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第58回 モニタリング技術考

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.10.16

3.まとめ

 モニタリングの設置は、今後、増加する方向である。橋梁だけでなく、トンネルや擁壁、のり面・斜面部や建築物等、多くのインフラに利用価値があると考えている。私が最初に開発に携わったのは20年前。NTTの研究所と光ファイバーを利用したものについて行った。10年ほど前には、実際に国土交通省の関東整備局と土木研究所と一緒に、施工後早期にクラックが入ってしまったPC箱桁に載荷試験などを行い、設置。その後、四国地方整備局の鋼床版のトラフリブの溶接疲労クラックの監視用に設置。さらにその後、数橋に設置し、思ったようなデータが取れなかったり、予測しなかった事態に陥ったりしたが、実際に試してから20年来ている。モニタリングシステムは使い方さえ間違わなければ有効な手段である。


光ファイバーの設置例(三井住友建設)

モニタリングシステムへの試行例:五福4号橋(土木研究所・RAIMS)
(上写真)現地実証試験状況(右写真)センサー設置状況(左写真)解体後、土木研究所での破壊試験

 問題なのは既述したように目的を見失い、実用なのに研究目的のデータを採取したりしてしまうから、わからなくなってしまう。システムの理解もできず、コンピュータを使いこなせないものが、設計システムを使った設計を行い、うまくいかず「このシステムは使い物にならない」とよく言われたが、そうではなくて、あなた自身が使い物にならないのだ。
 道具を使いこなせないということは、能力がないということである。そういうものが、道具を使ってはいけない。今後、ドローンやAI、自動化施工やBIM/CIM、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)も同じことが言える。モニタリングシステムは新技術の中でもすぐにでも使えるものである。インフラの老朽化に有効に使い、ぜひ業務を軽減してほしい。そういう意味で取り上げられていると思うが、うわべだけで安易に設置しても、無用の長物である。自分に責任があるということがわからない人間である。こういった新技術の採用もどうしたらよいかということが、最近よく言われるし、相談される。


富山市・八田橋でのBIM/CIM⇒DX

「ニーズとシーズのマッチング」というと美しい回答だが、私はそれよりも、人間、判断する人間が一番重要であると考えている。十分な知見を持った人間が判断し実施していく必要がある。
 設計ミスに関しては、永遠の課題であろう。そもそもが、日本のコンサルが実際に物を作るという視点に立てていない。海外のコンサルは現場も経験できている。机上だけでは解決しない問題が多いし、何よりも身に染みていない。
 かつて、メーカーの設計にいた時は、役所からの電話よりも工場や現場からの電話のほうが怖かった。遠慮なく怒られるからである。裏設計という暗黙の制度も昔はあり、これを野放しにしてきた結果が今日である。さすがに近年は裏設計はなくなってきたが、そのために設計瑕疵がよく現われるようになった。しかし、大部分はメーカーさんやゼネコンさんが何とかしてくれているという事実もあり、これがわからない設計者も意外と多い。こういうことが初期建設時の不具合にもなり、今後の維持管理に大きな暗雲を残している。
 いい加減なことをしてきたリスクが後の世代にのしかかる。我々はそうしたくはないが、どうだろうか? 設計ミスに遭遇すると、本当に腹が立つ。協議を十分に行い、協議中に訂正したり、業務終了後でも早期に発見されれば大した問題にはならない。時間が経つにつれて、取り返しがつかなくなり事情が変わってくる。対処法も限られてくる。どう対処するか、決断しなければならない。これができるかどうかである。きれいごとでは収拾は付かない。

 何度も書いているが、技術者の世界というのは、修行の世界である。数年で異動になる役所の世界では、とてもとても専門家にはなりえない。深いところにはいけないし、安易に専門家と言われるのは本人のためにならない。その辺をわきまえ、わからない部分をわかっている人間に相談することが重要である。その相手も取り違えると、全く意味がなくなるし、かえって害になる。これも結構わかっていない方々が多い。きれいごとに騙されてはいけない。自分の判断軸をどう据えていくかということも大事である。
 実際に使う側としては非常に気になった。おそらく読み手がどうとらえるか? だとは思う。これを読んでいる方は、研究者は少なく、実務家が多いと思う。最近、実務家が少なくなった。少なくとも実際に物を作らなければならない人たちは、物事の本質を見極めないと、リスクは自分に向いてくる。「使えない設計」ということも書かれていたが、使えない設計をしたと言われないようにしたい。かつて、設計のシステムは使えないと文句を言っていた人たちの設計は、果たして使えたのか? 多くの人の迷惑の上に成り立っていたのではないか?
 最近つくづく思うのは何をやるにも、結局は人である。
(2020年10月16日掲載、次回は11月16日に掲載予定です)

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