道路構造物ジャーナルNET

九重、天ヶ瀬温泉郷、球磨川流域を橋梁中心に取材

令和2年7月豪雨 熊本県南部と大分県西部の被災現場を歩く

公開日:2020.07.15

 令和2年7月豪雨が九州など全国に大きな被害を齎している。3日から日本付近に梅雨前線が停滞し、暖かく非常に湿った空気が継続して流れ込んだため、九州北部地方を中心に広い範囲で大雨となった。降り始めからの雨量は、高知県馬路村魚梁瀬で1241.5ミリ、大分県日田市椿ヶ鼻で1168.5ミリ、熊本県湯前町湯前横谷で1157.0ミリなど、九州を中心に8地点のアメダスで1000ミリ以上に達している。鹿児島県鹿屋市は1146.0ミリ、福岡県大牟田市は955.5ミリの雨を観測し、平年の1年間に降る雨の約50%がこの一週間で降った。また、1時間降水量など、時間別の降水量も九州各地や岐阜県、長野県を中心に観測史上1位が続出した。その影響により、九州各地で道路や鉄道など、交通インフラの寸断も生じている。記者は7月11日から大分と熊本の現場を取材した。(文、写真:井手迫瑞樹、取材協力:片山英資氏(特殊高所技術))

1日目 大分(九重、天ヶ瀬、八代)

 出発は7月11日7時半。博多駅前で片山氏と合流して九州自動車道を南下、鳥栖JCTで東に向かい、最初の目的地、豊後中村駅周辺に向かう。その近傍には、今次水害で流失したJR久大本線野上川第二橋梁があるためだ。途中で大粒の雨に見舞われることもあったが、おおむね天候は小康状態を保ち、九重ICで降りて、豊後中村駅周辺に9時半前に着いた。駅前の北側の家屋や商店は南側に流れる野上川の氾濫により浸水など大きな損傷を受けていた。東側を歩くと野上川渡河部に寺田橋がある。ここは水位観測所が設けられているが、その記録を見ると6日4時あたりから水位が上がりだし、17時には1mを超え、さらに19時には2mを超えた。その後一時小康を得るも、翌4時には3m超、同6時には氾濫危険水位(3.8m)をはるかに超える4.6mを観測した(その後は欠測状態を経て閉局)。
 橋の高欄には木材が引っ掛かり、中央部の高欄は流失している。この高さまで水が来たことを示している。


寺田橋①(左:右岸から撮影した状況、中:右岸川下流が抉れている、右:高欄の一部流失)

寺田橋②(左:左岸川上流の損傷状況、中:水の流れの痕跡、右:『昭和41年2月竣工』)

寺田橋下流右岸は堤防が壊れ、家が酷く損傷していた

 その下流に架かる第二野上川橋梁は、川の流れの方向に橋桁が斜めに曲がっていた。橋脚は達磨落としのように割れ落ちている。目測すると無筋コンクリートのようだ。橋桁に引っ張られたのか、橋脚が先行して崩れたのか分からないが、2017年7月の花月川橋梁の崩落もある。本当にJR九州には河川内橋梁の補強に努めていてほしい。


JR久大本線第二野上川橋梁① 寺田橋から望む

JR久大本線第二野上川橋梁② (左:左岸側から右岸側を望む、右:大きく下流側に曲がった桁)

JR久大本線第二野上川橋梁③ 右岸川上流から望んだ状況

JR久大本線第二野上川橋梁④ (左:橋脚は無鉄筋のようだ、右:右岸側の桁は下流に流されていた)

 傍らのPC枕木は横に割れていた。両岸のレールは桁に引っ張られて下流側に大きく曲がっていた。


JR久大本線第二野上川橋梁⑤ (左;右岸側アプローチ部レールの変状、右:PC枕木の亀裂)

