道路構造物ジャーナルNET

エンドバンド継手とPC縦締めを併用

NEXCO西日本千種川橋 トラス橋上の床版取替

公開日:2020.12.16

 NEXCO西日本は中国道千種川橋の大規模リニューアルを進めている。同橋は橋長上り線210.1m(下り線191.6m)の鋼2径間連続上路式トラス橋+単純合成鈑桁橋で、鋼トラス橋部上面のグレーチング床版の取替、耐震補強、塗替えなどを行うものだ。床版取替はエンドバンド継手を有するSLJスラブを採用するが、一部、曲げ耐力が不足している個所でPC縦締めも併用している。その現場について取材した。(井手迫瑞樹)

貫通ひび割れなどによる塩分を含んだ水が埋設型枠を損傷
 下部工の健全度がグレードⅣ

 同橋は兵庫県佐用郡佐用町の千種川を跨ぐ箇所に架かる橋梁である。

千種川橋(左が上り線、右が下り線、井手迫瑞樹撮影)

 供用時のグレーチング床版の厚さは230mmであり、1996年に既存床版の上面10mmの切削を行い50mmのSFRCを用いた上面増厚を行い、既存床版厚は270mmとなっている、トラスは2主構で、その間隔は7mあり、ちょうど真ん中にストリンガーが配置されている。張出床版幅は両側1.2mで、全幅10m、有効幅員9.1mという構造だ。床版下面にグレーチング床版施工時の鋼製型枠が残置されており、床版の疲労損傷を直接目視点検することは不可能であったが、鋼製型枠の腐食による落下が生じていた。また供用後45年経っていることや大型車10t換算軸重が一億軸を超えていること、凍結防止剤散布量が多い区間であること、コンクリートに海砂を使用していること、鉄筋近傍の内在塩化物イオン量が1.2㎏/㎥を超えていることから、貫通ひび割れなどによる塩分を含んだ水が埋設型枠を損傷させていると判断した。また、床版と同時期に施工された壁高欄において広範囲に損傷が生じていたこと、下部工の健全度がグレードⅣであること等から、床版の健全度をグレードⅣと判断し、床版取替することを決定した。

下部工の健全度はグレードⅣ(井手迫瑞樹撮影)

 同橋は上下線がセパレートな構造であるため、一方を対面通行規制にし、一方を全面通行止めして床版を取り替えるというやり方にした。同地は、降雪量が多く、近くの切窓峠は中国道でも有数の降雪地帯となっている。そのため、雪氷期と交通混雑期を避ける必要があり、交通規制を伴う工事の施工時期は5月のGW明けから8月のお盆前ないし、8月のお盆後から12月上旬の雪氷前に限定されることになった。加えて、千種川橋は200mの橋長があるため、床版取替は春の規制期間では施工が難しく、結果として秋に限定されることになった。
 加えて、本橋特有の事情であるが、当初本工事を受注していた会社が倒産したことから、急遽入札をし直したため、設計・施工一体型の大規模リニューアル工事ながら、準備期間が短くなり、その分、設計や材料、足場、施工上の工夫でそれを克服する必要があった。

工期を考え、足場は一社に限定

足場
 「2018年12月に受注し、翌5月には足場を組まなければならず、足場架設前30日以内の届け出が必要(労働安全衛生法88条2項)なことを考えれば数社の足場を組み合わせて設計するという時間的余裕はなかった」。また、その後の耐震補強や塗替え塗装に重量物が載ること、足場架設がスピーディーに行えること、桁下クリアランスが30mもあり、全て桁上から資材を運ばねばならず架設時により高い安全性が求められることも鑑みて、吊足場には日綜産業のクイックデッキを採用した。また昇降階段には同社のドッキングタワー、内部足場には3Sシステムを用いている。

クイックデッキやドッキングタワー、3Sシステムなどを用いている(井手迫瑞樹撮影)

