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施行は2021年4月1日から

特化則改正のポイント 溶接作業を行う全事業者が対象

 政府は4月22日付で「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令」(政令第148号)を発表し、あわせて関連法規の改正を発表した。この改正の中で「溶接ヒュームおよび塩基性酸化マンガン」(以下、ヒューム)が特定化学物質(管理第2類物質)に位置づけられた。同改正で金属アーク溶接作業(溶接・溶断・ガウジング等含む)を行うすべての事業者は、相応の対策に取り組む必要が生じることになる。
 これにあわせ、厚生労働省はパンフレットで周知を図っているが、そもそも改正した項目が多くわかりにくい部分もある。以下に主要な項目を一覧表にまとめて解説するが、詳細については各都道府県の労働局もしくは労働基準監督署に問い合わせて欲しい。(文、表作成:川村周)


「改正の骨子」

 今回の改正の基本は、溶接ヒュームを特定化学物質に指定し、含有しているマンガン値で評価するもの。金属アーク溶接を行う全ての事業者は、自社の作業従事者を保護するために、同改正に応じた措置を講じる必要があり、罰則も定められている。

 そもそも、特定化学物質は、水銀やカドミウムのような重篤な健康障害を発生させる物質のことで、作業や保管、管理などの取り扱いを「特定化学物質障害予防規則(=特化則)」で厳格に定めている。

 同改正でヒュームが含まれたことにより、特化則の求める取り扱いを求められることになる。具体的には溶接作業の環境(屋内、屋外)で異なるため、厚生労働省の発行したパンフレットが2種類存在するが、内容は大きく異なるので、以下、一覧表にまとめ、各項目の注釈を本文で補完する。

「屋内作業場で溶接を行う事業者」(表①~③)▽対象=ファブリケーター(規模にかかわらず)をはじめ、プラズマ切断など金属アーク現象を用いた作業(溶接、溶断、ガウジングなど)が対象となるため、鋼材加工業者(1次・2次・シャーリング)などの事業者も含まれる。


「1.全体換気装置による換気または同等以上の措置(表①)」=全体換気装置は“動力による”換気装置が必要で、ない場合は設置が必要。なお、換気能力に規定はない。
また、“同等以上の措置”は局所排気装置などがあるが、一般的に溶接作業において“風”は溶接欠陥を生じさせる原因となるため採用は難しいだろう。


「2.溶接ヒューム濃度の測定(表①)」=求められる措置の根幹となるもので、22年3月31日までに測定をしなければならない。また、測定は、マンガン値0.05mg/m3を超えた場合に講じた措置後、さらに溶接方法や溶材・母材、作業場所を変更した場合に行う必要がある。

 測定には、金属類(鉛及び金属である特定化学物質)に係る第一種作業環境測定士、もしくは作業環境測定機関が実施するのが望ましい。

 同資格は国家資格で、受験には実務経験等の要件を満たす必要がある。自社で資格取得して対応しても良いが、「採取したサンプルを分析する装置が高額で、ヒュームの場合は測定の回数が多くないので、全国の労働局に登録された作業環境測定機関など外部に依頼する方法がベターであろう」(東京労働局)という。

 測定の結果、マンガンが規定値の0.05mg/m3を超えた場合、換気装置の風量を増す等の措置を講じた上で再度測定が必要で、計2回の実施(表②)となる。


 「3.呼吸用保護具の使用と定期的なフィットテスト(表①)」=業界では現行で、「粉じん障害防止規則(=粉じん則)」に則りマスクの着用が義務付けられているが、今改定で特化則が定める「要求防護係数」を上回るマスクを選定し使用しなければならず、事実上厳格化した。

「要求防護係数」はマンガン濃度(最大値)を0.05で割り算した値。濃度規定値の0.05mgなら係数1で、ほぼ全てのマスクが要求を満たすが、仮に0.5mgだった場合、一部のマスクは使用できないことになる。

 フィットテストは、「JIS/T8150に定める方法またはこれと同等の方法」と規定されているため、メーカーや取扱業者等に問い合わせたうえで行うことになるという。また、その結果は、3年間保存しなければならない。


「4.特定化学物質作業主任者の選任(表①)」=特定化学に位置付けられたことにより、作業主任者を選定しなければならない。作業主任者は「特定化学物質及び四アルキル鉛作業主任技能講習」の修了者。同技能講習は全国の労働基準協会などで受講でき、受講資格は特にない。業務は、主に作業者に対する監督で、工場の換気装置の点検(月1回)も含まれる。


「5.特殊健康診断の実施(表①)」=ポイントは健康診断の実施回数が増えること。「溶接業務従事6カ月毎に実施」とされ、診断報告書を労働基準監督署に提出しなければならない。また、これまで各社で実施していた「じん肺健康診断」は、特殊健康診断とは別に行う必要がある。


「6.その他必要な措置(表①)」=特定化学物質への位置付けにより、厳格な管理と作業環境の整備が求められる。必要な措置のうち、あいまいな点を確認したところ、③不浸透性床の設置は、必ずしも工場全体とはいえない⑤対象の運搬・貯蔵~の“対象”とは工場清掃して発生した、ヒュームに汚染された恐れのあるの粉じん全般のことを指す――など微妙な判断が含まれ、各社の規模や環境により取り組む必要のある項目もさまざまなため、詳細は各都道府県の労働基準監督署に問い合わせるのが無難だ。


「経過措置(表③)」=同改正は一部に1年間の経過措置が定められているが、特殊健康診断の実施などは経過措置がないため来年4月1日から実施しなければならない。



現場溶接施工業者などについて

「屋外作業場・毎回異なる作業場で溶接を行う事業者」(表④~⑤)▽対象=現場溶接施工業者、工場溶接請負業社、鍛冶工などの事業者。

「ポイント(表④)」=屋内作業場で溶接を行う事業者との大きな違いは、特定の工場がないため「溶接ヒューム濃度の測定」がなく、それに伴う措置がないことが挙げられる。

 一例として「2.呼吸用保護具の使用」は、濃度測定・結果がないことから、現行の「粉じん則に基づくマスク着用の義務」のまま、特化則に基づく性能規定は求められていない。

 ただ、その一方で溶接作業を行う従業員を保護する責任があるため、「3.特定化学物質作業主任者の選任」や「4.特殊健康診断の実施」などは求められる。


「※印」=表④中の※印は実態として、作業所のオーナーあるいは発注事業者が行うことが多いと思うが、規則上は事業主が措置義務を負うため、作業場で必要な措置が講じられていない場合は、従業員の保護の観点から事業主が折衝する必要があるため、表中に記載されている。

「経過措置(表⑤)」=屋内作業場の場合と同様に一部で一年間の経過措置が設定されている。


「罰則・その他」=同法の違反には罰則が規定されており、最大で「懲役6カ月以下または50万円以下の罰金」が科せられる。

 また、同一作業所内の労働者(別作業者、溶接補助など)については、適用されないケースが考えられるが、労働安全衛生法・第3条(事業者等の責務)に「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」とあるため、民事訴訟などの可能性を考慮すると、必ずしも無関係とはいえないことを留意する必要がある。
(2020年10月8日掲載、鋼構造ジャーナル2020年10月5日号より転載)