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全数検査、検査外注の場合元請が検査会社と契約――などが骨子

落橋防止装置溶接不良の再発防止策がまとまる

 国土交通省は12月22日落橋防止装置等の溶接不良に関する有識者委員会(委員長=森猛法政大学教授、右上写真)の第三回会合を開催し、中間報告書案をまとめた。元請に対して全数検査の実施、検査の際に外注する場合は元請が直接契約する、ISO9001を取得した製作・検査会社の利用、溶接作業者の資格確認の徹底を求めるとともに、発注者に対しても抜き打ち検査の実施、契約図書の溶接種別の明確化などを求めている。報告書は速やかに各地方整備局に通達され、自治体に対しても年内に通知する方針。


45都道府県690橋で不具合

 国土交通省では年明けの案件から、契約時に今回の内容を特記仕様書という形で反映する。一方で国土交通省および各高速道路会社で落橋防止装置を設置している5,400橋を調査(上図、以降全て中間報告書から抜粋)しているが、12月18日段階で調査を完了した4,500橋中、長崎、香川県を除く45都道府県690橋で不具合(うち不正は31都道府県433橋)が発見されたと発表した。残る橋梁についても可及的速やかに対応する方針。国土交通省では、これら690橋について、元請に責任があるとして、必要な強度を満たすように補修補強を要請する考えだ。不正を行った製作会社は久富産業(株)(383橋、自治体調査含む。他社は国交省直轄・高速道路各社調査のみ)、(株)マルエヌ野村工業(5橋)、(株)トーカン工業(7橋)、当時の鉄建工業(株)(現エスイー鉄建)(1橋)、(株)八十八工業(10橋、(株)篠田工業と重複2橋)、(株)篠田工業(22橋、(株)八十八工業と重複2橋)、フジタ建設工業(株)(1橋)、有元プラント工業(株)(1橋)、(有)キシマ製作所(1橋)、(株)サンベルコ(1橋)、太陽工業(株)(2橋)、(株)大分東明工業(1橋)。検査会社で不正を行ったのは(株)北陸溶接検査事務所、北海道マテック(株)、(株)トーカン工業、東亜非破壊検査(株)。同様の検査は今後自治体でも行われる可能性があるため、数字は膨らむことが予想される。


不正行為を行った製作会社の製品のうち、不良品が発生された橋梁(久富産業(株)を除く)


外部からは分からない損傷

 記者ブリーフィングで、森委員長は落橋防止装置の溶接不具合が見つかりにくかった原因として、「落橋防止装置の完全溶け込み溶接の特徴として溶接不良が生じるのは外からは視認できない溶接内部であること、大きな地震があって桁が動いたりした時に初めて機能する箇所であり(鋼桁や鋼床版などの部材のように)常時載荷が懸かっておらず、疲労損傷によって(不良が)顕在化しないことが管理上の盲点となり、問題の顕在化を妨げていたと言える」と述べた。その上で不正行為として、①溶接工程の省略、主にガウジング作業の省略。②不正な検査報告書の作成、具体的には検査を一部実施していないにも関わらす実施したように見せかけた検査報告書を作成していた、③不適切な抽出検査に基づいた検査報告書の作成、抽出検査は全体から一定割合をランダムに行うことが求められていたが、数量が守られてなかったり、良品のみを選抜して検査されるよう操作していた、④立会検査時の不正行為、立会検査において検査会社がとっさに探触子の角度を変えることで不良が表示されることを回避する行為を行っていた、⑤品質マニュアルに基づかない社内体制、品質を管理するためには溶接手順、溶接電流、溶接速度というものがあるわけだが、そうしたことをきちんと行っていなかった――という点が認められた。


元請の不十分な品質管理

 製作会社と検査会社が疑似親子関係になってしまったケースも

 その不正が生じた背景として、①元請会社の不十分な品質管理、②製作会社が検査会社と契約、③検査の位置付けに関する検査会社の確認不足、④検査抽出率が不明確――という4点を挙げているが、これは複雑に絡み合っている。例えば製作会社が検査会社に全量から10%抽出して検査させ、それを元請がそのまま出すというケースもあった。これは元請が製作会社の自主検査を盲目的に信じて、自社が本来行うべきである検査を省略したようにも取ることができる。また検査会社も自社が行っている検査が、元請要請の抽出検査なのか、製作会社の社内検査なのかが分からず調査し、なおかつ製作会社が検査会社と契約していたために疑似的な親子関係になり、慣れ合いが生じて不正の温床になったことも考えられる。また、鋼桁など橋梁本体では道路橋示方書において全数検査が明記されているが、落橋防止装置については全数検査の適用は明記されていなかったことも不正を招いた背景として列記された。