床版・壁高欄の撤去は全て吊切り
 壁高欄・張出し床版部を先行撤去

撤去・架設
 同橋は基本的に、早朝から深夜まで、日中は床版切断・はつり・ケレン・架設準備を行い、夜間は床版架設、床版撤去、現場打ちコンクリート部鉄筋組立を行っている。同工事では、ジャッキによる床版剥離を行わずロードカッター及びワイヤーソー切断を駆使し既設構造物を吊切りにて床版撤去を行っている。このためクレーンの使用頻度が高く作業が交錯するため昼夜兼行で施工する必要があった。

 壁高欄および張り出し床版部を先行撤去した。線形に従い幅はGL(左主構)側で873~1,311mm、GR(右主構)側で1000~1,529mmと変化するが、橋軸方向は4mごとに切断撤去することにした。まず、4mピッチで橋軸直角方向にワイヤーソーを用いて切断した後、70tラフタークレーンで吊った状態で、ロードカッターを用いて吊切りしていった。片方39ピースで両方合わせて78ピースを8日間で撤去した。

既設壁高欄撤去図(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)

張出床版および既設壁高欄撤去のためのコア削孔

壁高欄のワイヤーソーによる切断/吊切り①

壁高欄のワイヤーソーによる切断/吊切り②

フランジ変形を考慮し、ジャッキによる剥離はしない
 各桁上のブロックはワイヤーソーで水平切断

 次いで、主構間の床版の切断および撤去を行う。クレーンは220tオールテーレンクレーンを用い、A1→P2方向に新設パネル換算で1日3枚分ずつ施工していった(下図参照)。9月27日から施工を開始し、10月23日に全ての床版の架設を完了した。

 同橋は鋼トラス橋であり、床版と接続する桁はフランジ厚の比較的薄いトラス部材及びストリンガーであるため、ジャッキを用いた剥離方法では、「フランジが変形してしまう可能性がある」(同)。そのため、両主構とストリンガーの間の中間部を先行して撤去し、さらに主構およびストリンガー上の床版を撤去する手順で施工していった。具体的には2.2mピッチで橋軸直角方向にロードカッターで切断する。ストリンガーおよび主構の直上はハンチ分が厚めになっているため、中間部と同じ厚さに刃を入れても桁を傷つける心配はない。その上で中間部を橋軸方向にワイヤーソーで吊切りし、各桁上のブロックをワイヤーソーで水平切断し、残った薄いコンクリート部分を手斫りする。


床版のカッター切断


床版支間部の吊切断(中、右写真は井手迫瑞樹撮影)

水平切断するためのコア削孔(井手迫瑞樹撮影)

水平切断状況

ケレン作業/スポンジシールの設置(井手迫瑞樹撮影)

77枚のパネル中、29枚に縦締めPCでプレストレス導入
 死荷重を増やすことなく、曲げ耐力を向上

 ついで、プレキャストPC床版を架設する。
 プレキャストPC床版の版厚は220mmの厚みで発注されていた。しかしP1を中心とした中間支点上に懸かる鉄筋への負曲げ応力を考慮すると、その版厚では十分ではなかった。さりとて、版厚を全体的に上げると死荷重が増加するため、桁補強や耐震補強計画を見直す必要が出てくる。何よりも設計見直しに必要な時間はあまり残されていなかった。そのため、版厚は220mmのまま据置き、中間支点上のトラスによる軸力が流れていく箇所については橋軸方向にもプレストレスを導入し、曲げ耐力不足分を補填することとした。記者が取材した下り線では、77枚のパネルを取り替えたが、プレストレスを導入するのは、その4割強にあたる29枚に及ぶ。P1を支点にして、その前後35.035m分(17枚)に28本のPC鋼材(φ21.8mm)を配置、さらにその前後6枚ずつ(11~12m)に14本のPC鋼材を配置した。SLJスラブに縦締めPCを併用したのは初めてで、これにより死荷重を増やすことなく、曲げ耐力を向上させた。新設の床版パネルは、設計強度50N/㎟、高炉スラグ微粉末50%置換のコンクリートを用い、継手部の鉄筋はエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用している。間詰コンクリートも床版コンクリート同様の成分・性能のものを採用している。

床版線形図

プレキャスト床版断面図


プレキャストPC床版構造図(拡大してご覧ください)

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム