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合成鈑桁やPC合成桁の施工に新工法・材料を積極適用

NEXCO中日本名古屋支社 中央道中津川IC~園原IC間の3橋を70日弱で床版取替

公開日:2020.02.24

 中日本高速道路名古屋支社は、昨年10月15日から12月20日にかけて、中津川IC~園原IC間で昼夜連続対面通行規制による床版取替を主としたリニューアル工事を行った。同工事では、サブマリンスライサーやキャップスラブ、クロスリンクステージ、スリムクリート、スリムファスナー、フルプレキャスト壁高欄といった新技術を活用し、工期短縮と品質向上を両立させるべく工夫が施された。今工期内の工事対象は、落合川橋(下り線)の合成桁部、上田川橋(下り線)の東半分、新茶屋橋(下り線)で、上り線を対面通行とし、下り線側の橋梁床版を取り替えた。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)


橋梁位置図(NEXCO中日本提供、以下注釈無きは同)

開通後40年以上が経過
 年平均34.7t/kmの凍結防止材を散布

 今回の工事は大林組・JFEエンジニアリングJVが受注して工事を進めている中央自動車道(特定更新等)柳樽川橋他9橋橋梁補修工事の一環。既に、別工事で松ヶ平橋(下り線)(当サイト既報)、山中橋(下り線)、の床版取替が完了しており、本工事の対象では、落合川橋(下り線)の鋼逆ローゼ部分、沓掛橋(くつかけ、下り線)、上田川橋(かみたがわ、下り線)の西半分の床版取替を完了している。
 中央自動車道の園原IC~中津川IC間は、開通後40年以上が経過している。平均断面交通量は約25,000台で大型車混入率は約38%に達する。輪荷重の繰り返しによる床版劣化に加えて、凍結防止剤の散布(平均: 34.7t/km/年)による塩化物の浸透によって、床版下面の浮き・剥離、アスファルト舗装面のポットホールが発生している。さらに床版内部の塩分量を測定したところ、鉄筋近傍値で腐食発生限界濃度を超える箇所(新茶屋橋:最大7.95㎏/㎥)も確認された。こうしたことから床版補修や増厚などの補強ではなく、床版取替という抜本的な対策を行うに至った。

5%縦断、7%横断の勾配を有する
 4径間をジョイントレス化 キャップスラブとリンクスラブを適用

上田川(かみたがわ)橋(下り線)
 まず上田川橋である。同橋は橋長125mのPC単純合成桁橋×4連で、既設床版厚は210mmである。縦断勾配も最大で5%弱に達するが、横断勾配はさらに激しく最小で6%弱、最大で7%に達する(右図表、NEXCO中日本提供、以下注釈無きは同)。凍結防止剤の影響により橋梁全体の劣化が進行しているが、とりわけ床版端部の被り部が剥落し、主鉄筋の腐食が進行している(右写真)。低勾配部のジョイント近傍や地覆高欄継ぎ目部からの漏水により端部や床版裏面に水が回り損傷を激化していったことは想像に難くない。同様に床版防水の未設置から路面側の土砂化なども進んでいった可能性がある。そのため、今次のリニューアル工事では走行性の改善と、長期耐久性の向上を目的として、4径間をジョイントレス化することとした。前期(春)に西側のA1~P2間(P2支点上除く)の床版取替を完了しており、今回はPCaPC床版を32枚架設し、継手部や場所打ち部も併せて656㎡を施工した。
 上田川橋は、当サイト既報の沢底川橋のように連続PC合成桁ではないため、発注時は現状と同じく現場打ちRC床版に打ち替える予定だったが、現場は全ての工事の前提として「道路法95条に基づく協議結果から対面通行期間を70日以下にて対応することになった」(同JV)という要求があった。ウォータージェット(WJ)で既設主桁から突出しているスターラップ(あばら筋)、ずれ止め鉄筋及びハンチ筋をはつりだして再利用し打ち替えるやり方では、期間内に床版打替えを完了できる見通しが立たないため、キャップスラブ工法とリンクスラブを用いる手法を採用した。


全体工事工程

 今回用いた手法は、まず壁高欄・地覆および張出床版部をワイヤーソー及びスラブカッターで撤去し、次にスラブを支保工で仮受けして、桁間の(中)床版部分をスラブカッターで切断して撤去する。最低勾配部のみ吊り切りし、他は支保工で支えながら切断していた。次いで、PC桁の上の床版部分をワイヤーソーで水平方向に撤去し、不陸調整を施す(既設のずれ止め鉄筋もすべて切断する)。既設床版の撤去にWJは一切使用しない。
 同橋では既設床版を全て撤去してから、新設のキャップスラブを架設し、ずれ止め鉄筋を打ち込んで無機系のあと施工アンカーで固定する(ここではセメフォースアンカーを用いた)。ずれ止め鉄筋は最小ずれ止め量規定を満たすため(道路橋示方書11章、平成14年3月)、1断面1主桁あたりD22を3本配置し、橋軸方向の標準配置間隔を500mmとした。



上田川橋の床版取替① 舗装切削/コア削孔/壁高欄の吊切り

上田川橋の床版取替② 床版のカッター切断/中スラブの撤去/床版の架設

上田川橋の床版取替③ スリムクリートの打設/壁高欄の設置/床版防水工の施工

 キャップスラブはその名の通り、床版下部にキャップのようなハンチ形状を有するプレキャストPC床版だ。標準厚220mmを確保した床版の下にハンチ形状を取付けて、既設主桁の上フランジを挟み込むような形状となっている。床版下のキャップと既設主桁の上フランジが接することで、負曲げによる床版の変形を抑制し、床版上縁の引張応力を低減することが可能だ。結果として、既存橋面高を変えることなく、プレキャストPC床版を設置することができた。また、ハンチ筋などをはつりだす手間も省けた。