 その他、溶接作業者の技量不足や溶接記号の誤認識、確認不足が不具合の原因として挙げられている。


勧進橋の例


検査外注時は元請が直接契約

  全数検査を実施、技術力をさらに重視 

 こうした原因を受けて委員会では、再発防止と共に品質管理の強化策として①検査を外注する場合には元請が直接契約し、全数検査を実施する、②ISO9001を取得した製作会社・設計会社を利用する、③溶接作業者の資格確認を徹底する――などを入札時の条件として仕様書などに明示し、元請会社との契約事項にすることなどが提言された。

 また、製作・検査における不正防止対策の強化は、全数検査の実施について道路橋示方書を改正する形で明記すると共に、それがなされるまでは特記仕様書に記載し、速やかに実行することを求めた。また関係する業界などへの要請として、関係者に対し自浄努力や制度改善等の取り組みを要請することも求める。具体的には、日本溶接協会、日本非破壊検査協会、日本非破壊検査工業会に対して倫理規定の導入や、各種審査の厳格化、検査業務の位置付けの確認徹底、内部調査委員会による原因究明および不正企業に対する対応措置――など。

 発注者の取り組み強化策としては、抜き打ち検査の実施およびその際に非破壊検査の専門家を同行させることや、契約図書における溶接種別の更なる明確化、地方公共団体への速やかな情報提供を求めている。情報提供については年内に通知するとともに、「講習会などを開催して、内容が深く浸透するように努めてほしい」(森委員長)としている。

 また、溶接作業が困難な設計が見られるなどの声もあることから「施工時に溶接が困難とならないように設計する必要がある」とする道路橋示方書・同解説を踏まえた設計を当初から行うように設計会社に再周知することも求めた。

 点検後の補修補強については、損傷程度に応じて①新規製作の装置を設置、②既設装置の溶接不良部分を再溶接、③既設装置の改造(補強部材の設置など)を基本案として示している。是正対象は設計計算上引張応力を受ける溶接継手。


溶接継手の良好部と不良部(左)/溶接の種類と特徴(右)


【記者の目】

 記者会見で森委員長は、物づくりの現場における性善説が崩れていたことを嘆いた。一部の心ない製作・検査会社により落橋防止装置鋼製治具の溶接への信頼を失わせしめ、こうした厳しい検査を導入しなくてはいけなくなったことは、森委員長の言のように痛恨と言わざるを得ない。その根底にあるのはあまりに傾斜しすぎたコストへの意識だろう。ある元請は検査費込の㌧当たり価格で製作工場に発注していたが、「100%の自主検査を行っていた会社もあれば、10%の抜き取り検査で終わっていた会社もあったことが調査で分かった」とし、今回の事態を機に「契約する製作会社には全数の自主検査を求めた上で、自社でも個別に検査会社と契約し全数検査を行うことを既に実施している。その結果、現場に緊張感が漲り品質の向上が図れている」と話している。建築や鋼橋本体で行われてきたことがようやく実施されたわけであるが、状況が改善されていることは良いといえよう。しかし一方で、コストは明らかに上昇する。「特にJIS Z 3060に基づいた傷の指示長さによる傷の分類を検査会社がよりシビアに見るようになり、手間やコストがかかる状況が現出している」ということで、当然不良が検出される個所は従来より増え、ガウジング等の手間やコストは増えていくことが予想される。

 一方で溶接に係る検査費は間接労務費に含まれ、額は特に明記されていない。これは「製作会社の大小、または方針により様々であるため、積算しにくいことが背景にあるのではないか」(大手橋梁ファブ)と聞く。ただ、検査が厳格化されることからコストがプッシュされる傾向は否めず、今後はこうした検査に必要な額も積算に明記することはできないだろうか。きちんと必要額を転嫁できれば、検査会社も製作会社も安心して無理をせず仕事ができるし、ひいては国民の安全・安心を守る落橋防止装置を提供できるのではないだろうか。

 また、今回ISO9001取得会社の活用や溶接技術者の資格確認の徹底なども列記されていた。これは適切な技術力を有する会社を優先的に活用すべきとした施策で評価できる。であればこそ技術に対して適切な敬意(対価)を示すことが重要だ。「入札額は上昇していかざるを得ない」との声があるが、国民の安全・安心を守ることと検査費などの増額を天秤に量れば微々たるものではないか。英断が望まれる。