 その上流の野上川渡河部に架かる国道210号の橋や久大本線の橋は無事だった。


第三野上川橋梁は無事だった

国道橋も下流の護岸は損傷し、桁下には漂流物が引っ掛かるも

橋は無事であった

 国道210号を西に向かうと九重町奥野近くで、九酔渓(鳴子川)の対岸(左岸)の斜面が大きく崩れているのを見つけた。急遽、栗野交差点を左に曲がり、左岸側の崩落している個所に向かう。その手前で大きく道路が陥没していた。山側を見るとカルバートが倒木や土砂で塞がれ、行き場を失った水がその横を流れ、大きながけ崩れを齎していた。


九酔渓の対岸が大きく崩れている/近づいてみるとカルバートを流木や土砂が塞ぎ、行き場を失った水が道路の上を流れ土砂崩れを招いたようだ

 山を迂回し、陥没した道路の反対側(九重町栗野)に行くと、井手のバス停前の民家の敷地内から水が流れ出ている。雨は降っていないのにかなりの量だ。調べてみると、農業用水用であろうか暗渠がたくさんある。地下水も豊富なのだろうか。道路は陥没箇所以外崩れていない。河川の増水による被害よりも地下水や沢の水を流せなかったことが、ここでは被害を齎した原因のように見えた。


民家の敷地内から水が流れ出ている/庭の一部が土砂で埋まっていた

10号暗きょと書かれてある。少なくとも10本以上の暗渠があるということか

 再び210号に戻り西進し、天ヶ瀬温泉に向かう。しかし、慈恩の滝付近で通行止め。


慈恩の滝付近で玖珠川を渡河する場所に架かる道路橋(左)および鉄道橋(右)

 やむなく山側を大きく迂回し、途中で徒歩し、天ヶ瀬温泉郷に入る。玖珠川の両岸に連なる温泉街は、大きな被害を受けていた。成天閣(吊橋の宿として有名)の吊橋は、右岸側の桁が一部欠けていた。新天瀬橋(1983年供用、63m)は報道されている通り落橋し、50mほど下流の左岸に流されていた。温泉街のあまりの被害の大きさに言葉を失う。水が引いても、同じような水害が生じれば、また街を洪水が襲う。橋梁の架け替えも含めて、景観面も考慮しながらどのような治水を行うべきか、考えなければならないだろう。


天ヶ瀬温泉郷の被災状況

成天閣の吊橋は右岸側の一部の桁が流失していた

落橋した新天瀬橋の桁

新天瀬橋は63mの単径間鋼アーチであったのだが……(手前左岸、奥が右岸の橋台)


左岸側と/右岸側の橋台 支承の損傷状況は何を物語る?

 来た道を引き返し、高速道路に乗り、熊本に向かう。行先は球磨川周辺だ。日奈久ICで高速を降り、国道3号を北上、日奈久温泉交差点で右折し、県道258号を東進、県道60号に合流し、八代市坂本町の球磨川渡河部に架かる葉木橋に到達した。道すがら支流の鶴喰川、百済木川の損壊状況にこれまた言葉が出ない。ここも溢水のため大きな被害が生じていた。橋もほとんどが欄干を無くしていた。


多量の水が勢いよく流れる鶴喰川。身の危険を感じる

ガードレールが曲がっているが桁自体は無事/クリアランスが高い位置にあるため無事な橋桁

左:手すりが流失し、橋面上に漂流物が堆積している。ここまで水位が上がったのだろう
右:護岸および路肩が崩れている


手すりが全部さらわれている/木製の歩行用吊橋? がかかっていたが大きく損傷していた

 葉木橋は無事であったが、上下流とも左右両岸とも大きな被害を生じており、落橋した道路橋や鉄道橋の現場には近づくことは到底できない状態であった。時計の針は17時を超え、雨脚も強くなり、球磨川やその支流から離れたほうが良いと判断。八代市内のホテルへ投宿した。


葉木橋は無事だった(右岸下流から映す)

葉木橋右岸下流側の道路陥没 護岸を超えた水が抉ったのだろうか。鋼矢板が曲がっている

葉木橋左岸上流側の損傷状況

葉木橋左岸下流側の損傷状況 1車線が損壊している箇所や橋面上に壊れた舗装が堆積していた橋も

その橋の橋台背面の道路は完全に崩れ、深水橋の方には到底行くことができなかった

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