HOME現場を巡る一覧首都高速1号上野線で初めてPCM舗装による床版補強を採用

現場を巡る詳細

床版上面の被り厚確保および防水性・耐力を向上

首都高速1号上野線で初めてPCM舗装による床版補強を採用

 首都高速道路㈱は、1号上野線上りの中央区日本橋1丁目~日本橋三丁目地内で、PCM舗装によるRC床版の上面増厚補強を進めている。7月28日に現場を取材したので報告する。なお、PCM舗装の開発経緯等については既報のインタビューにも記載しているので未読の方はそちらもぜひご併読いただきたい(井手迫瑞樹)。

 

設計床版厚は160㍉ 実測は120㍉の箇所も

 貫通ひび割れからの浸水により鋼桁上フランジが腐食・膨張

ハンチ部のコンクリートが剥落  

 PCM舗装の開発は、首都高グループ5社(首都高速道路㈱、(一財)首都高速道路技術センター、首都高メンテナンス西東京㈱・東東京㈱・神奈川㈱)の共同研究で進められ、低弾性増厚材の開発は住友大阪セメント㈱、乾式吹付け工法の改良(ロータリーガン、ホース、ノズル)は東和耐火工業㈱、繊維供給装置、減速機、フィニッシャの開発はNIPPOが担当した。PCM舗装が初めて採用されたこの現場は、1960年の東京五輪の前に建設された範囲で、疲労耐久性確保のために一定厚を確保しておくことの重要性が認識される以前に設計されたことから、その床版厚は160㍉しかない(依拠は恐らく昭和31年鋼道路橋設計示方書)。その後、床版下面は鋼板接着工法によって補強されたが、床版上面は舗装打換えのたびに切削機によってカンナ掛けされるように削られ、現在は床版厚がわずか120㍉しかない場所も存在している。そのため、写真のように床版の鉄筋が表面に露出している箇所が散見されるほか、切削機によって鉄筋が引きちぎられてしまった場所もある。

 

切削機に引きちぎられた床版の鉄筋跡(首都高速道路提供)


切削機に引っ張られた床版の鉄筋(首都高速道路提供)


 鉄筋が露出しなくても床版上面の被り厚が全面的に不足しているため、床版内部の鉄筋は雨水や凍結防止剤(塩分)の影響を受けやすくなる。コンクリート内の塩分濃度が上昇すれば鉄筋が腐食・膨張し、床版上面の被り部分が剥離・崩壊し、鉄筋に直接水が接するようになって腐食速度が加速する。さらに、厚さが薄くなった床版は活荷重たわみが大きくなり、疲労耐久性が低下する。被害はそれだけに留まらず、床版の貫通ひび割れから床版を支える鋼桁にまで水や塩分が浸入し、上フランジ上面や側面が腐食・膨張して床版ハンチ部のコンクリートが剥落する。箱桁の場合は上フランジ上面の埋め殺し型枠部に水が溜まってしまい、ハンチ部から水が漏れ出してくることもある。この場合、箱桁上フランジ上面の腐食状況を確認することはきわめて困難である。こういった床版が薄いことによる負の連鎖は創設期に建設された首都高速道路の多くの現場で共通して見られる現象とのことである。


既設床版との一体化を重視し、剛な補強から柔な補強へ

 首都高速道路以外では、床版上面を高性能床版防水で被覆することで床版内の鉄筋に腐食因子が到達できないようにしたり、床版そのものをプレキャストストPC床版など緻密で耐久性に優れる床版に置き換えたりする工事を進めているところもある。かつてSFRC舗装による上面増厚工法が採用された時期があったが、SFRC舗装と既設床版の界面で層間剥離が生じる再損傷事例が報告されたことから、この手法による補強は全国的には広がりを見せていない。層間剥離は既設床版上面に接着剤を塗布しなかったことが原因と考えられているが、既設床版の弾性係数よりもはるかに高い弾性係数を有するSFRC舗装を床版上面に打設したため、交通荷重による既設床版の挙動にSFRC舗装がうまく追従しなかったのではないかと考えている。

 SFRC舗装の材料には超速硬セメントが用いられる場合が多いが、その混合は移動式プラント車(モービル車)が使用される。全国的に鋼床版の疲労損傷対策にSFRC舗装が採用されるようになったこともあり、モービル車の確保が比較的容易な都市部においても、必要台数の確保が難しくなってきている。これがそもそもモービル車の無い地方であればその施工はより難しくなる。

 また、交通規制帯内での施工では、モービル車から打設位置までの材料運搬に一輪車(いわゆる「ネコ」)を使う場合があり、これが作業員の大きな負担となっている。


ネコを使った人力による従来の材料運搬の様子(首都高速道路提供)

 こうしたSFRC舗装が抱える問題を解決するため、モービル車を使わず簡易なシステムで超速硬セメントや砂などの粉体材料の運搬と、エマルションや水などの液体材料との練り混ぜを完了させるため、乾式吹き付け工法(リフレドライショット工法)の技術を利用し、さらに練り混ぜた材料に繊維を均一に混合して床版上面に舗装材料として平たんに敷き均す技術を新たに開発することで実現したのが、ポリマーセメントモルタル(PCM)舗装である。

 

リフレドライショット工法の構成(首都高速道路提供)

 

ロータリーガンによる粉体材料圧送の仕組み(首都高速道路提供)

 PCMはSFRCよりも緻密で水密性に優れるだけでなく、SFRCと同等の強度を有しながらもその弾性係数は既設床版程度の低弾性になるよう配合設計されている。さらに、既設床版上面全面に高性能エポキシ樹脂系接着剤を塗布してPCM舗装を完全に接着させることで、既設床版とPCM舗装は輪荷重に対して一体構造として挙動するようになる。

 輪荷重走行試験機を使った疲労耐久性試験では、厚さ17㌢の床版に対し、首都高で現在最も一般的に採用されている炭素繊維シート格子張り工法によって床版下面を補強した供試体よりも、床版上面5㌢をPCM舗装で増厚した供試体のほうが高い耐久性を有していた(下グラフ参照)。つまり、PCM舗装によって床版上面を補強すれば雨水や凍結防止剤といった腐食因子から床版を守ることができるだけでなく、吊り足場を設けなくても補修・補強が可能である。また、床版上面を補強する工法のため、材料が分離して剥落する恐れが無く安全な上、交通規制だけで施工することができる。


輪荷重走行試験の様子(首都高速道路提供)

 

輪荷重走行試験結果(②:PCM舗装 ③:炭素繊維補強)(首都高速道路提供)

 また、輪荷重走行試験の結果、増厚したPCMは、疲労押し抜きせん断破壊直前まで、層間剥離することなく、床版下面からのひび割れもPCM上面に入ることはなかった。