実際に施工されたキャップスラブ/内面には微妙に形状がある(いずれも井手迫瑞樹撮影)

 キャップスラブと主桁の間は、超速硬性の無収縮モルタル(50N/mm2)を充填し、ずれ止め鉄筋用の孔にも超速硬性の無収縮モルタルを充填して床版と一体化した。キャップスラブの側面部分(桁を把持する部分)は「圧縮力のみがかかる場所であるため、桁から床版内部に定着させるハンチ鉄筋は不要」(同JV)ということだ。


超速硬性の無収縮モルタル(『セメフォースアンカー』)を充填/継手幅は短い(井手迫瑞樹撮影)

 リンクスラブは、床版のみを連結し、ジョイントレス化を実現するもの。一般的には鉄筋やPCケーブルを配置して連結させるが、本工事では、鉄筋やPCケーブルの代わりに、支点部の負曲げ部のPCaPC床版に縦締め用の中空PC鋼棒(NAPP)を使用して床版連結を実施した。単純桁を連続化する場合は、桁連結と内および外ケーブルを併用して連続化するのが一般的であるが、70日の規制時間しか与えられていない状況下では、ケーブル配置、グラウト、定着の時間が取れないためだ。

 床版連結構造となるリンクスラブでは、連続桁構造と比べて中間支点上での負曲げが著しく低減されるため、既存構造の挙動を大きく変えずにジョイントレス化を実現している。支点部にNAPPを使用するのは、支点部に生じる負曲げに対して、床版コンクリートにひび割れを発生させないことが目的で、工場製作時に橋軸方向にプレストレスを導入した。これにより現場での軸力導入作業が不要となり、作業量を大きく減らすことができた。


リンクスラブ(床版製作時)

 なお、外ケーブルによる二次力(不靜定構造の場合、プレストレス力導入時、部材の変形が拘束される。これにより生じる不靜定力のこと)が発生せず効率的なプレストレスが働くため、必要なプレストレスは、1主桁あたりNAPP60Tユニット6本程度(620kN相当)で済む。これにより全ての範囲で床版コンクリートのひび割れの発生を抑制できる。

 こうした計算やプレキャストPC床版の設置を確実にするため、事前に3Dで詳細に計測して床版の形状を決定・製作し、なおかつ架設直前に(切断した桁状況を)計測して、現場で調整しながら架設した。架設は220tオールテーレンクレーンと550tオールテーレンクレーンを1台ずつ使って施工した。220t級は前期に取替えたA1~P2間に配置し、作業半径28mの範囲でP2支点上のリンクスラブと、P2~P3間の8割程度のPCaPC床版(全32枚中11枚)を施工した。また、550t級はA2に隣接する土工部に配置し、作業半径52mの範囲で残り部分(同21枚)を施工した。撤去時のパネルサイズは張出床版部が1ブロック当たり橋軸方向約4m×橋軸直角方向約1m、約5tで合計30ブロック、中間床版部が同7.5m×1.8m、約9tで合計24ブロック、桁上部床版が同2.5m×0.8m、約3tで合計96ブロック、新設PCaPC床版は、1枚当たり橋軸方向1.79m(1.85mせん断キー含む)×橋軸直角方向10.5mを32枚架設した。

 床版同士の継手はスリムファスナー®を用いた。間詰コンクリートにスリムクリートという鋼繊維を2vol.%混入した圧縮強度180N/㎟に達する超高強度コンクリートを使用しているPCa床版の継手工法。継手部の鉄筋は橋軸方向の非接触の重ね継手だけで良くなり、鉄筋同士の接合や橋軸直角方向の配筋も不要とし、かつ間詰幅は210mmと従来よりも各段に短くなっている。スリムクリートは耐久性が高いコンクリートであるため、間詰部の鉄筋はエポキシ樹脂塗装鉄筋である必要はないが、床版には耐久性照査の結果、エポキシ樹脂塗装鉄筋が必要であった。床版内に配筋される鉄筋は1本物であるため、結果的に間詰部に突出している鉄筋もエポキシ塗装を施している。(同橋と落合川橋は筒井工業、新茶屋橋は長泉パーカライジング)を使用している。また、PCaPC床版およびPCa壁高欄は高炉スラグ微粉末を50%置換したコンクリートを使用している。一部、主に橋台および架け違い部の伸縮装置回りの高密度配筋箇所に場所打ちコンクリート部がある。同箇所には50-18-25Hの配合を採用し、膨張剤を20㎏/㎥添加したコンリートを用いた。フライアッシュや高炉スラグは採用していない。

 壁高欄はフルプレキャスト壁高欄を今次の3橋全てに用いている。同壁高欄は高欄と床版、高欄同士の連結をアンカーボルトおよび曲がりボルトにより接合し、連結後に切り欠き部へ無収縮モルタルを充填して仕上げる簡易な構造であるため、現場打ち壁高欄を構築することに比べて2~3割の工期短縮が可能だ。また通信管路の配置が可能な構造にもなっている。


3橋ともEMC壁高欄を採用した

 施工に際しての足場はNDシステム(ダーウィン)を用いた。
 床版防水はHQハイブレンAU工法を採用した。

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