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補強材に二方向アラミド補強シートを採用

名高速 万場線、大高線約10㌔14万平方㍍を床版補強

公開日:2016.08.24

床版厚、最も薄い個所は190㍉
 千竈工区の床版補強工事現場を取材

 名古屋高速道路公社は、平成27年度から15年間で1,250億円を投じる大規模修繕事業を始めている。その中でもコアになる事業が、供用年次の古い路線の損傷部を対象とした床版補強だ。当該路線は3号大高線、5号万場線、1号楠線、2号東山線、都心環状線(総計37.9㌔)であるが、とりわけ供用年次が古く、従って損傷も進んでいる大高線と万場線を優先して補強を進めている。3号大高線は12.1㌔のうち、高辻出入口~大高間10.9㌔について昭和47年1月に着工し、54年7月25日完成供用している一番供用年次の古い路線である。なお、60年5月には鶴舞南JCT~高辻出入口間1㌔を供用し、その後も出入口を増設、平成23年3月に名古屋南JCTの名二環渡り線の開通により全線を開通している。万場線は54年10月に工事着手し、61年10月27日に全線6.8㌔(名古屋西JCT~新洲崎JCT間)を開通している。特に大高線のRC床版は昭和47年道示書の規定に従って建設されており、床版厚は最も薄い箇所で190㍉程度となっている。万場線の床版も同様に現行の床版厚よりも薄く、疲労による損傷が散見されている。今回はその大高線の笠寺付近、千竈工区の床版補強工事現場を取材した。(井手迫瑞樹)

平成27年度から概ね6年程度で床版補強完了へ
 単なる補強だけでなく剥落防止なども期待

 現在、床版補強を行っているのは、大高線、万場線の約10㌔部分約143,000平方㍍である。発注状況は両路線で予定している数量の5、6割に達し、来年度も大高線の一部を発注する予定。特に大高・万場両線は依拠している道示も古く、床版厚が薄く、なおかつ交通量が多い(大高線73,000台(大型車混入率13.9%)、万場線47,000台(同10.7%)※大型車は4㌧程度以上を指す)ことから、優先して発注されており、平成27年度から概ね6年程度で補強を完了させる予定だ。基本的には毎年行われているリフレッシュ工事などで、床版防水(平成25年以降、複合防水を採用している)を事前に行った箇所から順に床版補強を施工している。

 技術的特徴として、他の発注機関と大きく異なる点は、補強材に二方向アラミド補強シートを採用している点だ。これは母床版の床版厚が薄くかつ損傷が進んでいることから「単なる補強(平成8年道示なみの疲労耐久性に向上させる)だけでなく、押し抜きせん断に対して剥落防止機能を持ち、変状時に形状変化に追随することで、点検時に異常を見つけやすい」こと、「そうした性能を保持する補強方法として、土研での既往の研究成果(※文末参照)などを踏まえてみても、最適であると考えて導入した」(名高速)もの。補強量は床版パネル単位で判断しており、1層貼りの箇所は、比較的母床版の損傷が少ない個所で施工され、2層貼りの箇所は母床版の損傷進行が顕著で断面修復材による補修を多く行っている箇所で施工されている。現在はケブラーを用いた織り形式の二方向アラミド補強シート(目付量は1層870㌘程度)を使っている。但し「それに限定しているわけではない」(名高速)としており、炭素繊維や他の繊維シートについても要求性能さえ満たせば採用していく方針だ。耐用年数は少なくとも30年を想定している。

ひび割れ対策にはIPH工法などを採用

 また、事前調査で0.2㍉幅以上の有害ひび割れが見つかった個所は、ひび割れ注入を行う。ひび割れ注入には、エポキシ樹脂系の低圧ひび割れ注入工法を用いている。なお、床版の損傷状況により強度回復なども期待して補強する箇所については、IPH工法を採用している。

夜間に足場を設置  SKパネルを採用

 さて、今回の現場である。笠寺出入口に近い千竈工区(受注者:昭和土木、延長603㍍、補強面積約10,000㎡)であり、高架橋直下は国道1号即ち東海道が走る。その中での施工のため、下に物を落とすことを防ぐべく桁下全てを重厚な足場で覆っている。今回採用した足場はこうした補修現場で実績の多い『SKパネル』。夜間に片側3分の2車線規制して、一括吊り上げによる足場設置を行った。具体的には飛島にある別ヤードで橋軸方向3×直角方向10㍍のパネルを地組み(端部のみ朝顔も設置)し、トラックで運送して現場ヤードに下し、ワイヤーによる4点吊り上げで順次仮設していくもの。


足場で覆われた上部工

 足場設置後のフローは別表の通り。全て昼間に施工する。2径間分、補強面積で約1,350平方㍍分の施工に必要な標準的日数として約66日間(休工日である日曜や祝日を考慮すると約3か月間)を必要とする。但し、床版の損傷状況によっては断面修復工やひび割れ注入工、シート補強層数が変わってくるためあくまで目安である。


