設状況((左写真)平成27年6月、(右写真)平成28年7月の連結式直前)