施工フロー

確実な錆除去を求める
 手際よいIPH工法

 千竈工区の床版厚は最薄で190㍉、最厚で210㍉。ここでまず調査工(近接目視、打音、コア抜きなど)を行い、損傷図面を作成する。以前に剥落防止工を行っていた個所(本現場では施工していなかった)では、除去工を施工する。その上でエポキシ樹脂系の低圧注入工法によるひび割れ注入を施工するが、今回の現場ではIPH工法を採用している。昭和土木によると、「施工が手際よいため先行でどんどん進めてもらっている」としている。斫りはカッターやチッパーで施工する。場所によっては100㍉程度斫ることもある。次いで錆除去工を施工するが、「錆をしっかりと落とすことが今後の耐久性向上に影響してくるので確実な処理を求めたい」(名高速)としている。


斫り工/IPH工法によるひび割れ注入①

IPH工法によるひび割れ注入②、③

錆除去工/含浸材塗布工

塩害・ASR抑制を考慮し亜硝酸リチウム水溶液を塗布
 断面修復は慎重に施工

 含浸材は塩害・ASR抑制を考慮して亜硝酸リチウム水溶液(本現場では『エレホン アルカード』)を斫り面に塗布する。事前のコア抜きによる塩分量測定の結果、鉄筋近傍の塩分量が1.2㌔/立方㍍を超えていたことや、大高線の橋脚で以前ASRが散見されていたことから予防保全的に使用したもの。


防錆剤塗布工/断面修復工

 断面修復工は、工事上のネックの一つである。斫り量が最大で100㍉あるため、そうした箇所ではポリマーセメントモルタルで100㍉断面修復する必要があるが、付着強度を考慮すると1回20㍉が限界で100㍉厚では5回以上施工しなければならず、施工後に必要な養生を考えると「一週間はかかる」(昭和土木)としている。また最大で1平方㍍近い面積を断面修復しなくてはならないケースもあるが、そうした箇所はコールドジョイント化しないように半分ぐらいずつ分割して施工する必要があるなど結構な手間を要している。

猛烈に暑い中での施工
 恐ろしく手際よい熟練工

 施工上、一番時間を要するのが二方向アラミド繊維補強シートの施工である。ディスクサンダーなどで表面を丁寧に研掃処理し、表面に含浸樹脂の下塗りを行っていく。並行してその下では補強シートに含浸樹脂を塗布し、当該シート貼り付け部の面積分、下塗りが済んだ個所にローラーで貼り付けていく。次いで貼り付けていった個所にさらに含浸樹脂を同様に刷毛やローラーで上塗りしていく。口で言うのは簡単だが、現場で見ると大変な作業だ。まずこの時期は暑いというか猛烈に熱い。上はRC床版、横は鋼桁、下は足場で密閉された作業ヤードの気温は35℃(8月3日取材時)、湿度は60%。しかし元請に言わせるとこれはまだよい条件なのだそうだ。温度は40℃。湿度は80%近くに上がる日もあるという。「春秋などの良い時期に比べて能率は半分以下に下がる」(同社)。湿度が85%以上になると作業は中止となるが、それ以外はやる。しかし、熱中症を考慮して30分施工したら15分休ませるようにしている。作業者の安全を考慮すると已むを得ない。


二方向アラミド繊維シート

 当現場の作業班(管理者1人、技能者4人)はおそろしく手際よく施工していた。もう1つの制約が含浸樹脂の可使時間の短さだ。15~20分程度しかなく、それ以上になると破棄しなくてはいけない。そのためスピードと見極めが勝負なのだが、同班は「1年以上の熟練した手」(昭和土木)であるため実にスムーズかつ半ばオートマチックに作業を進めていた(一次業者:丸杉建設(株)、二次業者:堀工業(株))。なお、シート同士の継ぎ目は100㍉ほど設けて継ぎ目からの剥離が生じないよう慎重に施工していた。 


含浸樹脂下塗り工/二方向アラミド繊維シートの貼り付け状況①

二方向アラミド繊維シートの貼り付け状況②/二方向アラミド繊維シートの貼り付け状況③

中塗り完了状況/上塗り剤塗布状況

上塗りがほぼ完了した箇所/端部はRTワンガードで剥落防止

端部はRTワンガードで剥落防止

 床版と鈑桁上フランジ境目までは補強シートを完全に貼ることが難しいため、境界面のRC床版側に20㍉幅の遊びを残す。ただ、そのままではそこから剥落が生じる可能性があるため、コンクリート部および鋼桁上フランジ部下面部をラップした形で保護塗装するウレタン樹脂系の剥落防止工(本現場では『RTワンガード工法』)を全延長で施工する予定だ。
今後は作業効率を向上させるため、もう1班増員する方針だ。

 また、足場を有効活用すべく、床版補強後は別発注で高塗着スプレーによる塗装塗り替えを行っていく方針だ。
 現在事業中の床版補強工事の受注者は矢作建設工業、中部土木、中日建設ショーボンド建設、ノバック、横河ブリッジ、昭和土木、淺沼組、鹿島道路、蔦井など。

※・土木研究所(1999年)
共同研究報告書 第235号、コンクリート部材の補修に関する共同研究報告書(Ⅲ)、
炭素繊維接着工法による設計施工指針(案)
・土木研究所(2001年)
共同研究報告書 第262号、道路橋床版の輪荷重走行試験における疲労耐久性評価手法の開発に関する共同研究報告書(その4)
この他、「関連論文の調査や、メーカー聞き取りなどからアラミドの採用を判断」。
(名高速)

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